第20話 赤い彗星対騎士
ア・バオア・クー。
MS格納庫。
模擬戦を終えたジオングとドライセンが収容される。
結果。
二分十一秒。
アナベル・ガトー。
ドライセン。
勝利。
シャア「……」
ドズル「まだ気にしてんのか?」
シャア「気にしていません」
ドズル「嘘つけ」
シャア「気にしていません」
ドズル「二回言うと余計怪しいぞ」
シャア「……」
ガトー「シャア大佐」
シャア「何だ」
ガトー「もう一戦いかがです?」
シャア「断る」
ガトー「即答ですか」
シャア「君はもう十分楽しんだだろう」
ガトー「確かに」
## マシュマー
その時。
格納庫へ一機のMSが入ってくる。
ザクIII改。
ドズル「お」
ガトー「……!」
シャア「ザク?」
ハマーン「ザクIII改だ」
シャア「III?」
ハマーン「そうだ」
シャア「……」
シャアが。
機体を見上げる。
シャア「ザクIIの次だからザクIIIということですか?」
ハマーン「概ねそう思っていい」
シャア「随分飛びましたな」
ドズル「九年だからな」
ハマーン「……」
ドズル「……」
キシリア「兄上」
ドズル「もう全員知ってるだろ!」
コックピットが開く。
マシュマーが降りてくる。
マシュマー「ハマーン様!」
ハマーン「マシュマー」
マシュマー「お呼びでしょうか!」
ハマーン「いや」
マシュマー「?」
ハマーン「ちょうどいいところに来た」
マシュマー「何なりと!」
シャア「……」
シャアが。
マシュマーを見る。
マシュマーも。
シャアを見る。
マシュマー「この男は?」
ハマーン「シャア・アズナブル」
マシュマー「……!」
マシュマー「赤い彗星!」
シャア「私を知っているのか」
マシュマー「当然だ!」
マシュマー「ジオンの伝説的エース!」
シャア「……」
シャアが少し機嫌を直す。
ドズル「嬉しそうだな」
シャア「別に」
マシュマー「そして!」
シャア「?」
マシュマー「ハマーン様を悩ませる男!」
シャア「……」
ハマーン「マシュマー」
マシュマー「はい!」
ハマーン「余計なことを言うな」
マシュマー「申し訳ありません!」
キシリア「詳しく」
ハマーン「キシリア」
## もう一戦
ドズル「なあ」
ハマーン「何です」
ドズル「やらせてみようぜ」
ハマーン「何を」
ドズル「シャアとマシュマー」
シャア「……」
マシュマー「私と?」
ドズル「そうだ」
シャア「私は先ほど戦ったばかりですが」
ドズル「疲れたか?」
シャア「……」
ドズル「赤い彗星が?」
シャア「安い挑発ですな」
ドズル「効いたか?」
シャア「……やりましょう」
キシリア「効いているじゃない」
マシュマー「ハマーン様!」
ハマーン「何だ」
マシュマー「許可を!」
ハマーン「構わん」
マシュマー「はっ!」
ガトー「待ってください」
ドズル「何だ?」
ガトー「私は見たい」
ガトーがザクIII改を見る。
ガトー「先ほど私が乗ったドライセンより」
ガトー「強いのですか?」
ハマーン「機体としてはザクIII改の方が上だ」
ガトー「……」
ハマーン「そして」
ハマーンがマシュマーを見る。
ハマーン「マシュマーは初乗りではない」
ガトー「なるほど」
シャア「つまり」
シャアがジオングを見る。
シャア「今度は先ほどより不利だと」
ハマーン「かなり」
シャア「……」
シャア「いいでしょう」
## 条件
模擬戦。
シャア。
ジオング。
マシュマー。
ザクIII改。
実弾なし。
ビーム兵器は模擬判定。
致命傷判定で終了。
ガトー「ハマーン殿」
ハマーン「何だ」
ガトー「予想を」
ハマーン「マシュマー」
ガトー「時間は?」
ハマーン「……」
ハマーンが少し考える。
ハマーン「三分以内」
シャア「聞こえていますよ」
ハマーン「聞かせた」
マシュマー「ハマーン様!」
ハマーン「何だ」
マシュマー「一分で!」
ハマーン「無理をするな」
マシュマー「二分!」
ハマーン「普通に戦え」
マシュマー「はい!」
