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15/22

第15話 ザビ家の未来

ア・バオア・クー会戦終結。


翌日。


戦後処理が続く中、極秘会談が開かれた。


参加者は四人。


ジオン公国総帥、ギレン・ザビ。


宇宙攻撃軍司令、ドズル・ザビ。


突撃機動軍司令、キシリア・ザビ。


そしてネオ・ジオン総帥、ハマーン・カーン。


護衛すら室外へ出された。




## 開始


ギレン「それで、何の会談だ」


ドズル「兄貴」


ギレン「何だ」


ドズル「最初に言っとく。怒るなよ」


ギレン「内容による」


ドズル「だよなあ」


キシリア「ドズル兄上は黙っていた方がいいわ」


ドズル「何でだ!」


キシリア「話が進まないから」


ドズル「お前まで!」


ギレン「キシリア」


キシリア「はい」


ギレン「お前も知っているのか」


キシリア「昨日、聞きました」


ギレン「私より先に?」


キシリア「ええ。私が自分で気づきましたから」


ドズル「俺は?」


キシリア「兄上は教えてもらったのでしょう」


ドズル「……」


キシリア「私は気づきました」


ドズル「いちいち腹立つな、お前!」


ハマーン「始めても?」


ギレン「始めろ」




## 九年後


ハマーンは一枚の写真をテーブルに置いた。


幼い少女。


ギレン「ハマーン・カーン」


ハマーン「はい」


ギレン「アクシズにいるマハラジャ・カーンの娘」


ハマーン「そうです」


ギレンは写真から視線を上げ、目の前に座る成人したハマーンを見る。


ギレン「そして、お前もハマーン・カーン」


ハマーン「はい」


ギレン「同一人物だと?」


ハマーン「そうです」


ギレン「……」


ハマーン「現在は宇宙世紀0079年。私がいたのは宇宙世紀0088年です」


ギレン「九年後」


ハマーン「はい」


ギレン「ネオ・ジオン艦隊も?」


ハマーン「はい」


ギレン「五十三隻すべて」


ハマーン「はい」


ギレン「搭乗員、MS、補給艦、整備要員も?」


ハマーン「すべてです」


ギレンは黙った。


荒唐無稽。


本来ならば、その一言で切り捨てる話だった。


だが、切り捨てられない。


昨日、自分は見た。


現在のジオンが製造できないMS群。


ザクIII。


ドライセン。


ドーベン・ウルフ。


ゲーマルク。


キュベレイ。


そして五十三隻もの艦隊。


一機の試作兵器なら秘密開発で説明できる。


数機でも可能性はある。


だが艦隊規模の兵器体系。


補給艦。


整備設備。


規格化された部品。


訓練された搭乗員。


それらすべてが、現在のジオン技術の延長線上にありながら、明らかに現在を超えている。


しかも。


現在アクシズには、幼いハマーン・カーン本人が存在する。


――九年後。


ギレンは頭の中で、その数字を何度も転がした。


もし本当なら。


これは単なる増援ではない。


**九年間の研究開発そのものを手に入れたことになる。**


ギレン「……続けろ」




## 本来のソロモン


ハマーン「本来、ソロモンは陥落します」


ギレン「……」


ハマーン「ドズル閣下はビグ・ザムで出撃。RX-78-2ガンダムと交戦し、戦死します」


ギレンは弟を見る。


今。


目の前にいる。


生きている。


声も大きい。


相変わらず感情的で。


自分とはまるで違う弟。


だが、本来なら昨日には存在しなくなっていた。


ギレンはそこで初めて、ハマーンの出現を単なる軍事的幸運とは別の角度から見た。


――ドズルが死んでいた。


もしネオ・ジオンが来なければ。


それは確定した過去だったのか。


ギレン「確実なのか」


ハマーン「はい」


ドズル「俺はもう聞いた」


ハマーン「ソロモンは連邦軍に占領され、後にコンペイトウと改称されます」


ドズル「やっぱその名前気に入らねえ!」


キシリア「そこは今どうでもいいでしょう」


ドズル「自分の要塞にコンペイトウなんて付けられてみろ!」


キシリア「その時点で兄上は死んでいるのでしょう?」


ドズル「もっとひでえ!」


ギレンは二人のやり取りを聞きながら、別のことを考えていた。


ドズルが死ぬ。


ソロモンを失う。


つまり本来の自分は、そこからさらに追い詰められていく。


では。


その自分は。


何を選ぶ?




