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「おかえりー」
「はいはい」
席に戻る。俺のビールは空になってた。
「あれ?」
「飲んじゃったよ」
「飲み放題だから別にいいけど」
定員さんを呼びつけ、カルビとレバー、コークハイを頼む。周りも注文するかとチラリと見る。佐々木は山重の膝で寝て、山重は真っ赤な顔で佐々木の頬をしきりに触ってた。何してんだか。武内のグラスは空、矢田は瓶に半分程残ってる。ビールも1杯頼む。
「横山ってさ」
「ん?」
「なんで私に話しかけて来たん?」
「・・・あぁ、入学式の話しか」
「うん」
武内は届いたビールを片手で掴み、焼けた肉を自分の取り皿に入れた。
「なんか会場に入る前に話しかけてきたよね」
「ああ」
「結構気になってたけど、なんでなの?」
「・・・んー、なんでだろうな。刺激が欲しかったから1番尖ってた奴に話しかけてみたんだよ」
「尖ってたねー。あの頃は」
皿の上に綺麗に盛り付けられたカルビを鉄板にぶちまける。
「ちょっと!雑!」
「なんでもいいやろ」
「真ん中のが焼けるんだから厚い肉が真ん中!」
「はいはい」
俺は全く焼けてない肉を箸で掴み、そのまま食べた。
「・・・もしかして酔ってる?」
「さぁね」
・・・結構美味い。
「杉浦!ちょっと焼いてて!これ」
「えー」
「黙ってやって」
「はーい」
トングをテーブルに置いた。
「外行こ」
「煙草?」
「うん」
矢田と入れ違いに喫煙所に入る。
「ん」
「なんだよ」
「ハイライト頂戴」
「しゃーねーな」
あげた。俺も火をつける。
「私もジッポー買おっかなー」
「まぁ、愛着湧くよ」
「どれくらい使ってる?」
「じいちゃんの形見だからな」
「へー」
俺はポケットからジッポーを取り出す。しばらく手の上で弄ぶ。
「なんでこの大学入った?」
「適当」
「何浪?」
「1」
「私も」
「だろうな」
「・・・私、高校超バカ高だったの」
「そうなの?」
「うん。授業なんでロクに出ないし、トイレに使用済みのゴムが落ちてるようなとこ」
「・・・」
「んで、大学行ける訳もなく家でダラダラしてたのよ」
「ふーん」
「んで、何となく冷やかしに友達が働いてる塾に行ってみたのよ」
「それで勉強の楽しさを知ったの?」
「や、全然つまんなかったよ」
「・・・」
「んでさ、体験だから軽くテストとかしても私の学力って小学生以下だったんだよ。東西南北分かんなかったし、分数の割り算すらしらなかった。解の公式なんてもう、バーン!」
楽しげに煙草を投げ捨てた。灰皿あるやろ。
「んでさ、友達にもため息つかれて、体験終わって暇だから駐車場に座り込んで酒飲んでたの」
「はた迷惑だな」
「うるさい。んで、迎えに来た親御にこう言われたんよ。こんなんにならないように勉強しないとねって。んで酔ってた私はそいつに掴みかかって通報されたの」
「社会のゴミが過ぎる」
「あはは。んで、こんなん呼ばわりされて、ふと自分を振り返ったのよ。昔運動してたのに、今は酒のさいで太って、勉強しない、働かない、役に立たない。だから自殺しようとしたの」
「・・・」
「でも、馬鹿だから死にかたもわからず、首吊りのロープが結べないの。だから、賢くなって自殺しようとして、勉強を始めたの」
・・・コメントに困るな。
「んで、マジで狂うほど勉強して、母さんが通ってたこの大学に入学したのよ」
「ふーん」
楽しげに語る武内をぼんやり眺める。武内は上機嫌にラッキーストライクに火をつけた。
「んで、横山に話しかけられたらさ人生始まったって思ったんだよ。だからさ、ちょっと照れちゃうけど今酔ってるし、言うよ。ありがと」
「・・・どういたしまして」
「んじゃ、先戻ってて。吸い終わったら行くよ」
俺は何も言わずにハイライトに火をつけた。吸い終わるまでの10分にも満たない時間。俺も武内も何も言わない。ただ、繁華街の終わらない夜をふたりで眺めてた。




