暗闇の逢瀬
中臣鎌足が若い時、その存在に稲光のような衝撃を受けた男が聖徳太子なのだ。
皆が天皇を目指して権謀術数を張り巡らせ水面下で戦う中をただ1人天皇を自ら辞した男。叔母を天皇にして叔父の馬子を参謀にして「摂政」と言う立場を作り日本の国造りに腐心した。
天皇家を八百万の神で神格化し日本を1つの国として捉え強い中央集権国家を作ること。
仏教の一神教の強みを生かし海外交易や地方をまとめるのに使うハイブリッド国家。
急に出現した天才に舌を巻いた。
そこから中臣家の聖徳太子研究は始まった。
蘇我蝦夷入鹿、息子の山背大兄王は始末したが、聖徳太子研究のために蘇我馬子の末っ子倉麻呂を残した。
優秀だが聖徳太子のような傑出した人物は出ない。
聖徳太子のルーツを探ると蘇我氏の血を両親から引きつつ天皇家と半々混じるハイブリッド人間であることに行き着いたのだ。
なので天智天皇の娘、大田皇女とサーラの動向に注視していたのだ。
特に淫乱かと思われるほど破天荒なサーラ姫は亡き聖徳太子の男女構わず振りまかれる色気を思い出す。
鎌足もそれに思春期を持っていかれたそうだ。
「貴女を抱く日をいつかいつかと待ち焦がれておりました。必ず生き残って抱くのだと…何度半殺しの目にあっても生きて良かったです。」不比等の話を聞いてると寒気がする。
藤原家は暗殺のプロなのだ。まず家族同士で殺し合うらしい。噂では聞いていたが…
「貴女のように戦争は無理です。藤原家は平和を影から支える血塗られた一族なのです。」ポツポツと弱音のような怖い話をする。
「戦争が1番迷惑よ。家族同士や身内の権力争いで殺し合うのが、国としては平和よ。
私と大海人王子は、そういうの苦手なので壬申の乱を起こしたけど。」国家レベルで考えればそうなのだ。
「…本当ですか?そう言っていただけると…働きがいがあります。必ずや民の血を流さない形で貴女の国を創ります。」そう言いながら慣れた月明かりすら無い星空のみの暗闇の外へ帰って行った。彼には真っ暗にしか見えない夜が昼のように歩ける不思議な力があるようだ。
なぜだろう?
久々の人の肌なのにひどく冷たくて血なまぐさい気配が残る…逢瀬だった。
天武天皇のような暖かさや安堵はそこには無かった。
あれほど夢見た推しとの逢瀬なのに…いや、似た別物だ。
明らかに有間皇子ではない。漆黒の闇の王子だった。
そして、これから藤原家で起こった事がこの天皇家でも起こる前ぶれなのだろう。
「民の血は流れない…が、私達は血を流すのね…」藤原不比等が宮殿に来た日から屋敷全体に禍々しい何かが取り憑いた気がする。
天武天皇が医者達の祈祷の声に守られているのか、遥かそこだけが禍々しい黒雲から守られていた。