## 父殺し


ハマーン「その後、デギン公王はレビル将軍との和平を試みます」


ギレンの思考が止まった。


ギレン「父上が?」


ハマーン「はい。戦争を終わらせるために」


それは理解できた。


父はガルマの死以降、明らかに変わっている。


戦争への意欲も低下している。


和平を求めても不思議ではない。


問題は。


その後だった。


ハマーン「そしてソーラ・レイが発射されます」


ギレン「誰が命令した」


ハマーン「あなたです」


ギレン「……」


ハマーン「標的は連邦艦隊」


ギレン「父上は?」


ハマーン「射線上にいました」


ギレン「……」


ハマーン「レビル将軍も」


ギレン「私は、それを知っている?」


ハマーン「はい」


ギレン「その上で撃つ?」


ハマーン「はい」


ギレン「……」


表情は変えなかった。


だが。


頭の中で。


何かが軋んだ。


父を殺す。


自分が。


ギレンは感情だけで否定しなかった。


むしろ。


最も嫌な方法で考えた。


――自分なら、やる可能性があるか?


父が独断でレビルと和平を結ぼうとする。


それによってジオンの戦争目的そのものが崩れる。


しかもレビルを含む連邦主力艦隊を一撃で消滅させられる機会がある。


国家。


戦争。


勝利。


父。


それらを天秤に載せた時。


未来の自分が。


何を選ぶ?


そして。


ギレンには。


その答えが想像できてしまった。


だからこそ。


不快だった。


「そんなことをするはずがない」と笑い飛ばせない。


**自分なら、条件次第で本当に撃つ。**


それが分かる。


ギレンは。


未来の自分を否定できなかった。


だが同時に。


結果も聞いている。


ジオンは敗北する。


ならば。


その判断は。


少なくとも結果論では。


失敗だった。


ギレン「……そうか」


ドズル「兄貴」


ギレン「今の私に怒るな」


ドズル「分かってる」


ギレン「まだやっていない」


ドズル「だから殴ってねえだろ」


ギレン「殴るつもりだったのか」


ドズル「最初に聞いた時はな」


ギレン「……」


だがギレンの内心は、ドズルが思っているより遥かに乱れていた。


父を殺した。


それだけではない。


その決断をした未来の自分が。


**戦争にも負ける。**


つまり。


父を犠牲にしてまで選んだ勝利への道が。


勝利に繋がらなかった。


それこそが。


ギレンには最も重かった。




## 自分の死


ギレン「続けろ」


ハマーン「その後、ア・バオア・クー会戦が始まります」


ギレン「昨日の戦いだな」


ハマーン「本来の歴史では、ソーラ・レイによって連邦軍も大損害を受け、レビル将軍も死亡します。それでも連邦軍は進撃します」


ギレン「そして?」


ハマーン「あなたはア・バオア・クーの指揮を執ります」


ギレン「当然だ」


ハマーン「そこへキシリア閣下が来ます」


ギレンは妹を見る。


ハマーン「キシリア閣下はデギン公王がソーラ・レイで死亡したことを確認し、あなたに問いただします」


ギレン「……」


ハマーン「そして、あなたを射殺します」


沈黙。


ギレンは。


今度こそ。


数秒間。


完全に動かなかった。


死ぬ。


自分が。


連邦兵にではない。


アムロ・レイでもない。


レビルでもない。


目の前に座る。


妹に。


ギレンはキシリアを見る。


キシリアもギレンを見る。


妙な感覚だった。


未来では。


この女が自分へ銃口を向ける。


そして。


自分は。


それに気づくことすらできずに死ぬ。


ギレンは自分の死そのものより。


その状況を分析した。


なぜ警戒しなかった?


