第3話 九年後のザク
ガンダムのビームサーベルが、ビグ・ザムへ振り下ろされる。
アムロ「もらった!」
ドズル「ぬおおおおおっ!」
回避は間に合わない。
その瞬間だった。
アムロ「!?」
何かを感じた。
右。
強烈な殺気。
アムロは反射的にガンダムを後退させる。
直後。
一条のビームが、ガンダムがいた場所を通過した。
アムロ「何だ!?」
ドズル「何!?」
緑色のMSが、猛烈な速度で戦場へ飛び込んでくる。
ザク。
一瞬、そう見えた。
だが違う。
大きい。
太い。
そして何より――速い。
マシュマー「間に合った!」
AMX-011S。
ザクIII改。
宇宙世紀0088年のモビルスーツが、宇宙世紀0079年の戦場へ到着した。
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## 救援
マシュマーはビグ・ザムとガンダムの間へザクIII改を滑り込ませる。
ドズル「ザク!?」
マシュマー「ドズル・ザビ閣下とお見受けする!」
ドズル「誰だ貴様!」
マシュマー「ネオ・ジオン、マシュマー・セロ!」
ドズル「ネオ・ジオン!?」
マシュマー「ハマーン・カーン様の命により、閣下をお救いに参りました!」
ドズル「ハマーン・カーン? 誰だそいつは!」
マシュマー「何と!」
ドズル「知らんものは知らん!」
マシュマー「ハマーン様をご存じないとは……!」
ドズル「今それはどうでもいい! 敵が来るぞ!」
マシュマー「はっ! では、まずあれを片付けます!」
ドズル「お、おう」
マシュマーの勢いに、ドズルが一瞬だけ押された。
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## ザク?
アムロはザクIII改を見る。
形は明らかにジオン系。
特に頭部はザクの系譜そのものだった。
アムロ「新型のザク?」
マシュマー「新型?」
マシュマーは一瞬だけ考える。
そして笑った。
マシュマー「まあ、この時代ならそうなるか!」
アムロ「この時代?」
マシュマー「こちらの話だ!」
ザクIII改が加速する。
アムロ「速い!」
ガンダムがビームライフルを向ける。
アムロには分かった。
相手が右へ動く。
照準を修正。
発射。
だが。
撃った瞬間には、ザクIII改はすでにそこにいなかった。
アムロ「避けた!?」
マシュマー「遅い!」
ザクIII改がガンダムの左側へ回り込む。
アムロ「そこ!」
ガンダムが振り向く。
しかし。
遅い。
ザクIII改のビームがガンダムのシールドを直撃する。
爆発。
アムロ「くっ!」
ガンダムが吹き飛ばされる。
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## 見えるのに
アムロは体勢を立て直す。
おかしい。
敵の動きは見える。
いや。
正確には。
感じ取れる。
次にどこへ来るか。
何をするか。
分かる。
アムロ「右!」
ガンダムが右を向く。
ザクIII改が来る。
予想通り。
アムロ「そこだ!」
ビームライフル。
発射。
しかし。
ザクIII改が射線から外れる。
マシュマー「ほう!」
アムロ「また!」
マシュマー「私の動きを読んでいるのか!」
アムロ「だったら!」
次。
上。
アムロは先に照準を向ける。
ザクIII改が上へ出る。
アムロ「当たれ!」
発射。
ザクIII改。
回避。
アムロ「何でだ!」
見えている。
読めている。
なのに。
当たらない。
マシュマーも理解し始める。
マシュマー「なるほど……」
ザクIII改が距離を取る。
マシュマー「パイロットは相当なものだ」
アムロ「……!」
マシュマー「こちらが動く前に反応している」
アムロ「だったら何で!」
マシュマー「簡単なことだ!」
ザクIII改。
急加速。
アムロ「来る!」
ガンダム。
回避。
だが。
間に合わない。
ザクIII改の蹴りがガンダムの腹部へ入る。
アムロ「うわあっ!」
ガンダムが回転する。
マシュマー「君には見えている!」
ザクIII改が追いつく。
マシュマー「だが!」
ビーム。
ガンダムの右肩をかすめる。
マシュマー「その機体が!」
さらに一撃。
ガンダムのシールドが吹き飛ぶ。
マシュマー「君について来ていない!」
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## 性能差
アムロは歯を食いしばる。
否定したい。
だが。
その通りだった。
アムロ「来る!」
分かる。
回避操作。
入力。
ガンダムが動く。
しかし、その間にザクIII改はさらに軌道を変えている。
アムロ「また変えた!?」
マシュマー「遅い!」
ビーム。
ガンダムの左腕。
直撃。
爆発。
左腕が飛ぶ。
