番外編最終話
管制官「模擬戦開始!」
ガトー「行く!」
ドライセンが加速する。
正面。
キュベレイ。
ガトーはハマーンを見ていた。
当然だった。
相手はハマーン・カーン。
そして。
キュベレイ。
一瞬でも目を離す理由はない。
一秒。
ガトー「……?」
キュベレイが動かない。
ハマーン「……」
二秒。
ガトーは違和感を覚えた。
何か。
おかしい。
シャア「……!」
シャアだけが気づいた。
シャア「ガトー!」
ガトー「?」
三秒。
ドライセンのコックピット。
その真正面。
宇宙空間を漂うMSの残骸。
その陰から。
白い物体が。
静かに現れた。
ガトー「――!」
ファンネル。
一基。
距離。
数メートル。
回避。
不可能。
照準。
不要。
ハマーン「終わりだ」
閃光。
管制官「ドライセン、コックピット直撃判定!」
管制官「致命傷!」
管制官「戦闘終了!」
沈黙。
管制官「……」
管制官が時計を見る。
管制官「三・二秒」
ドズル「……は?」
ガトー「……」
シャア「……」
デラーズ「……」
マシュマーだけが。
満足そうに頷いた。
マシュマー「当然だ」
ドズル「いや待て!」
ドズル「何が起きた!?」
キシリア「私にも分からなかったわ」
シャア「……ファンネルだ」
ドズル「それは分かる!」
ドズル「いつ飛ばした!?」
ハマーン「始まる前だ」
全員「……」
ガトー「始まる前?」
ハマーン「模擬戦開始前から」
ハマーン「戦闘宙域には残骸があった」
ハマーン「その陰へ一基置いただけだ」
ガトー「……」
ガトーがモニターを見る。
戦闘記録。
開始。
0.0秒。
ドライセン加速。
0.8秒。
キュベレイ正面。
1.4秒。
ガトーはキュベレイを注視。
2.1秒。
残骸の裏からファンネル移動開始。
2.8秒。
コックピット正面。
3.2秒。
射撃。
終了。
ガトー「……私は」
ガトー「一度も」
ガトー「ハマーン殿と戦っていない」
ハマーン「そうだ」
ガトー「キュベレイとも」
ハマーン「そうだ」
ガトー「ファンネル一基に」
ハマーン「そうだ」
ガトー「三秒」
ハマーン「正確には三・二秒だ」
ガトー「……」
ドズル「そこ訂正する必要あるか?」
シャア「ハマーン」
ハマーン「何だ」
シャア「もしガトーが最初からファンネルを警戒していたら?」
ハマーン「別の手を使う」
シャア「残骸を避けたら?」
ハマーン「別の手を使う」
シャア「開始直後に後退したら?」
ハマーン「別の手を使う」
シャア「……」
ガトー「では」
ガトーがハマーンを見る。
ガトー「千回やれば」
ガトー「一度くらい勝てますか?」
ハマーン「同じ条件なら?」
ガトー「はい」
ハマーン「無理だ」
即答だった。
ガトー「……」
ハマーン「千回やれば」
ハマーン「千回とも」
ハマーン「お前が何をするかを見て」
ハマーン「それに合わせて殺す」
静かになる。
ハマーン「一回目と同じ方法を」
ハマーン「千回繰り返す必要はない」
シャア「……なるほど」
シャアはようやく理解した。
問題は。
ファンネルではない。
キュベレイでもない。
残骸でもない。
**ハマーン・カーンが相手であること。**
ガトー「完敗です」
ハマーン「当然だ」
ドズル「お前、本当に遠慮しねえな!」
ハマーン「手加減するなと言ったのはガトーだ」
ガトー「……言いました」
ドズル「言ったけどよ!」
マシュマー「ハマーン様!」
ハマーン「何だ」
マシュマー「見事でございました!」
ハマーン「私は」
ハマーン「ファンネルを一基動かしただけだ」
マシュマー「それが素晴らしいのです!」
ドズル「こいつはいつも通りだな!」
ガトーは。
もう一度。
戦闘記録を見る。
三・二秒。
ドライセンの性能。
関係なし。
自分の操縦技術。
関係なし。
反応速度。
関係なし。
射撃能力。
関係なし。
戦う前に。
負けていた。
ガトー「……これは」
ガトー「勝てんな」
シャア「同感だ」
ハマーン「ようやく理解したか」
ガトー「はい」
そして。
ア・バオア・クーで行われた一連の模擬戦は。
今度こそ。
本当に終わった。
最後の戦闘時間。
**三・二秒。**
使用したファンネル。
**一基。**
ハマーン・カーン。
被弾。
**ゼロ。**
ガトー。
攻撃。
**ゼロ。**
それを見た者の中で。
もう誰一人。
ハマーン・カーンを。
ただの指導者だと思う者はいなかった。