父を殺した直後。


キシリアが来る。


問いただされる。


それでも。


未来の自分は。


妹を脅威と認識しなかった。


――慢心。


その言葉が。


頭に浮かぶ。


自分が。


妹を。


過小評価した。


そして。


死んだ。


ギレンにとって。


それは銃弾以上に不愉快な事実だった。


ギレン「キシリアが」


ハマーン「はい」


ギレン「私を」


ハマーン「はい」


ギレン「……そうか」


キシリア「私を見ないでください」


ギレン「撃つのか」


キシリア「今は撃ちません」


ギレン「今は?」


キシリア「言葉の綾です」


ドズル「お前ら怖えよ!」


ギレンは。


ほんの少しだけ。


口元を動かした。


笑ったのか。


自嘲したのか。


自分でも分からなかった。


未来の自分は。


父を殺し。


妹に殺される。


なんとも。


無様な終わり方だった。




## キシリア


ギレン「理由は父上か」


ハマーン「大きな理由でしょう」


キシリア「兄上」


ギレン「何だ」


キシリア「私も昨日初めて聞きました」


ギレン「分かっている」


キシリア「……」


ギレン「今のお前がやったことではない」


キシリア「ええ」


ギレン「ならば責める理由はない」


ハマーンがギレンを見る。


ギレン「何だ」


ハマーン「いえ」


ギレン「意外だったか」


ハマーン「少し」


ギレン「未来の行為と現在の行為を混同するほど愚かではない」


ハマーン「それなら話が早い」


だが。


ギレンは。


キシリアへの認識を。


その瞬間。


修正していた。


妹。


部下。


突撃機動軍司令。


政治的競争相手。


それだけではない。


**条件次第では自分を殺す決断ができる人間。**


そして実際に。


未来では実行した。


ならば。


今後。


キシリアを単なる妹として扱ってはならない。


同時に。


排除するべきでもない。


未来を知ったことで。


その未来は。


すでに変わっている。


重要なのは。


同じ状況を作らないことだ。


ギレンは。


静かに結論を出した。


**未来のキシリアを殺す必要はない。**


**未来のキシリアが自分を殺す理由を消せばいい。**




## キシリアの死


ギレン「では、私を殺したキシリアはどうなる」


キシリア「兄上」


ギレン「気になるだろう」


ドズル「まあ気になるな」


ハマーン「死にます」


ギレン「早いな」


キシリア「……」


ハマーン「ア・バオア・クーから脱出する際、シャア・アズナブルに殺害されます」


ギレン「シャア」


キシリア「昨日、本人に確認しました」


ギレン「何を」


キシリア「シャア・アズナブルの本名は、キャスバル・レム・ダイクン」


ギレンの思考が。


再び止まった。


ジオン・ズム・ダイクンの息子。


生きていた。


しかも。


ジオン軍に潜入していた。


赤い彗星。


ギレンは即座に過去の情報を繋げていく。


士官学校。


ガルマ。


シャア。


ホワイトベース。


ガルマ戦死。


ギレン「……ガルマ」


キシリア「本人が認めました」


ギレン「意図的だったのか」


キシリア「ええ。ホワイトベースの射線へ誘導したと」


ドズル「何度聞いても腹立つ!」


ギレンは怒鳴らなかった。


だが。


胸の奥に。


冷たい怒りが生まれた。


ガルマ。


末弟。


政治的にも利用価値の高い存在だった。


だが。


それだけではない。


家族だった。


しかも。


ガルマはシャアを信じていた。


その信頼を。


利用された。


ギレン「理由」


キシリア「ザビ家への復讐」


ギレン「ガルマ個人への恨みは」


キシリア「ないそうです」


ギレン「……愚かな」


ドズル「シャアがか?」


ギレン「それもある」


ギレンは。


自分自身にも。


苛立っていた。


ギレン「敵の息子を、身元も見抜かず軍内部へ入れた」


キシリア「……」


ギレン「士官学校へ通わせ」


ギレン「エースパイロットに育て」


ギレン「ガルマの友人にし」


ギレン「重要部隊を任せた」


ギレン「情報機関の完全な失態だ」


ドズル「そこなのかよ!」


ギレン「そこもだ」


そして。


ギレンは心の中で付け加えた。


**自分自身の失態でもある。**


国家の頂点に立つ者が。


ダイクンの息子が軍内部に入り込んでいることすら知らなかった。


ガルマを失ってなお。


シャアを使い続けた。


未来では。


その男がキシリアまで殺す。


これは偶然ではない。


ザビ家は。


敵を外にばかり見て。


内部に入り込んだ復讐者を見落とした。




## 滅びた家族


ハマーン「本来の歴史では、ドズル閣下は戦死。デギン公王はソーラ・レイで死亡。ギレン総帥はキシリア閣下に射殺。キシリア閣下はシャアに殺害。ガルマ様はすでに死亡しています」