アムロ「左腕が!」
警報。
アムロは右手のビームライフルを向ける。
マシュマーが撃つ。
ガンダムのビームライフルが破壊される。
アムロ「ライフルまで!」
ドズルはビグ・ザムのコックピットから、その光景を見ていた。
ドズル「…………」
さっきまで。
自分を追い詰めていたガンダム。
そのガンダムが。
一方的に。
殴られている。
ドズル「何だ、あのザク……」
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## マシュマー
サダラーン。
遠距離映像。
ハマーンは戦闘を見ていた。
オペレーター「マシュマー機、ガンダムと交戦中」
ハマーン「見えている」
オペレーター「援護部隊を出しますか?」
ハマーン「必要ない」
オペレーター「しかし、相手は――」
ハマーン「アムロ・レイだ」
オペレーター「アムロ・レイ?」
ハマーン「この時代では、おそらく最も危険なパイロットの一人だ」
オペレーター「では、なおさら援護を!」
ハマーン「いらん」
ハマーンはモニターを見る。
ハマーン「パイロットがいかに優れていようと、機体性能には限界がある」
オペレーター「……」
ハマーン「それに」
ほんの少しだけ、ハマーンが笑う。
ハマーン「これはマシュマーの戦いだ」
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## 接近戦
アムロはビームサーベルを抜く。
射撃では当たらない。
ならば。
接近する。
アムロ「これなら!」
マシュマー「来るか!」
ガンダムが斬りかかる。
アムロには見えている。
敵の回避方向。
アムロ「左!」
先回りする。
だが。
ザクIII改は、そのさらに先へ動く。
アムロ「!」
マシュマー「悪くない!」
ガンダムが振り返る。
マシュマー「だが遅い!」
ザクIII改がガンダムの背後へ。
アムロ「後ろ!」
ガンダムが振り向こうとする。
その前に。
ザクIII改の腕がガンダムの背中を殴りつける。
アムロ「うわっ!」
姿勢制御。
間に合わない。
マシュマー「この程度か!」
アムロ「まだ!」
ガンダムがサーベルを振る。
ザクIII改は最小限の動きで避ける。
マシュマー「遅い!」
一撃。
ガンダムの右脚。
破損。
アムロ「脚が!」
マシュマー「遅い!」
さらに一撃。
頭部。
メインカメラ。
破壊。
アムロ「メインカメラが!」
マシュマー「遅い!」
ドズル「何回言うんだ!」
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## 白い悪魔
ガンダム。
左腕なし。
シールドなし。
ビームライフルなし。
右脚損傷。
メインカメラ損傷。
残る武器。
ビームサーベル。
アムロは息を切らしていた。
アムロ「こんな……」
おかしい。
シャアとは違う。
ランバ・ラルとも違う。
黒い三連星とも違う。
パイロットの技量だけではない。
機体そのものが。
違いすぎる。
アムロ「こんなザクが……」
マシュマー「ザクIIIだ!」
アムロ「III?」
マシュマー「そうだ!」
アムロ「ザクにIIIなんて……」
マシュマー「ある!」
アムロ「聞いたことない!」
マシュマー「当然だ!」
アムロ「何が当然なんだ!」
マシュマー「それは言えん!」
アムロ「何なんだよ!」
マシュマー「私にも説明が難しい!」
ドズル「戦闘中に漫才するな!」
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## 最後の突撃
アムロは残ったビームサーベルを握る。
逃げるという選択肢もある。
だが。
後ろには連邦軍がいる。
そして。
目の前には。
巨大なビグ・ザム。
この新型を突破できれば。
まだ。
ドズルを倒せる。
アムロ「やるしかない!」
ガンダム。
加速。
マシュマー「まだ来るか!」
アムロ「そこをどけ!」
マシュマー「断る!」
ガンダム。
サーベル。
振る。
ザクIII改。
回避。
アムロ「次!」
反転。
もう一撃。
ザクIII改。
さらに回避。
マシュマー「見事だ!」
アムロ「だったら!」
マシュマー「だが!」
ザクIII改が一瞬でガンダムの懐へ入る。
アムロ「速――」
衝撃。
ザクIII改の腕が。
ガンダムの右腕を掴む。
マシュマー「終わりだ!」
力。
ガンダムの右腕が。
ねじ切られる。
ビームサーベルごと。
腕が飛ぶ。
アムロ「うわあああっ!」
ガンダム。
完全に。
武器を失う。
ザクIII改が。
ビームライフルを。
ガンダムのコックピットへ向ける。
アムロ「…………」
マシュマー「動くな」
アムロ「……」
マシュマー「次に動けば、撃つ」
ガンダム。
停止。
