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蘇我の姫  作者: たま


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不安

大海人王子は、ほとんど眠ってるだけになってしまった。医者が何人も周りを囲み寝ずの番をしてる。

高市皇子に話したが、忙しいようだ。藤原京に人が集まるようになったのは良いが、疫病が蔓延し汚水処理などが追いつかず工事を急がせているようだ。

サーラはいかにも戦争みたいな事態には強いが、こういうジワジワと来る恐怖に弱い。

祈祷師や色々話は来るが、人生で頼った事もないので苦手だ。矢田山の祈願も大海人王子だけで行って貰ったし。

努力して努力して後は実行のみの人間なのだ。

仏師が彫刻の作業に入り、また不比等にも来て貰う。

少し心が華やぐが不安の方がどんどん大きくなる。

「天武様の体調が(すぐ)れないのですか?」不比等が聞いてくる。

「どうして、そう思うの?」サーラが攻撃的に聞く。

長年の人生で人に弱みを見せるのは嫌なのだ。

「分かりやすいですよ。サーラ様の顔色が悪い。表情も前回より険しい。

アナタがそんな顔するのは天武様に何かある時だけでしょ?」と呆れた顔をする。

「………」具の音も出ない。サーラが自分の顔を触る。

今日は彫刻のだいたいの彫りを進めたが、次回からはお呼びする時は作業場になると断って仏師は弟子と共に運んで帰った。

お茶が運ばれ菓子も出してねぎらう。

暑い盛りなので冷した唐の茶を出す。前の残りだ。

はるか中国でも政情が急変してると聞いた。

遷都してから遣唐使も出していない。今は内政を整えるのが先なのだ。

忙しくなく扇子で扇いでるが、心はここにあらずの状態だ。

高市皇子に政治は任せているし我が子草壁皇子と姉の子大津皇子がサポートしてる。

問題は天武の後の天皇だ。

混乱を避け、天智天皇時代の役人も使って政治的混乱を避けてる。父の姫達を夫の皇子達と定期的に合コンさせて、良い感じにもしてるが…

一応順位表は公表してる。姉の子、大津皇子が天武天皇に何かあった時の次の天皇なのだ。

後ろ盾は長年育てたサーラなのだが、サーラはどうしても割り切れていない。

亡くなった姉とは小さな時から小競合いしていた。

なんなら姉は2人目を産んだ時、「フフッ私の勝ちね」と笑ってたくらいだ。

サーラは産んだ女性たちの様子を見て踏み出せなかった。1人産んだ人はお元気な人が多いが、2人目産んだ人が居ないのだ。

男達も不都合だから、あまり公言しないが。

やはり姉も程なく亡くなった。

そんな姉が命を懸けて産んだ大津皇子は、それは立派な皇子となった。サーラが手塩にかけて育てたせいもある。

だが、見劣りするが草壁も優しい良い子だ。父の娘と恋仲になり、合コン以外でもデートしてるようだ。

色々考えてると心がグチャグチャになる。

「あなたの心の望むままに致しますよ、私なら。」耳元で不比等が囁く。

顔の真横に着流しで胸のはだけた若い男がオスの匂いをまき散らせて顔を近付けていた。

「私の望みがアナタに分かるって言うの?私は誰にも語った事無いわよ?」皇后となったサーラは昔と違って言動はものすごく気を使ってる、これでも。

「ええ、一言も語らなくて結構です。どこで誰が聞いてるか分かりませんから。

…私はあの中臣鎌足の息子ですよ。アナタを最も輝かせる事が出来るのは私なのです。

どうか、任せるとお言いつけ下さい。

貴女を光り輝く日の国の女王にします。」と言葉と裏腹に口づけてきた。

父が死ぬかもしれないのに中臣鎌足の誘いを断れず、大化の改新を行ったように…

今、サーラが藤原不比等に新しい道へ導かれる。

口づけを拒む事は出来なかった。

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