第19話 赤い彗星対ソロモンの悪夢
ア・バオア・クー。
MS格納庫。
会議室にいた一同は、場所を移していた。
ドズル「これか!」
巨大な機体。
ジオング。
未完成ではある。
だが。
一年戦争末期のジオンが投入する予定だった、ニュータイプ専用MS。
シャア「……これが」
キシリア「あなた用に用意されていた機体よ」
シャア「私には何の説明もありませんでしたが」
キシリア「戦況が戦況だったもの」
シャア「それにしても」
シャアが機体を見上げる。
そして。
当然。
気づく。
シャア「足がありませんな」
整備兵「足の問題ではありません!」
シャア「……」
ドズル「食い気味だな」
整備兵「先ほどからそればかり聞かれますので!」
## キャラ
キャラ「ハマーン様ぁ!」
遠くから。
聞き覚えのある声。
ハマーン「……」
キャラが走ってくる。
キャラ「何してるの?」
ハマーン「模擬戦だ」
キャラ「誰と誰?」
ハマーン「シャアとガトー」
キャラ「シャア?」
キャラがジオングを見る。
キャラ「これ?」
ハマーン「そうだ」
キャラ「……」
キャラが。
ジオングを。
上から下まで見る。
キャラ「足は?」
シャア「……」
整備兵「足の問題ではありません!」
キャラ「取れたの?」
シャア「違う」
キャラ「付け忘れた?」
シャア「違う!」
ドズル「ははははは!」
シャア「笑わないでいただきたい!」
キャラ「じゃあ最初からないの?」
シャア「そうらしい」
キャラ「変なの」
シャア「……」
## ガトーの機体
ガトー「それで」
ガトーが周囲を見る。
ガトー「私の機体は?」
ハマーン「こちらだ」
格納庫の奥。
一機のMSが歩行固定具に収まっている。
重厚な機体。
巨大な脚部。
丸みを帯びた装甲。
ガトー「……」
ドズル「ドライセン!」
ガトー「これが」
ハマーン「そうだ」
ガトーが機体を見上げる。
ガトー「先ほど話していた量産機」
ハマーン「そうだ」
ガトー「私では五分持たないと言った」
ハマーン「お前が現在の機体で戦えばな」
ガトー「……」
ハマーン「だが」
ハマーンがドライセンを見る。
ハマーン「お前自身がドライセンに乗れば」
ハマーン「話は別だ」
## 一般兵
ハマーン「誰か」
ネオ・ジオン兵「はっ!」
ハマーン「ドライセンの操縦資格を持つ者」
兵士が一人。
前へ出る。
ネオ・ジオン兵「自分が」
ハマーン「名前は」
ネオ・ジオン兵「ラド・ウェルナー曹長であります」
ハマーン「ガトーに教えろ」
ラド「はっ!」
ガトー「……」
ラド「よろしくお願いします」
ガトー「こちらこそ」
ラド「では」
ラドがドライセンを指す。
ラド「まずコックピットから」
## 九年後のコックピット
ガトーが。
ドライセンへ乗り込む。
ラドも横から説明する。
ガトー「……」
全周囲モニター。
リニアシート。
視界。
情報表示。
警告。
姿勢。
推力。
照準。
火器状態。
すべてが。
ガトーの知るMSとは違う。
ガトー「前が」
ラド「はい」
ガトー「全部見える」
ラド「全周囲モニターです」
ガトー「後ろも?」
ラド「見えます」
ガトー「……」
ラド「後方カメラへ切り替える必要はありません」
ガトー「……」
ガトーは。
しばらく黙った。
ガトー「卑怯では?」
ラド「はい?」
ガトー「いや」
ガトー「今までのMSは何だったのかと思ってな」
## 操縦
ラド「基本操作そのものは」
ラド「現在のMSと大きく変わりません」
ガトー「なら助かる」
ラド「ただし」
ガトー「?」
