番外編 ソロモンの悪夢対ハマーンの騎士
ア・バオア・クー。
MS格納庫。
シャアとマシュマーの模擬戦が終わった。
結果。
ジオング。
対。
ザクIII改。
二分三十八秒。
マシュマー・セロ勝利。
その結果を見て。
一人。
明らかに目の色が変わった男がいた。
アナベル・ガトー。
ガトー「ハマーン殿」
ハマーン「断る」
ガトー「まだ何も言っていません!」
ドズル「ははははは!」
ハマーン「どうせマシュマーと戦いたいのだろう」
ガトー「……」
ハマーン「図星か」
ガトー「はい」
ドズル「認めた!」
## マシュマー
マシュマー「私と?」
ガトー「お願いしたい」
マシュマー「……」
ガトー「不満か?」
マシュマー「いや」
マシュマーが笑う。
マシュマー「面白い!」
ガトー「そう言っていただけると思った」
マシュマー「ハマーン様!」
ハマーン「何だ」
マシュマー「許可を!」
ハマーン「……」
ドズル「やらせてやれよ」
キシリア「私も見たいわ」
シャア「私も興味がありますな」
デラーズ「私もだ」
ギレン「データとしても有用だろう」
ハマーン「……」
ハマーンは小さく息を吐いた。
ハマーン「許可する」
ガトー「感謝します!」
マシュマー「ハマーン様! 必ず勝利を!」
ハマーン「模擬戦だ」
## 条件
ガトー。
ドライセン。
搭乗経験。
約一時間。
マシュマー。
ザクIII改。
完全に乗り慣れた専用機。
ハマーン「機体性能はザクIII改が上だ」
ガトー「承知しています」
ハマーン「推力も機動性もマシュマーが有利」
ガトー「はい」
ハマーン「そしてお前はドライセンに乗って一時間程度」
ガトー「はい」
ハマーン「それでもやるか?」
ガトー「もちろん」
マシュマー「良い返事だ!」
シャア「ハマーン」
ハマーン「何だ」
シャア「予想は?」
ハマーン「マシュマー」
ガトー「……」
ハマーン「不満か?」
ガトー「いいえ」
ガトーが笑う。
ガトー「覆す楽しみがあります」
マシュマー「ハマーン様!」
ハマーン「何だ」
マシュマー「何分で倒しましょう!」
ハマーン「時間を指定すると、お前は無茶をする」
マシュマー「では三分!」
ハマーン「人の話を聞け」
## 曹長
ラド「ガトー少佐」
ガトー「曹長」
ドライセンを教えた一般兵。
ラド・ウェルナー曹長。
ラド「先ほど一つ言い忘れました」
ガトー「何だ」
ラド「マシュマー様を追いかけないでください」
ガトー「なぜ?」
ラド「ザクIII改の方が速いからです」
ガトー「なるほど」
ラド「向こうの土俵です」
ガトー「では?」
ラド「ドライセンは十分速いです」
ラド「でもザクIII改と速度勝負をする必要はありません」
ガトー「……」
ラド「少佐なら」
ラド「相手を動かす方がいいと思います」
ガトー「相手を動かす」
ラド「はい」
ガトー「……」
ガトーが笑った。
ガトー「曹長」
ラド「はい」
ガトー「良い助言だ」
## 出撃
ドライセン。
カタパルトへ。
ザクIII改。
反対側。
マシュマー「聞こえるか、ガトー!」
ガトー「聞こえている!」
マシュマー「手加減はしない!」
ガトー「望むところ!」
マシュマー「ハマーン様の前で!」
マシュマー「無様な戦いは見せられん!」
ガトー「私もデラーズ閣下の前だ!」
デラーズ「ガトー!」
ガトー「はっ!」
デラーズ「勝て!」
ガトー「はっ!」
ハマーン「……」
キシリア「似た者同士じゃない?」
ハマーン「言うな」
## 開始
管制官「模擬戦開始!」
瞬間。
マシュマーが動く。
速い。
ザクIII改。
一気に距離を詰める。
ガトー「来る!」
ビームライフル。
第一射。
ガトー「!」
ドライセン。
回避。
第二射。
回避。
第三射。
ガトー「くっ!」
管制官「ドライセン左脚部、軽微損傷!」
ドズル「もう当てた!」
シャア「速いな」
ハマーン「だから言っただろう」
## 追わない
マシュマー「どうした!」
ザクIII改が離れる。
普通なら。
追う。
だが。
ガトーは。
追わない。
マシュマー「?」
ハマーン「ほう」
シャア「追わない」
ラド「……!」
ガトー「曹長」
ラド「はい?」
ガトー「助言を使わせてもらう!」
ラド「!」
マシュマー「来ないなら!」
マシュマーが反転。
再接近。
ガトー「そこだ!」
腕部三連装ビームキャノン。
射撃。
マシュマー「!」
ザクIII改が回避。
ガトー「まだだ!」
二射。
三射。
マシュマー「甘い!」
全弾回避。
だが。
ガトー「そこへ行くと思った!」
マシュマー「!」
ドライセンが。
すでに動いている。
ビームランサー。
