第6話 敗走
ティアンム艦隊。
ティアンム「全軍、ソロモンへの攻撃を中止。後退せよ」
命令は全艦へ送信された。
しかし。
命令を出したからといって、即座に艦隊が撤退できるわけではない。
すでに戦線は混乱していた。
ジム隊は各所で分断されている。
損傷艦も多い。
推進器を破壊された艦。
主砲を失った艦。
MSカタパルトを破壊された艦。
そして。
何より。
兵士たちが混乱していた。
連邦兵「撤退命令!?」
連邦兵「ソロモンは目の前だぞ!」
連邦兵「もう少しだったんじゃないのか!」
隊長「命令だ! 後退しろ!」
連邦兵「でも!」
隊長「敵の新型と戦うな!」
連邦兵「新型って、あの大型機ですか!?」
隊長「大型機だけじゃない!」
連邦兵「……」
隊長「全部だ」
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## 214機
ゲーマルクと交戦した四百二十一機。
撃破、二百七機。
中破・戦闘不能、三十一機。
損傷しながらも行動可能、四十六機。
ほぼ無傷、百三十七機。
戦闘開始から。
十一分四十二秒。
四百二十一機あった部隊のうち、戦闘可能なのは百八十三機まで減っていた。
そして。
その百八十三機にも。
戦意が残っているとは限らない。
連邦兵「来るぞ!」
一機のジムが急旋回する。
だが。
ゲーマルクは来ない。
連邦兵「……?」
別のジム。
連邦兵「大型機は?」
連邦兵「反転した!」
連邦兵「帰っていく?」
連邦兵「どうして?」
誰にも分からない。
百八十三機。
まだ戦える。
少なくとも。
数字だけなら。
だが。
ゲーマルクは。
興味を失ったように。
戦場から離れていく。
連邦兵「……助かったのか?」
誰も。
答えなかった。
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## ティアンム
オペレーター「大型MS、後退!」
ティアンム「追うな!」
参謀「当然です!」
ティアンム「違う。全軍へ通達しろ!」
ティアンムは机を叩いた。
ティアンム「あの大型機を追うな!」
オペレーター「はっ!」
ティアンム「遭遇しても交戦するな!」
参謀「中将、それでは――」
ティアンム「勝てん!」
艦橋が静まる。
ティアンム「四百二十一機をぶつけた」
ティアンム「二百七機が撃破された」
ティアンム「三十一機が戦闘不能」
ティアンム「敵は無傷だ」
誰も反論できない。
ティアンム「次は何機送る?」
参謀「……」
ティアンム「五百か?」
参謀「……」
ティアンム「千か?」
参謀「……」
ティアンム「千機送れば勝てるという保証があるのか?」
沈黙。
ティアンム「ない」
ティアンムはモニターを見る。
ティアンム「千機送れば」
小さく。
ティアンム「千機失うかもしれん」
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## ハマーンの命令
サダラーン。
オペレーター「連邦艦隊、後退開始!」
ハマーン「確認した」
オペレーター「追撃しますか?」
ハマーン「する」
オペレーター「はっ!」
ハマーン「ただし」
全員がハマーンを見る。
ハマーン「全滅させる必要はない」
オペレーター「……」
ハマーン「ソロモンへ戻って来られないようにしろ」
オペレーター「具体的には?」
ハマーン「MS部隊を分断。艦隊の推進機関、主砲、カタパルトを優先して破壊」
ハマーン「救命艇には攻撃するな」
ハマーン「救助活動中の艦にも手を出すな」
ハマーン「武装を放棄したMSも撃つな」
ハマーン「後退するだけの敵を深追いする必要もない」
オペレーター「了解!」
ハマーン「目的はティアンム艦隊の殲滅ではない」
ハマーンはソロモンを見る。
ハマーン「ソロモン攻略作戦を終わらせることだ」
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## 追撃
ドライセン隊。
隊長「前方、ジム二十四!」
ドライセン兵「こちら十二!」
隊長「攻撃してくるか?」
ドライセン兵「……いえ!」
ジム隊。
反転。
逃げる。
隊長「追うな」
ドライセン兵「了解」
別方向。
ジム十八機。
こちらは。
攻撃態勢。
隊長「来るぞ」
ジム。
射撃。
ドライセン。
散開。
隊長「迎撃」
戦闘開始。
二分後。
ジム。
撃破九。
戦闘不能四。
残り五。
武装放棄。
隊長「攻撃停止」
ドライセン兵「了解」