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## 勝者
ドズル「…………」
信じられない。
あれほど苦戦した。
ガンダム。
それが。
数分で。
ただの鉄屑のようになっている。
ドズル「おい」
マシュマー「はっ!」
ドズル「マシュマーとか言ったな」
マシュマー「マシュマー・セロであります!」
ドズル「あのガンダム」
マシュマー「はい!」
ドズル「強いんじゃなかったのか?」
マシュマー「パイロットは非常に優秀です!」
ドズル「そうか」
マシュマー「はい!」
ドズル「じゃあ何であんな一方的なんだ」
マシュマー「機体が古すぎます!」
ドズル「ガンダムだぞ?」
マシュマー「古いです!」
ドズル「最新鋭だぞ?」
マシュマー「古いです!」
ドズル「…………」
マシュマー「…………」
ドズル「お前ら何者だ?」
マシュマー「ネオ・ジオンであります!」
ドズル「だから何なんだ、ネオ・ジオンって!」
マシュマー「それは――」
マシュマーが止まる。
ハマーンから。
余計なことを話せとは。
言われていない。
マシュマー「軍事機密であります!」
ドズル「俺はジオンの中将だぞ!」
マシュマー「…………」
ドズル「…………」
マシュマー「ハマーン様にご確認ください!」
ドズル「そのハマーンって誰なんだ!」
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サダラーン。
ハマーンは。
通信を聞いていた。
側近「ハマーン様」
ハマーン「何だ」
側近「マシュマーが困っております」
ハマーン「見れば分かる」
側近「お助けにならないのですか?」
ハマーン「少し待て」
側近「なぜです?」
ハマーン「面白い」
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## ガンダム捕獲
マシュマー「ドズル閣下!」
ドズル「何だ!」
マシュマー「このガンダム、どういたしましょう!」
ドズル「パイロットは生きてるのか?」
マシュマー「はい!」
ドズル「なら捕虜にしろ!」
マシュマー「了解!」
ドズル「機体も持って帰れ!」
マシュマー「了解!」
アムロ「…………」
マシュマーがガンダムへ通信する。
マシュマー「聞こえるか、ガンダムのパイロット」
アムロ「……聞こえている」
マシュマー「武装はすべて失った。抵抗するな」
アムロ「……分かった」
マシュマー「賢明だ」
アムロ「一つだけ聞かせてくれ」
マシュマー「何だ?」
アムロ「あんたは……シャアより強いのか?」
マシュマー「シャア?」
マシュマーは一瞬考える。
マシュマー「シャア・アズナブルか?」
アムロ「知ってるのか?」
マシュマー「もちろん知っている」
アムロ「だったら――」
マシュマー「だが」
少し。
考える。
マシュマー「今は答えられん」
アムロ「どうして?」
マシュマー「色々と面倒だからだ!」
アムロ「……?」
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マシュマーは。
動けなくなったガンダムを曳航する。
その後方。
ビグ・ザム。
健在。
ドズル・ザビ。
生存。
---
本来。
この日に。
死ぬはずだった男。
---
そして。
本来。
この戦場から。
生還するはずだった。
ガンダム。
---
二つの運命が。
同時に。
変わった。
---
サダラーン。
ハマーン「戦闘結果は?」
オペレーター「ザクIII改、損傷なし」
ハマーン「被弾は?」
オペレーター「確認できません」
ハマーン「ガンダムは?」
オペレーター「両腕喪失、脚部損傷、頭部損傷。戦闘能力を完全に喪失しています」
ハマーン「パイロットは?」
オペレーター「生存」
ハマーン「そうか」
ハマーンは。
モニターに映る。
ザクIII改を見る。
ハマーン「よくやった、マシュマー」
通信。
マシュマー「!」
ハマーン「見事だった」
マシュマー「ハ、ハマーン様!」
ハマーン「帰還後、直接褒めてやる」
マシュマー「はっ!」
一瞬。
沈黙。
マシュマー「…………直接?」
ハマーン「そう言った」
マシュマー「ハマーン様ぁぁぁぁぁ!!」
ドズル「うるせえ!」
---
こうして。
ガンダムを倒した者の名は。
アムロ・レイでも。
シャア・アズナブルでも。
ハマーン・カーンでもなかった。
---
**マシュマー・セロ。**
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そして。
ソロモンの戦場には。
まだ。
九年後のネオ・ジオン艦隊本隊が。
到着していない。
---
本当の歴史改変は。
これからだった。
## 第3話 完