ドズル「……ひでえな」


ギレン「……」


キシリア「……」


ドズル「連邦にやられたの、俺くらいじゃねえか?」


ハマーン「大雑把に言えば」


ドズル「父上は兄貴。兄貴はキシリア。キシリアはシャア。ガルマもシャア」


ドズル「……」


ドズル「俺たち、何やってんだ?」


誰も答えなかった。


ドズル「連邦がザビ家を滅ぼしたんじゃねえ」


ドズル「ザビ家が、自分でザビ家を滅ぼしてるじゃねえか!」


ギレン「……」


その言葉は。


ギレンにも刺さった。


戦略。


兵站。


国力。


兵器。


人口。


政治。


ギレンは。


国家の敗北を。


そうした数字で考えていた。


だが。


ハマーンが語った未来は違う。


父と息子。


兄と妹。


友人を装った復讐者。


内部崩壊。


指揮系統の断絶。


**ジオンは連邦に敗れる前に、ザビ家の中から崩れていた。**


もし。


自分が父を殺さなければ。


キシリアは自分を殺さない。


自分が死ななければ。


指揮系統も崩れない。


シャアの正体を見抜いていれば。


ガルマも。


キシリアも。


違った可能性がある。


そして。


ドズルがソロモンで死ななければ。


今のように。


ここにいる。


ギレンは。


初めて。


未来という情報の本当の価値を理解した。


兵器ではない。


ザクIIIでもない。


ゲーマルクでもない。


九年後の工作機械ですらない。


**失敗を知っていること。**


それこそが。


最大の価値だった。




## ジオン敗北


ハマーン「宇宙世紀0079年12月31日。ジオン公国は事実上敗北します」


ギレン「……」


ハマーン「翌年、ジオン共和国が地球連邦政府と和平。一年戦争は終結。ジオン公国は消滅します」


ギレン「……」


自分が作り上げた国家。


軍。


思想。


戦争。


そのすべてが。


本来なら。


昨日。


終わっていた。


ギレンは。


ア・バオア・クー会戦を思い出す。


もしネオ・ジオンが来なければ。


実際。


要塞は落ちていた。


ハマーンの話は。


もはや歴史書の記述ではない。


自分自身が。


昨日。


その直前まで体験している。


あと一時間。


いや。


もっと短かったかもしれない。


ネオ・ジオンが来なければ。


連邦軍は要塞内部へ侵入。


指揮系統は崩壊。


そして。


自分も死ぬ。


偶然ではない。


ハマーンの語る未来は。


**昨日まで現実になりかけていた。**


ギレン「……完敗だな」


ドズル「兄貴?」


ギレン「本来の我々は」


ギレン「戦争にも負け」


ギレン「国家も失い」


ギレン「家族も失い」


ギレン「最後には互いを殺した」


キシリア「……」


ギレン「笑えんな」




## ミネバ


ハマーン「ただし、一人だけ生き残ります」


ギレン「誰だ」


ハマーン「ミネバ・ラオ・ザビ」


ドズルの顔が変わる。


ハマーン「彼女がザビ家の後継者として生き残ります」


ギレン「ドズルの娘」


ハマーン「はい」


ギレン「九年後まで?」


ハマーン「はい」


ドズル「元気なんだよな?」


ハマーン「元気です」


ドズル「よし」


ギレンは。


そんな弟を見た。


本来なら。


ドズルは死ぬ。


娘が成長する姿を見ることもない。


そして。


自分も。


キシリアも。


父も。


ガルマも。


いない。


十歳にも満たない少女だけが。


ザビ家を背負う。


ギレン「……酷な話だ」


ドズル「だろ?」


ギレン「ああ」


ドズルが。


少し驚いた顔をした。




## ハマーン


ハマーン「ゼナ様とミネバ様は敗戦後、アクシズへ逃れます」


ギレン「マハラジャ・カーンのいるアクシズへ」


ハマーン「はい」


ギレン「そして」


ギレンが。


ハマーンを見る。


ギレン「お前がミネバを支える」


ハマーン「はい」


ギレン「九年後」


ギレン「実権を握っているのは」


ハマーン「私です」


ギレン「ミネバは象徴」


ハマーン「否定しません」


ドズル「その話は俺も聞いた」


ギレン「……」


ギレンは。


ハマーンを見直した。


目の前の女は。


単なる未来人ではない。