ラド「細かく操作しすぎないでください」
ガトー「どういう意味だ」
ラド「コンピューターが補正します」
ガトー「……」
ラド「姿勢制御」
ラド「推力配分」
ラド「照準補助」
ラド「着地姿勢」
ラド「スラスター制御」
ラド「ある程度は機体側が処理します」
ガトー「待て」
ラド「はい」
ガトー「パイロットは何をする」
ラド「行きたい方向を決めます」
ガトー「……」
ラド「撃つ相手を決めます」
ガトー「……」
ラド「撃ちます」
ガトー「……」
ラド「以上です」
ガトー「楽をしすぎではないか?」
ラド「よく0079年の方に言われます」
ガトー「他にも教えたのか?」
ラド「ドズル閣下が」
ガトー「なるほど」
## 初始動
ラド「では起動します」
ガトー「分かった」
ドライセンが起動。
モニターが点灯。
ガトー「……!」
機体が。
自分の手足のように。
いや。
それ以上に。
反応する。
ガトーが。
スラスターを軽く吹かす。
ガトー「速い!」
ラド「まだ十二パーセントです」
ガトー「何?」
ラド「十二パーセント」
ガトー「……」
ガトーが。
もう一度。
少し強く踏む。
ドライセンが。
一気に前へ出る。
ガトー「おおっ!」
ラド「出しすぎです!」
ガトー「これで!?」
ラド「二十八パーセント!」
ガトーが。
機体を止める。
ガトー「……」
ラド「大丈夫ですか?」
ガトー「楽しいな」
ラド「……」
ラド「分かります」
## 一時間後
一時間。
ガトーは。
ドライセンを動かし続けた。
加速。
減速。
旋回。
急制動。
姿勢変更。
射撃姿勢。
ビームランサー。
ビームトマホーク。
腕部ビームキャノン。
トライ・ブレード。
最初は。
機体に振り回されていた。
だが。
三十分。
四十分。
五十分。
ラドの表情が。
変わっていった。
ラド「……」
ハマーン「どうだ」
ラド「ハマーン様」
ハマーン「率直に言え」
ラド「気持ち悪いです」
ガトー「聞こえているぞ!」
ドズル「ははははは!」
ラド「違います!」
ラド「悪い意味ではありません!」
ハマーン「分かっている」
ラド「普通」
ラド「初めて乗った人間は」
ラド「ここまで動かせません」
ガトーが。
ドライセンを。
高速旋回させる。
そこから。
逆方向へ。
急加速。
そして。
ピタリと止まる。
ラド「もう」
ラド「私より上手いかもしれません」
ガトー「……」
ハマーン「当然だ」
ラド「え?」
ハマーン「その男は」
ハマーン「この時代では」
ハマーン「最高クラスのパイロットだ」
ガトー「……光栄です」
## シャア
一方。
シャアも。
ジオングの説明を受けていた。
シャア「有線式サイコミュ」
技術兵「はい」
シャア「腕部を分離」
技術兵「はい」
シャア「五連装メガ粒子砲」
技術兵「両腕」
シャア「頭部にも」
技術兵「メガ粒子砲があります」
シャア「……」
シャア「随分と」
シャア「私向きの機体ですな」
キシリア「でしょう?」
シャア「しかし」
シャアが。
遠くのドライセンを見る。
シャア「相手が悪くありませんか」
キシリア「怖い?」
シャア「まさか」
ハマーン「シャア」
シャア「何です?」
ハマーン「言っておく」
シャア「?」
ハマーン「機体性能では」
ハマーン「圧倒的にガトーが上だ」
シャア「……どの程度?」
ハマーン「比較するのが可哀想な程度に」
シャア「私が?」
ハマーン「ジオングが」
シャア「……」
ドズル「ははははは!」
シャア「笑わないでいただきたい!」
## 模擬戦
実弾は使用しない。
