第009話 友人
「いや、そんなことないぞ」
『はいはい。かっこつけ、かっこつけ。こっちはさー、小倉の繁華街に転移したんだよ。そんでもって、酔っぱらったサキュバスに家に招かれて、色々と聞いた。だいたいはそっちのエルヴィスが言っていたことだね。そんでもって、朝から競馬場に連れてこられ、熱中している』
なんで競馬場なんだよ。
「そのリンダ姉さんは?」
『パドックを見に行った』
パドックって馬がくるくる歩いているあれか?
「とりあえず、そっちは問題ないわけね? 人間であることはバレてない?」
『サキュバスBになった』
「私はC。なんか姉さんが周りにそういう風に説明してた」
サキュバスも人型か……
「BとC、これからどうするの?」
ちょっとひどいアヤカさん。
『どうしよっかねー? とりあえず、合流しない?』
『うん。チームドロップアウトで合流しよう』
まずはそれか。
「じゃあ、そっちはそこにいて。私達がそっちに行くわ」
『えー、温泉に入りたいな……別府って行ったことないし』
北浦さんが反対する。
「私達は東京を目指すことにしたの」
小倉は別府の北だから道中なのだ。
『あーね。私も親に会いたい』
『ま、それもそっか。とりあえずはそこを目指す感じになる。じゃあ、待ってる』
「ええ。電話が通じるみたいだし、また連絡するわ。さっき充電したばかりだから残りがちょっと微妙なのよ」
30分も経ってないしな。
『りょ。あ、高梨君の番号も教えてよ』
高宮さんにそう言われたので電源をオンにしてみる。
しかし、『通信サービスなし』と書かれていた。
「あー、解約されているっぽい」
『あちゃー』
『私と同じだ。まあ、ウチは貧乏だったからさ』
北浦さんもか。
「じゃあ、私とマユミのスマホで連絡を取り合いましょう。マユミ、いつでも出られるようにしておいて」
『了解』
『ミナトとリクはどうすんの?』
あいつらか。
「俺が連絡先を知っている。アヤカのスマホでかけてみる」
『じゃあ、そっちはお願い』
『ひひっ、ユウ、温泉でアヤカとしっぽり――』
北浦さんがふざけた声で何かを言おうとしたが、その前にアヤカが電話を切った。
「2人は無事で良かったじゃねーか」
エルヴィスが頷く。
「ああ。ほっとした」
「そうね。2人共、変わらずで安心よ」
まったくだ。
「アヤカ、家族は?」
「かけてみる」
アヤカがスマホを操作すると、耳に当てる。
さすがに家族との電話だし、スピーカーモードにはしないようだ。
「どうだ?」
「ダメ。現在使われておりませんって言われる」
「そうか……」
アヤカはその後もかけていくが、ダメのようだ。
「10年で別のキャリアに変わって、番号も変えちゃったのかな?」
10年はなー……何とも言えん。
「わからん。アヤカ、ちょっとスマホを貸してくれないか? ウチの家族にもかけてみる」
「はい」
アヤカがスマホを貸してくれたので親の番号にかけてみる。
『おかけになった電話番号は現在使われておりません。番号をお確かめになって、もう一度おかけ直しください』
ダメか……
「ウチもダメだ」
「そう……」
なんでだろう?
ウチの両親は機械に弱く、頻繁にスマホを変えるような人間ではない。
もちろん、壊れたとか色々な理由はあるだろうが。
もしかして……いや、これは考えないようにしよう。
「アヤカ、ミナトとリクにかけてみてくれ」
そう言って、アヤカに番号を見せる。
「わかった」
アヤカはまず、ミナトの方に電話をかけた。
しかし、すぐに『おかけになった電話番号は現在使われておりません。番号をお確かめになって、もう一度おかけ直しください』と聞こえてくる。
「こっちもダメか」
「松永君は?」
今度はリクの電話番号を見せると、アヤカが電話をかけるが、こちらもすぐに『おかけになった電話番号は現在使われておりません。番号をお確かめになって、もう一度おかけ直しください』と聞こえてきた。
「解約されているっぽいな」
まあ、10年経っている。
いまだに子供のスマホの契約を続けているアヤカと高宮さんの親の方が珍しいかもしれない。
でも、それなら電話番号を変えてほしくなかった。
もしくは……いや、これはさすがに言えない。
「しかし、こうなると、大村君と松永君との合流が難しくなるわね」
うーん……
「SNSで探すしかないな。アヤカ、SNSで呼びかけってできないか?」
「やってみる」
アヤカがスマホを操作する。
「俺っちもやってやろう。特徴を教えろ」
エルヴィスってマジで良い奴だ。
「1人は松永ミナト。175センチくらいのやせ形で革の鎧を着ている。武器は槍だ」
普通の陰キャ。
「もう1人は?」
「松永リク。160センチくらいで青っぽいローブを着ている。武器は杖」
こいつも普通の陰キャ。
俺もだけど。
「2人共、武器が特徴的だな。探してみよう」
エルヴィスもスマホを操作し始めた。
「ユウ君、他のクラスメイトはどうする? 女子なら連絡先を数人は知ってる」
他のクラスメイト……
「今はこちらから接触を試みるのはやめておこう。正直、俺はチームドロップアウトしか信用できない」
そう思ってしまうほどにほとんどの人間が異世界で変わってしまったのだ。
そんな中でもチームドロップアウトの面々は5年も一緒にいたのだ。
「そうね……マユミにも伝えておく」
「頼む」
アヤカとエルヴィスがスマホを操作し終えると、買った弁当を食べる。
「美味しいわね」
「ああ。美味いな……というか、久しぶりの米だ」
異世界はパンばかりだった。
別にパンも嫌いじゃないし、美味かったのだが、10年ぶりに食べる米は感動すら覚える。
「お前ら、これからどうするんだ?」
弁当を食べていると、エルヴィスが聞いてくる。
「北に行く。小倉だ」
ミナトとリクが気になるが、まずは高宮さんと北浦さんと合流だな。
「そうか……その辺のことでもお前らに話さないといけないことがある。どうだ? 温泉にでも行くか?」
ん?
「温泉って?」
「向こうはとりあえず、無事なわけだろ? 今日は温泉にでも入って、ゆっくりしたらどうだっていう提案だ。知り合いが旅館をやっているんだよ」
へー……
「どうする?」
アヤカを見る。
「まあ、結局、昨日はお風呂に入っていないし、入りたいのは確かね。ヒナじゃないけど、私も別府は来たことがないから気になると言えば気になる。それにどうやって小倉まで行くのかっていうのもあるわよ」
どうやって……そりゃ車で……あ、エルヴィスの車か。
そもそも俺達、運転できない。
この世の中だから無免許でもいいだろうが、高校2年生だったし、運転の仕方すらわからん。
「うーん……」
「まあ、その辺のことを話そうや。俺っちはまだお前にもらったマナの分の仕事をしてない」
もう少し情報をもらって、整理してからの方が良いか。
「じゃあ、すまんが、頼む。俺も風呂に入りたい」
「あいよ。じゃあ、出発だ」
エルヴィスはシートベルトを締め、エンジンを点けると、出発した。
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