ザビ家が全滅した後。


幼いミネバを頂点に置き。


残党をまとめ。


軍を作り。


艦隊を作り。


地球圏へ戻り。


そして。


昨日。


自分たちを救った。


ギレンの評価が。


静かに変わった。


少なくとも。


無能ではない。


むしろ。


相当に危険なほど有能だ。


そして。


それだけの権力を持ちながら。


ミネバを殺して自ら王座に就くことはしなかった。


そこも。


無視できない。




## マハラジャ


ギレン「お前の父親は0088年にも?」


ハマーン「いいえ」


初めて。


ハマーンの表情が変わった。


ハマーン「父は宇宙世紀0083年に死亡します」


ギレン「……そうか」


ハマーン「ですから、私にとって現在アクシズにいる父は、すでに五年前に亡くなった人間です」


沈黙。


ドズル「会えよ」


ハマーン「……」


ドズル「早く」


ハマーン「戦後処理が」


ドズル「そんなもん俺たちがやる!」


ハマーン「ドズル閣下」


ドズル「五年前に死んだ親父が生きてんだろ! だったら会え!」


キシリア「私も同意するわ」


ハマーン「キシリア閣下まで」


ギレン「行けばいい」


ハマーン「総帥」


ギレン「五十三隻の艦隊を率いる総帥が数日席を外した程度で崩壊する組織なら、そもそも大した軍ではない」


ハマーン「……」


ドズル「兄貴なりに優しく言ってるんだ」


ギレン「余計な解説をするな」


ドズル「分かりにくいんだよ!」


ハマーンが。


ほんの少し笑った。




## ギレンの結論


だが。


ギレンの思考は。


すでに次へ進んでいた。


未来は。


変えられる。


ドズルが。


その証拠だ。


本来死んだ男が。


目の前でうるさく喋っている。


レビルも生きている。


父も生きている。


自分も。


キシリアも。


生きている。


なら。


未来とは。


運命ではない。


**失敗例だ。**


ギレンは。


そう定義した。


未来の自分が父を殺した。


ならば。


父を殺さずに済む状況を作る。


未来のキシリアが自分を殺した。


ならば。


キシリアが自分を殺す理由を作らない。


シャアがガルマとキシリアを殺した。


ならば。


シャアを管理下へ置く。


ジオンが敗北した。


ならば。


敗北の原因を一つずつ潰す。


そして。


その後の九年間に起きたことも。


すべて聞く。


失敗。


反乱。


戦争。


技術。


人物。


組織。


原因。


結果。


未来を知るということは。


未来に従うことではない。


未来を。


**二度と起こさないために利用することだ。**




ギレン「話はまだ終わっていない」


ハマーン「はい」


ギレン「我々が敗北した後」


ギレン「何が起きる」


ハマーン「長い話になります」


ギレン「構わん」


ハマーン「デラーズ・フリート」


ギレン「……」


ハマーン「ティターンズ」


ギレン「……」


ハマーン「エゥーゴ」


ギレン「……」


ハマーン「グリプス戦役」


ギレン「……」


ハマーン「そしてアクシズ」


ハマーン「ネオ・ジオン」




ギレンは。


静かに。


椅子へ深く座った。


先ほどまで。


未来を聞くことに。


わずかな不快感があった。


自分の失敗を。


他人から聞かされるからだ。


だが。


今は違う。


ギレンの目は。


完全に。


戦略家の目へ戻っていた。




ギレン「聞かせてもらおう」


ハマーン「はい」


ギレン「我々が負けた後」


ギレン「誰が」


ギレン「何を間違え」


ギレン「何が原因で」


ギレン「次の戦争が起きたのか」




ハマーン「……」




ギレン「結果だけではなく」


ギレン「原因からだ」




ハマーンが。


わずかに笑った。


ハマーン「分かりました」




ギレンの中で。


未来は。


もはや予言ではなかった。


恐怖でもない。


それは。


**九年分の失敗報告書。**


そして。


ギレン・ザビほど。


失敗報告書を。


利用しようとする男はいなかった。


## 第15話 完

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