マシュマー「何っ!」
ザクIII改。
急上昇。
ランサーが。
脚部を掠める。
管制官「ザクIII改右脚、軽微損傷!」
ドズル「当てた!」
デラーズ「よし!」
シャア「……」
ハマーン「上手い」
## ガトーの戦い方
シャア「なるほど」
キシリア「何?」
シャア「機体には慣れていない」
シャア「だから機体性能だけで戦おうとしていない」
ハマーン「そうだ」
シャア「マシュマーの方が速い」
シャア「だから追わない」
シャア「来させる」
ハマーン「そして来る方向を限定する」
シャア「……ガトーらしい」
一分。
まだ。
双方。
軽微損傷のみ。
マシュマー「やるな!」
ガトー「そちらこそ!」
## トライ・ブレード
ガトー「なら!」
ドライセンの背部。
円盤状の武器が飛ぶ。
ラド「!」
ドズル「何だあれ?」
ハマーン「トライ・ブレード」
ドズル「やっと使った!」
三枚。
異なる軌道。
マシュマー「!」
ガトー「先ほど忘れていたのでな!」
ラド「今ですか!?」
一枚。
回避。
二枚目。
回避。
三枚目。
マシュマー「!」
ビームサーベル。
破壊。
だが。
その一瞬。
ガトー「もらった!」
腕部ビームキャノン。
マシュマー「!」
管制官「ザクIII改左腕、損傷判定!」
デラーズ「ガトー!」
ドズル「すげえ!」
ハマーン「……」
シャア「どうした?」
ハマーン「想定以上だ」
## 二分
二分経過。
ドライセン。
左脚軽微損傷。
ザクIII改。
右脚軽微。
左腕中程度損傷。
ガトー「……」
マシュマー「……」
二人とも。
笑っていた。
マシュマー「楽しいぞ!」
ガトー「同感だ!」
ドズル「完全に楽しんでやがる」
キシリア「男って」
ドズル「俺に振るな!」
## マシュマー、本気
マシュマー「だが!」
ザクIII改の動きが変わる。
ハマーン「……」
シャア「速くなった?」
ハマーン「マシュマーも分かったのだ」
キシリア「何を?」
ハマーン「ガトーを普通の0079年パイロットとして扱えば」
ハマーン「負ける可能性がある」
マシュマー「行くぞ!」
ザクIII改。
急加速。
右。
上。
左。
急制動。
再加速。
ガトー「速い!」
ガトーが。
追わない。
だが。
今度のマシュマーは。
真正面から入らない。
ガトー「後ろ!」
振り向く。
いない。
ガトー「上!」
ザクIII改。
いた。
マシュマー「遅い!」
ビームライフル。
ガトー「!」
回避。
一発。
二発。
三発。
四発。
管制官「ドライセン右肩被弾!」
管制官「右腕機能低下!」
ガトー「くっ!」
ザクIII改。
そのまま接近。
ビームサーベル。
ガトー「まだだ!」
ビームトマホーク。
激突。
模擬判定。
サーベルとトマホークが。
交差する。
マシュマー「おおおおっ!」
ガトー「うおおおっ!」
ドズル「いいぞ!」
キシリア「兄上、完全に観客になってるわよ」
## 三分
三分経過。
まだ。
決着しない。
ハマーン「……」
シャア「三分を超えた」
ハマーン「ガトーが上手い」
デラーズ「当然だ」
ハマーン「嬉しそうですね」
デラーズ「当然だ!」
マシュマーが離れる。
ガトーも距離を取る。
ガトー「……」
息が。
少し荒い。
機体が速い。
情報量も多い。
一年戦争のMSとは違う。
だが。
ガトー「まだだ」
## 四分
マシュマー「!」
ガトーが。
初めて。
自分から突っ込む。
マシュマー「来たか!」
ガトー「速度で勝てないなら!」
腕部ビームキャノン。
マシュマー「当たらん!」
回避。
ガトー「分かっている!」
マシュマー「!」
射撃は。
当てるためではない。
進路を。
限定する。
ザクIII改。
右へ。
そこへ。
トライ・ブレード。
マシュマー「!」
下へ。
ガトー「そこだ!」
ドライセン。
突撃。
ビームランサー。
マシュマー「くっ!」
管制官「ザクIII改、胸部!」
一同「!」
管制官「軽微損傷!」
ドズル「胸に入れた!」
デラーズ「よし!」
シャア「……」
シャアが笑う。
シャア「上手いな」
ハマーン「認めるか」
シャア「認めざるを得ない」
## 決着
だが。
ガトーは。
一つ。
忘れていた。
ザクIII改は。
速い。
そして。
マシュマーは。
その速度を。
完全に知っている。
ガトー「!」
マシュマーが。
ランサーを避けながら。
さらに。
前へ出た。
普通なら。
離れるところ。
逆。
懐へ。
ガトー「何っ!」
マシュマー「もらった!」
ザクIII改。
ビームサーベル。
ガトー「まだ!」
ドライセン。
左腕。
ビームトマホーク。
間に合う。
はずだった。