ドズル「こいつ面白いな」
## 開始
管制官「模擬戦開始!」
今度は。
シャアが。
すぐには突っ込まない。
シャア「同じ失敗はしない」
ジオング。
両腕分離。
最初から。
有線式メガ粒子砲を展開。
マシュマー「ほう!」
左右。
本体。
三方向。
ガトー「最初からオールレンジ攻撃!」
シャア「行け!」
三方向から。
同時射撃。
マシュマー「!」
ザクIII改。
加速。
一射目。
回避。
二射目。
機体を捻る。
三射目。
急降下。
シャア「速い!」
ガトー「……」
ガトーには分かった。
先ほど。
自分がドライセンで感じたもの。
それより。
さらに速い。
ガトー「ドライセンより上だ」
ハマーン「そうだ」
## マシュマーの違い
シャア「そこだ!」
マシュマーの進路。
先読み。
頭部メガ粒子砲。
発射。
だが。
マシュマー「甘い!」
撃つ前に。
ザクIII改が。
軌道を変えている。
シャア「!」
ガトー「……」
ガトーが気づく。
ガトー「違う」
ドズル「何が?」
ガトー「私とは違う」
ガトー「私は」
ガトー「シャア大佐が撃ってから避けていた」
ハマーン「そうだ」
ガトー「マシュマー殿は」
ガトー「撃つ前に避けている」
ハマーン「それが経験だ」
## 接近
マシュマー「今度はこちらから行く!」
ザクIII改。
急加速。
シャア「来る!」
ジオング。
後退。
マシュマー「逃がすか!」
シャア「速すぎる!」
距離。
八千。
六千。
四千。
一瞬で。
詰まる。
シャア「!」
右腕。
メガ粒子砲。
マシュマー「見えている!」
回避。
ザクIII改。
ビームライフル。
シャア「!」
ジオング。
回避。
一発目。
外れる。
二発目。
管制官「ジオング右腕被弾!」
シャア「くっ!」
マシュマー「まだだ!」
## 一分
一分経過。
ジオング。
右腕損失判定。
ザクIII改。
無傷。
マシュマー「ハマーン様!」
ハマーン「戦闘中にこちらを見るな」
マシュマー「はい!」
ドズル「余裕あるな!」
シャア「……」
シャアは。
焦っていた。
先ほどのガトー。
あれも速かった。
だが。
まだ。
読める。
この男は。
違う。
シャア「動きに迷いがない」
ザクIII改という機体を。
完全に知っている。
どこまで加速できる。
どこで止まれる。
どの角度まで曲がれる。
どれだけ噴かせる。
すべて。
身体で理解している。
## シャアの反撃
だが。
シャアも。
赤い彗星。
シャア「ならば!」
左腕。
大きく迂回。
本体は。
正面。
右腕は失った。
二方向。
マシュマー「!」
シャア「逃げ道はそこだ!」
マシュマーが。
回避する方向へ。
頭部メガ粒子砲。
マシュマー「!」
管制官「ザクIII改、左肩!」
ガトー「当てた!」
管制官「軽微損傷判定!」
ドズル「おお!」
キシリア「さすがね」
シャア「どうだ!」
マシュマー「見事!」
シャア「……褒められると腹が立つな」
## 二分
二分経過。
ジオング。
右腕損失。
左腕健在。
本体軽微損傷。
ザクIII改。
左肩軽微損傷。
ガトー「二分」
ハマーン「思ったより持ったな」
シャア「だから聞こえています!」
マシュマー「ならば!」
ザクIII改。
最大加速。
シャア「!」
ガトー「速い!」
ラド「……」
ガトー「曹長」
ラド「はい」
ガトー「私が乗ったドライセンと」
ガトー「どのくらい違う」
ラド「機体も上ですが」
ラド「それ以上に」
ラド「マシュマー様が」
ラド「ザクIII改を知り尽くしています」
ガトー「……」
## 決着
シャア「来る!」
左腕を。
ザクIII改へ向ける。
五連装メガ粒子砲。
射撃。
マシュマー「そこだ!」
回避。
シャア「読んでいる!」
頭部。
発射。
だが。
マシュマー「それも!」
さらに。
機体を捻る。
シャア「何っ!」
二段階回避。
シャアの予測を。
さらに超える。
そして。
ザクIII改。
ジオングの。
真下。