生き残ったジムは。
そのまま。
戦場を離れた。
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## ズサ
連邦艦隊。
サラミス級三隻。
後退中。
ズサ隊が接近する。
連邦艦長「対空戦闘!」
対空砲火。
ズサ。
回避。
ミサイル。
大量発射。
連邦艦長「来るぞ!」
だが。
艦橋には来ない。
一隻目。
主砲。
破壊。
二隻目。
MSカタパルト。
破壊。
三隻目。
推進器。
破壊。
連邦艦長「……沈めない?」
副長「敵が離れます!」
連邦艦長「どういうつもりだ」
副長「分かりません!」
連邦艦長「……」
艦長は。
戦術モニターを見る。
戦える能力だけを。
奪われている。
連邦艦長「舐められているのか……?」
副長「艦長」
連邦艦長「何だ」
副長「生きています」
艦長は。
黙った。
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## キャラ帰還
ゲーマルク。
サダラーンへ接近。
キャラ「帰ったよー!」
管制官「ゲーマルク、着艦コースへ!」
キャラ「ねえ、ハマーン様は?」
管制官「艦橋です!」
キャラ「褒めてもらえる?」
管制官「私に聞かないでください!」
ゲーマルク。
着艦。
キャラはコックピットから飛び出す。
キャラ「ハマーン様のところ行ってくる!」
整備兵「キャラ様!」
キャラ「何?」
整備兵「機体チェックが!」
キャラ「やっといて!」
整備兵「あなたのチェックもです!」
キャラ「私は壊れてない!」
整備兵「そういう意味ではありません!」
キャラはもう走っていた。
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## 損害
ティアンム艦隊。
オペレーター「中将」
ティアンム「報告しろ」
オペレーター「現時点の集計です」
ティアンム「……」
オペレーター「MS撃破及び戦闘不能、八百六十四」
艦橋。
沈黙。
ティアンム「八百……」
オペレーター「六十四です」
ティアンム「敵の損害は」
オペレーター「確認できた撃破は三機」
ティアンム「三機」
オペレーター「はい」
参謀が。
計算する。
参謀「単純交換比……二百八十八対一」
誰も。
その数字を。
信じたくなかった。
ティアンム「艦艇は」
オペレーター「撃沈二十三」
オペレーター「航行不能、または戦闘能力をほぼ喪失した艦七十一」
オペレーター「中程度以上の損傷艦、百隻以上」
ティアンム「……」
ソロモン攻略艦隊。
まだ。
存在している。
だが。
もはや。
ソロモンを攻略する力は。
残っていない。
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## 連邦の常識
ティアンム「敵の主力機を分類しろ」
情報士官「現在解析中です」
ティアンム「分かっている範囲でいい」
情報士官「大型機一機」
画面。
ゲーマルク。
情報士官「百二十機のGM部隊と交戦し、百十二機撃破」
次。
情報士官「その後、四百二十一機と交戦」
情報士官「十一分四十二秒で二百七機撃破」
ティアンム「被弾は」
情報士官「確認できません」
次。
ドライセン。
情報士官「こちらの機体は複数確認」
ティアンム「量産機か?」
情報士官「その可能性が高いと思われます」
ティアンム「……」
それが。
ゲーマルク以上に。
恐ろしい。
ゲーマルク一機だけなら。
怪物。
特殊兵器。
試作機。
そう考えられる。
だが。
ドライセン。
ガルスJ。
ズサ。
ザクIII。
それらが。
何十機もいる。
ティアンム「一機の怪物ではない」
参謀「はい」
ティアンム「軍隊だ」
参謀「……はい」
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## ソロモン
格納庫。
ドズル「八百六十四!?」
通信兵「はい!」
ドズル「連邦のMSをか!?」
通信兵「撃破及び戦闘不能、現在確認できるだけで八百六十四!」
ドズル「こっちは!」
通信兵「三機です!」
ドズル「…………」
マシュマー「さすがハマーン様!」
ドズル「三機しかやられてねえのか?」
マシュマー「残念ながら三機も失いました」
ドズル「残念ながら!?」
マシュマー「はい」
ドズル「八百六十四対三だぞ!」
マシュマー「はい」
ドズル「十分だろ!」
マシュマー「ハマーン様の軍としては、まだまだです!」