だが。
ほんの。
わずか。
ザクIII改の方が。
速い。
管制官「ドライセン胸部!」
管制官「致命傷判定!」
ガトー「!」
管制官「戦闘終了!」
時間。
**四分三十七秒。**
管制官「勝者!」
管制官「マシュマー・セロ!」
## 四分三十七秒
静かになる。
ドズル「……惜しい!」
デラーズ「ガトー……!」
シャア「四分三十七秒」
ガトー「聞こえています!」
シャア「私も言われたのでね」
ガトー「根に持っておられる!」
シャア「何のことかな」
## 帰還
二機が格納庫へ戻る。
ガトーが降りてくる。
マシュマーも降りる。
二人が。
向かい合う。
マシュマー「強かった」
ガトー「……」
マシュマー「アナベル・ガトー」
マシュマーが。
手を差し出す。
マシュマー「見事だった」
ガトーが。
その手を握る。
ガトー「マシュマー・セロ」
ガトー「次は勝つ」
マシュマー「望むところだ!」
ドズル「いいなあ!」
キシリア「何が?」
ドズル「こういうの!」
## ハマーンの評価
ガトー「ハマーン殿」
ハマーン「何だ」
ガトー「評価を」
ハマーン「欲しいのか」
ガトー「はい」
ハマーン「では」
ハマーンが。
少し考える。
ハマーン「予想以上だ」
ガトー「!」
ハマーン「ドライセン搭乗経験一時間程度」
ハマーン「ザクIII改との機体差」
ハマーン「マシュマーの習熟度」
ハマーン「それを考えれば」
ハマーン「四分三十七秒は」
ハマーン「非常に良い」
ガトー「……!」
デラーズが。
明らかに嬉しそうな顔をする。
ハマーン「特に」
ハマーン「途中から」
ハマーン「機体性能で勝とうとするのをやめた」
ガトー「はい」
ハマーン「マシュマーを」
ハマーン「自分の射線へ動かした」
ガトー「速度では勝てませんから」
ハマーン「正解だ」
## 一週間後なら
シャア「ハマーン」
ハマーン「何だ」
シャア「先ほど言っていたな」
ハマーン「何を」
シャア「ガトーが一週間」
シャア「ドライセンに乗れば」
ハマーン「ああ」
シャア「どうなる?」
ガトーも。
マシュマーも。
ハマーンを見る。
ハマーン「……」
少し考える。
ハマーン「五分五分に近づく」
マシュマー「!」
ガトー「!」
ハマーン「ただし」
ハマーン「まだマシュマーを若干上に見る」
マシュマー「当然です!」
ガトー「一か月なら?」
ハマーン「……」
ドズル「聞くねえ」
ハマーン「分からん」
ガトー「!」
ハマーン「そこまで行けば」
ハマーン「機体差と」
ハマーン「パイロット差が」
ハマーン「かなり拮抗する」
マシュマー「ならば!」
マシュマーが。
ガトーを見る。
マシュマー「一か月後!」
ガトー「受けて立つ!」
ハマーン「勝手に予定を決めるな」
## 一般兵の一言
ラド「……」
ドズル「どうした曹長」
ラド「いえ」
ラドが。
自分のドライセンを見る。
ラド「一時間前まで」
ラド「私が教えていたんです」
ドズル「そうだな」
ラド「一時間前まで」
ラド「全周囲モニターの説明を」
ラド「していたんです」
ドズル「うん」
ラド「今」
ラド「マシュマー様のザクIII改と」
ラド「四分三十七秒戦いました」
ドズル「うん」
ラド「……」
ラド「もう私」
ラド「ガトー少佐に何を教えればいいんでしょう」
沈黙。
ハマーン「機体の取扱説明」
ラド「それだけですか!?」
ハマーン「それだけでいい」
ラド「……」
ガトー「曹長」
ラド「はい」
ガトー「明日も頼む」
ラド「……」
ラド「はい!」
## そして
シャア「しかし」
ドズル「何だ?」
シャア「一つ分かった」
ドズル「何が?」
シャアが。
ガトーを見る。
シャア「ガトーに」
シャア「九年後の機体を与えてはいけない」
ドズル「何でだ?」
シャア「面倒なことになる」
ハマーン「同感だ」
ガトー「なぜです!」
マシュマー「私は歓迎する!」
ガトー「マシュマー殿!」
マシュマー「強い相手との戦い!」
マシュマー「そして!」
マシュマー「ハマーン様のための勝利!」
ハマーン「最後の一言が余計だ」
ドズル「いや」
ドズルが。
笑う。
ドズル「でもよ」
ドズル「面白くなってきたじゃねえか」
一年戦争のエース。
アナベル・ガトー。
九年後の量産機。
ドライセン。
搭乗。
わずか一時間。
それでも。
ザクIII改を完全に使いこなす。
マシュマー・セロを相手に。
四分三十七秒。
そして。
胸部へ。
一撃を入れた。
もし。
一週間乗れば。
もし。
一か月乗れば。
その答えを。
この場にいる全員が。
少しだけ。
見てみたいと思っていた。
## 番外編 完