ビーム兵器は模擬判定。
被弾箇所と威力をコンピューターで算定。
一定以上の損傷判定で撃破。
ガトー「準備完了」
シャア「こちらも」
二機が。
ア・バオア・クー外部の演習宙域へ出る。
ドズル「どっちが勝つ?」
デラーズ「ガトー」
即答。
キシリア「私はシャア」
ドズル「理由は?」
キシリア「面白いから」
ドズル「理由になってねえ!」
ギレン「ハマーン」
ハマーン「何です」
ギレン「予想は」
ハマーン「ガトー」
キシリア「即答ね」
ハマーン「機体差が大きすぎます」
ドズル「でもジオングだぞ?」
ハマーン「古いです」
ドズル「またそれか!」
## 開始
管制官「模擬戦開始!」
シャアが。
先に動いた。
ジオング。
高加速。
脚部が存在しない分。
宇宙戦に特化した機体。
ガトー「速い!」
だが。
次の瞬間。
ガトー「……いや」
ドライセンが加速する。
ガトー「遅い!」
シャア「!」
シャアの感覚では。
十分に速い。
だが。
ドライセンに乗ったガトーから見ると。
違う。
ガトー「見える!」
ドライセンが。
一気に。
ジオングの側面へ回る。
シャア「何っ!」
シャアが腕を射出。
有線式五連装メガ粒子砲。
左右から。
挟む。
ガトー「これがオールレンジ攻撃!」
ラドから。
聞いていた。
ガトー「だが!」
ドライセン。
急上昇。
シャア「!」
射線が。
交差。
当たらない。
ガトー「遅い!」
## シャアの技量
だが。
シャアも。
ただでは終わらない。
シャア「そこだ!」
ガトー「!」
ガトーの移動先へ。
先に撃つ。
ガトー「読まれた!」
ドライセンが。
反応する。
ガトー「くっ!」
回避。
ビームが。
わずかに。
肩を掠める。
管制官「ドライセン右肩、軽微損傷判定!」
キシリア「当てた」
ハマーン「さすがだな」
ドズル「おお!」
デラーズ「ガトー!」
ガトー「やりますな!」
シャア「君もな!」
## しかし
シャアは。
気づいていた。
シャア「……」
おかしい。
ガトーは。
自分の攻撃を。
見てから避けている。
シャア「冗談ではないぞ」
次の瞬間。
ドライセンが。
消えた。
シャア「どこだ!」
警告。
後方。
シャア「!」
旋回。
間に合わない。
ガトー「もらった!」
腕部ビームキャノン。
模擬弾。
ジオングの左肩。
管制官「ジオング左肩被弾!」
シャア「まだだ!」
右腕分離。
ガトーの背後へ。
ガトー「!」
シャア「そこだ!」
射撃。
ガトー「面白い!」
ドライセンが。
横へ滑る。
完全回避。
シャア「……!」
## 二分
一分。
シャアは。
まだ戦えていた。
一分三十秒。
ジオング右腕。
撃破判定。
一分四十七秒。
左腕。
撃破判定。
一分五十五秒。
シャア「!」
ドライセンが。
正面へ。
ガトー「終わりです!」
ビームランサー。
シャア「まだ!」
ジオングが。
ギリギリで避ける。
ハマーン「……」
二分。
ガトー「!」
シャアが。
頭部メガ粒子砲。
ガトー「読んでいる!」
回避。
そして。
二分十一秒。
ドライセンのビームランサーが。
ジオングの胸部へ。
管制官「致命傷判定!」
管制官「ジオング撃破!」
管制官「勝者!」
管制官「アナベル・ガトー!」
## 二分十一秒
静寂。
ドズル「……」
キシリア「……」
デラーズ「……」
ギレン「……」
ハマーン「二分十一秒」
ドズル「短っ!」
キシリア「シャア……」
シャア「聞こえています」
ガトー「……」
ガトー自身も。
驚いていた。
ガトー「これが」
ガトーが。