ドズル「お前らの基準が分からん!」
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通信モニター。
ハマーン。
ハマーン「ドズル閣下」
ドズル「おう」
ハマーン「ティアンム艦隊は敗走を開始しました」
ドズル「追撃してるんだろ?」
ハマーン「はい」
ドズル「全滅させるのか?」
ハマーン「いいえ」
ドズル「なぜだ」
ハマーン「必要がないからです」
ドズル「……」
ハマーン「すでにソロモン攻略能力は失われつつあります」
ハマーン「これ以上撃破数を増やしても意味はありません」
ドズル「敵だぞ」
ハマーン「敗走する敵です」
ドズル「……」
ハマーン「戦争の目的は敵兵を殺すことではありません」
ハマーン「こちらの目的を達成することです」
ドズル「目的?」
ハマーン「ソロモンを守ること」
ハマーン「ドズル閣下を生存させること」
ドズル「俺?」
ハマーン「はい」
ドズル「何で俺なんだ」
ハマーン「それについては」
ハマーンが一瞬。
黙る。
ハマーン「直接お話しします」
ドズル「ここへ来るのか?」
ハマーン「はい」
ドズル「そうか」
そして。
ドズルは。
ふと思い出す。
ドズル「おい、ハマーン」
ハマーン「何でしょう」
ドズル「カーンって」
ハマーン「……」
ドズル「マハラジャ・カーンと関係あるのか?」
ほんの一瞬。
ハマーンの表情が。
止まった。
マシュマー「ハマーン様?」
ハマーン「……」
ドズル「知ってるのか?」
ハマーン「はい」
ドズル「どういう関係だ?」
数秒。
ハマーンは。
答えなかった。
父。
宇宙世紀0088年では。
もう。
会うことのできない人。
だが。
今。
宇宙世紀0079年。
アクシズに。
いる。
生きている。
ハマーン「……父です」
ドズル「…………」
マシュマー「…………」
ドズル「何?」
ハマーン「マハラジャ・カーンは、私の父です」
ドズル「待て」
ハマーン「はい」
ドズル「マハラジャの娘?」
ハマーン「はい」
ドズル「いや」
ドズルが。
画面のハマーンを見る。
ドズル「おかしいだろ」
ハマーン「何がでしょう」
ドズル「マハラジャの娘なら」
ハマーン「……」
ドズル「まだ子供のはずだぞ」
沈黙。
ハマーン「その通りです」
ドズル「…………」
ハマーン「この時代の私は」
ハマーンが。
静かに言う。
ハマーン「まだ子供です」
ドズル「この時代?」
マシュマー「…………」
ドズル「おい」
ハマーン「はい」
ドズル「今、ものすごく変なこと言わなかったか?」
ハマーン「言いましたね」
ドズル「説明しろ」
ハマーン「ですから」
ハマーンは。
わずかに笑った。
ハマーン「直接お話しします」
ドズル「今話せ!」
ハマーン「通信で話す内容ではありません」
ドズル「お前もマシュマーと同じだな!」
マシュマー「光栄であります!」
ドズル「褒めてねえ!」
---
サダラーン。
通信終了。
ハマーンは。
しばらく。
何も言わなかった。
父。
マハラジャ。
生きている。
ハマーンは。
自分の手を見る。
ほんの少しだけ。
指が震えている。
だが。
すぐに。
握る。
ハマーン「ソロモンへ向かう」
オペレーター「ハマーン様ご自身が?」
ハマーン「そうだ」
オペレーター「ティアンム艦隊への追撃は?」
ハマーン「予定通り続行」
オペレーター「はっ!」
ハマーン「キャラは?」
その瞬間。
艦橋の扉が開く。
キャラ「ハマーン様ー!」
ハマーン「……来たか」
キャラ「二百七!」
ハマーン「知っている」
キャラ「百十二も!」
ハマーン「それも知っている」
キャラ「合計三百十九!」
ハマーン「知っている」
キャラ「褒めて!」
ハマーン「よくやった」
キャラ「もう一回!」
ハマーン「ソロモンへ行くぞ」
キャラ「私も?」
ハマーン「来い」
キャラ「はい!」
ハマーン「ただし」
キャラ「?」
ハマーン「ドズル閣下の前では少し静かにしろ」
キャラ「分かった!」
ハマーン「……」
キャラ「何?」
ハマーン「今の返事で不安になった」
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九年前。
死んだはずの男。
ドズル・ザビ。
そして。
九年後。
父を失った娘。
ハマーン・カーン。
その二人が。
ソロモンで。
初めて。
直接対面しようとしていた。
そして。
アクシズには。
まだ。
マハラジャ・カーンが。
生きている。
## 第6話 完