シャア「!」
マシュマー「終わりだ!」
ビームサーベル。
一閃。
管制官「ジオング胴体!」
管制官「致命傷判定!」
管制官「戦闘終了!」
時間。
**二分三十八秒。**
管制官「勝者!」
管制官「マシュマー・セロ!」
## 帰還
格納庫。
二機が戻る。
マシュマーが。
勢いよく降りてくる。
マシュマー「ハマーン様!」
ハマーン「よくやった」
マシュマー「!」
マシュマー「ハマーン様から!」
マシュマー「お褒めの言葉を!」
ドズル「始まった」
マシュマー「このマシュマー!」
マシュマー「一生の誉れ!」
ハマーン「静かにしろ」
マシュマー「はい!」
シャアも。
ジオングから降りてくる。
シャア「……」
ドズル「二分三十八秒」
シャア「聞こえています」
ドズル「ガトーより二十七秒長かったぞ」
シャア「比較しないでいただきたい」
ガトー「大佐」
シャア「何だ」
ガトー「見事でした」
シャア「……」
ガトー「私は」
ガトー「マシュマー殿のザクIII改と戦えば」
ハマーン「ドライセンなら」
ガトー「はい」
ハマーン「かなり面白い」
ガトー「勝てますか?」
ハマーン「今のお前では」
ハマーン「マシュマー有利だ」
ガトー「やはり」
ハマーン「だが」
ガトー「?」
ハマーン「一時間で」
ハマーン「ドライセンをあそこまで扱った」
ハマーン「一週間乗れ」
ガトー「……」
ハマーン「分からなくなる」
ガトーの目が。
輝く。
ガトー「一週間」
ドズル「お前」
ドズル「絶対乗る気だろ」
ガトー「当然です」
## シャアの評価
ハマーン「シャア」
シャア「何です」
ハマーン「どうだった」
シャア「……」
シャアは。
ザクIII改を見る。
シャア「ガトーの時とは」
シャア「少し違いました」
ハマーン「ほう」
シャア「機体が速いだけではない」
シャア「私が」
シャア「次に何をするか」
シャア「読まれていた」
ハマーン「そうだ」
シャア「こちらも」
シャア「何度か読んだ」
ハマーン「見ていた」
シャア「だが」
シャア「読み合いで互角になっても」
シャア「最後は」
シャア「機体性能で負ける」
ハマーン「正確だ」
シャア「厄介ですな」
マシュマー「当然だ!」
シャア「……」
マシュマー「このザクIII改は!」
マシュマー「ハマーン様のために戦う私の!」
ハマーン「マシュマー」
マシュマー「はい!」
ハマーン「機体の説明に私を入れるな」
マシュマー「申し訳ありません!」
## ガトーの一言
ガトー「しかし」
ドズル「何だ?」
ガトー「面白い」
ドズル「……」
ガトー「ドライセン」
ガトー「ザクIII」
ガトー「ザクIII改」
ガトー「この先に」
ガトー「まだあるのでしょう?」
ハマーン「ある」
ガトー「ドーベン・ウルフ」
ハマーン「ある」
ガトー「ゲーマルク」
ハマーン「ある」
ガトー「キュベレイ」
ハマーン「ある」
ガトー「……」
ドズル「おい」
ガトー「はい」
ドズル「目が怖いぞ」
ガトー「乗ってみたい」
ハマーン「ダメだ」
ガトー「まだ何も指定していません!」
ハマーン「ゲーマルクだろう」
ガトー「……」
ドズル「当たってんじゃねえか!」
その横で。
シャアは。
ジオングを見上げていた。
一年戦争。
ジオン公国が。
最後に用意した。
ニュータイプ専用MS。
本来なら。
最高峰。
それが。
九年後のザクに。
二分三十八秒。
シャア「……ザクIIIか」
ハマーン「欲しいか?」
シャア「……」
少しだけ。
間を置いて。
シャア「正直に言えば」
シャア「乗ってみたい」
ドズル「だよな!」
ハマーン「だが」
シャア「?」
ハマーン「お前には」
ハマーンが。
少し意地悪そうに笑った。
ハマーン「まだ早い」
シャア「……」
キシリア「ふふ」
シャア「ハマーン」
ハマーン「何だ」
シャア「やはり」
シャア「君とは気が合わない気がする」
ハマーン「奇遇だな」
ハマーン「私もだ」
## 第20話 完