自分の手を見る。
ガトー「ドライセン」
ハマーン「そうだ」
ガトー「私は」
ガトー「まだ」
ガトー「一時間しか乗っていない」
ハマーン「そうだ」
ガトー「それで」
ガトー「シャア大佐を」
ハマーン「二分十一秒」
シャア「何度も言わなくていい」
ドズル「ははははは!」
シャア「ドズル中将!」
## シャアの感想
二機が。
帰還。
シャアが。
コックピットから降りる。
ドズル「どうだった?」
シャア「最悪です」
ドズル「はははは!」
シャア「笑わないでいただきたい」
ハマーン「何が最悪だった?」
シャアは。
少し考える。
シャア「こちらは」
シャア「ガトーの動きを読んでいた」
ハマーン「そうだな」
シャア「何度か」
シャア「完全に読んだ」
ハマーン「見ていた」
シャア「なのに」
シャア「当たらない」
ガトー「……」
シャア「ガトーが避けたのではない」
シャア「ドライセンが」
シャア「避けられる」
ハマーン「その通りだ」
シャア「逆に」
シャア「こちらは」
シャア「ガトーの攻撃が見えていても」
シャア「避けきれない」
ハマーン「それもその通りだ」
シャア「……」
シャア「不公平ですな」
ドズル「戦争ってそういうもんだろ」
シャア「身をもって理解しましたよ」
## ガトー
ハマーン「ガトー」
ガトー「はい」
ハマーン「どうだった」
ガトー「……」
ガトーは。
ドライセンを見る。
ガトー「先ほど」
ガトー「私が今の機体で」
ガトー「ドライセンと戦えば」
ガトー「五分持たないと言われた時」
ハマーン「信じていなかったか」
ガトー「正直に言えば」
ガトー「半信半疑でした」
ハマーン「今は?」
ガトー「……」
ガトー「五分」
ガトー「長すぎませんか?」
ドズル「おい!」
ハマーンが。
少し笑う。
ハマーン「分かったか」
ガトー「はい」
ガトー「パイロットの技量だけでは」
ガトー「どうにもならない差がある」
ハマーン「そうだ」
ガトー「だが」
ガトーの目が。
変わる。
ガトー「この機体を」
ガトー「私が使えるなら」
ハマーン「……」
ガトー「話は別だ」
ハマーン「その通りだ」
## 一般兵
ラド「ガトー少佐」
ガトー「何だ」
ラド「一つだけ」
ガトー「言ってくれ」
ラド「トライ・ブレード」
ガトー「……」
ラド「一回も使ってません」
ガトー「……」
ラド「説明したのに」
ガトー「忘れていた」
ラド「……」
ドズル「はははははは!」
ガトー「笑わないでください!」
ラド「あと」
ガトー「まだあるのか」
ラド「推力」
ガトー「?」
ラド「最大で七十一パーセントしか使ってません」
ガトー「……」
シャア「何?」
ラド「最高七十一パーセントです」
ガトーが。
ドライセンを見る。
ガトー「まだ」
ガトー「三割残っていたのか」
ラド「はい」
シャア「……」
シャアが。
ハマーンを見る。
シャア「もう一度やれと?」
ハマーン「言っていない」
シャア「なら良かった」
ガトー「私はやりたいですが」
シャア「私は嫌だ」
ドズル「即答かよ!」
シャア「私は自殺志願者ではない」
ハマーン「賢明だ」
そして。
ア・バオア・クーの格納庫に。
一つの事実が。
刻み込まれた。
赤い彗星。
ソロモンの悪夢。
どちらも。
宇宙世紀0079年を代表する。
一流のパイロット。
だが。
九年後の量産機を。
一流のパイロットが手にした瞬間。
一年戦争末期のニュータイプ専用機ですら。
二分十一秒。
それが。
九年という。
時間の差だった。
## 第19話 完




