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蘇我の姫  作者: たま


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月夜の出会い

周りの者に聞いたが、あの中臣鎌足の息子なのに知る者はほとんど居なかった。姿も知らないと。幼い頃に天然痘となり跡が消えず二目と見れぬ姿だとか。

確かに天然痘に掛かった者を何度か見たことはある。

だいたい死ぬ病だと聞いている。

「いつも長いローブと頭にもフードを被られて、鎌足さまが決して見せれぬ姿だと天智天皇にすら、その姿を見せたことは無いと聞いております。」長く宮廷に使えた者もその姿を知らなかった。

「果たして会って良いのだろうか?」だんだん不安になる。それも昼間は出歩いた事がないそうで、月の明るい夜を指定してきた。

この時代、街灯は無いので原則誰も夜道は歩かない。月が満月近くなると昼間のように明るくなるので、その時だけ出掛けて生きてきたそうだ。

余計に会うのが不安になる。

満月の夜、藤原不比等が宮殿に現れた。1人の従者のみ連れて。サーラは怖くて、20人のお供に四方八方を警備させた。

確かに満月で庭に面する面会室は昼間のように明るい。マントの男が会釈する。

「ずっとお会いしたいと思いましたが、私の姿形は天智天皇様の時代にはご法度でございました。

父も決して人前でマントを脱ぐなと言われて育ちました。

まさか、うののサーラ様が有間皇子を深く愛し、天智天皇様に代わり謝りたいと思ってらっしゃるとお聞きして感動致しました。位牌のない有間皇子のため仏像を作りたいとのお話しを聞いて役に立てればとはせ参じました。無礼をお許し下さい。」と頭を下げる。

「私は忘れぬようにと何枚も有間皇子の絵を描いて来ました。アナタもお持ちなんですか?有間皇子の生前のお姿を模したものを?」従者も本人も何も携えていないので警戒する。

ツバを飲みこむ音が静寂に響く。

「もう今となっては在りし有間皇子を知る者がサーラ様ぐらいなのでは?

私の周りにはおりません。どうかこの姿を見てご判断下さい。」とマントを取った。

そこには、サーラが憧れた近付けなかった有間皇子がそのまま青年になって立っていた。

「…………なぜ?ウソっ…」サーラには死の国から有間皇子が蘇ってきたのだとしか思えない。

「父に殺されたと聞いておりました!生きてらしたの?」と叫んでしまう。

だが、生きていれば今ごろ45くらいだ。

眼の前に立つ青年はどう見ても22.3だ。

サーラは狼狽えて後ろに両手をついてしまった。お付きのものがすぐに両脇からサーラを支える。

「…やはり、私は有間皇子ソックリなのですか?

父も亡くなり、蘇我赤兄も亡くなりました。知っているのはサーラ様だけです。」サーラの驚きに不比等は反対に嬉しそうだ。

ずっと顔を隠して生きなければいけなかった理由をやっと証明できたのだ。

中臣鎌足は、これをずっと隠し通していたのか?

生まれた時、きっと呪いかと恐れた事だろう。中大兄皇子にバレたら赤子だけでなく自分の命すら危ない。

昔は今よりそういうものが信じられていたのだ。

「 良く父にも殺されず生きてこれましたね。」中臣鎌足は葬りたかったはずだ。他にも息子は山ほど居たはずだ。

急に清々しい有間皇子と同じ顔は悪魔のように微笑む。「フッ、私を殺せば藤原家を滅ぼすだけです。父も一族皆殺しは避けたかったのでしょう。」と微笑んだ。

有間皇子ソックリだが、この人は別人だ。

サーラにも分かった。

「どうか私を仏像のモデルにお使い下さい。」と言いながら身体のマントも脱いだ。

疱瘡の跡など無かった。ほとんど裸に薄い紗だけまとった均整と取れた美しい身体だった。

その姿まで!有間皇子にソックリで…サーラは号泣しだした。

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