第094話 松山
山道を上がっていったが、次第に降り坂に変わる。
そして、さらに進んでいくと、集落を抜け、町中に入った。
「ここが愛媛県の県庁所在地である松山市です。松山や、ああ松山や、松山や、ですね」
「それ、松島よ」
さすが悪魔。
適当。
「まあ、何でもいいです。とにかく、温泉が有名です。道後温泉ですね。アヤカさんは来たことがありますか?」
「ええ。昔ね」
前にそう言ってたな。
「覚えてます?」
「全然。小学校の頃だし、20年近く前のことよ」
俺もそのくらい前に行ったところは覚えてないな。
「そうですか。観光します?」
「別にいいでしょ。それよりも旅館に行きましょうよ」
「ふふっ、そうですね。温泉でゆっくりしましょうか」
町中を進んでいくと、大通りを曲がり、ちょっと狭い道に入る。
「んー? リンダ姉さん、逆だぞ。さっきの交差点を右だ」
「あ、そうでしたか? すみません」
「いや、俺が指示しなかっただけだ」
すいすい行くからわかっているのかと思った。
「あ、コンビニがありますね。そこでUターンしましょう。ついでにちょっと買ってきます」
リンダ姉さんはそう言って、コンビニに入ると、駐車場に車を止める。
そして、車から降りると、コンビニに入っていった。
「堂々とした悪魔よね」
「そ、そうだな」
絶対にわざとやりやがったな、あのサキュバス。
「どうしたの?」
「いや、別に」
何でもないよ。
「ふーん……ところで、すごい看板ね。何あれ?」
見ないでー。
「テナントが多いんじゃないか? アヤカ、そんなことより、アヤカの祖父母の家って高知のどの辺だ?」
アヤカにスマホを見せる。
「えーっとね、土佐なのよ」
「ほうほう」
アヤカとスマホを見ながら家を確認していく。
すると、リンダ姉さんが戻ってきた。
「おや? 何を見てるんですか?」
「アヤカのじいちゃん、ばあちゃん家を確認」
「なるほど、なるほど。ひひっ」
ほら、わざとだ。
「何、その笑い?」
アヤカが怪訝な顔になる。
「いえいえ……」
「どうせ風俗街に連れてきて笑ってるんでしょ」
「おや? 知ってる? やはりカマトトぶってるだけですか」
カマトトって実際にはマジで聞いたことないな。
「ぶってないわよ。異世界にもあったし、熊本にもあったわよ」
あ、一緒に行きましたね。
「ひひっ、顔を赤くして可愛い」
「リンダ姉さん、いいから。温泉に行こうぜ」
アヤカがキレちゃう。
「はいはい。おみやげです」
リンダ姉さんがコンソメのポテチをくれた。
「どうも」
「では、参ります」
車が動き出すと、駐車場を出て、旅館に向かう。
人々で賑わっている温泉街を通ると、今日泊まる旅館にやってきたので駐車場に車を止めた。
「ようやく着いたわ。お調子者がいて困るわね」
「サキュバスはふざけないと死んじゃうんです」
嘘つけ。
「もう諦めたわ。でも、お願いだからバレるようなことはしないでね」
「しませんよ」
俺達は車から降りると、旅館に入る。
そして、おばちゃんの仲居さんがいる受付に向かった。
「いらっしゃいませ。御予約のお客様ですか?」
「ええ。高梨よ」
俺の名前で予約したのだ。
でも、ちょっとドキッとするね。
そこは認めるから肘でつついてこないで。
「高梨様ですね。二部屋ということで間違いないでしょうか?」
「ええ」
「では、こちらが鍵になります。当旅館は2階に料亭がございます。お食事はそちらでお願いいたします。また、大浴場は別館の1階と2階にございます。3階には貸し切りの家族風呂もございます」
ニヤニヤしながら肘でつついてくるな、サキュバス。
「夕食は何時から?」
「17時以降になります。朝食は6時からです」
「わかった」
「その他、館内の詳細につきましてはお手元のご案内帖にまとめてございます。何かお気づきの点や、お困り事がございましたら、どうぞご遠慮なく内線9番にてお呼びくださいませ……それでは、お夕食までのお時間、どうぞごゆっくりとお寛ぎくださいませ」
「ええ」
アヤカが頷き、鍵をリンダ姉さんに渡すと、近くにあるエレベーターに乗り込み、4階のボタンを押す。
「部屋は?」
「4階の6号室。リンダさんは5号室ね」
隣か。
「聞き耳は立てませんよ」
「立てなくていいから早く寝てくれ。明日も運転手だろ」
感謝してる。
「ふふふ。どうします? 早速、お風呂でも行きますか?」
今は15時半だ。
「そうね。やっぱり温泉に入りたいわ」
「家族風呂ですか?」
「なんでよ。恥ずかしいでしょ」
アヤカさん、ツッコミを間違えてますよ。
「そうですか。それでは部屋で待っててください。一緒に行きましょう」
「そうね」
4階に着いたのでエレベーターから降り、部屋に向かう。
そして、それぞれの部屋に入った。
「やっぱり良い部屋だな」
清潔感のある和室の部屋であり、日本の古き良き高級感のある落ち着く雰囲気だ。
「そうねー……ふう……ちょっと疲れたわね」
アヤカが席につき、お茶の用意をする。
「そうか?」
「ええ。主にリンダさんの対応にね。マユミとヒナはすごいわ」
アヤカ、真面目だから全部、ツッコむもんな……
今も真面目に3人分のお茶を用意しているし。
そのまま待っていると、アヤカがお茶を淹れたタイミングで浴衣に着替えたリンダ姉さんがやってきた。
「おや? 私の分までありがとうございます」
「悪いな」
「いいえ」
俺達はお茶を飲み、一息つく。
「さて、ここまで来ましたね。いよいよ明日は高知に入ります」
「ああ。アヤカの祖父母だ」
「そうね。ただ、どんな形であれ、長居はしない。大村君を始めとする皆と合流することが大事」
どんな形であれ、か。
「よろしいので?」
「ええ」
アヤカが力強く、頷いた。
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