第010話 だって、しょうがないじゃないか……
弁当を食べ終えると、町並みを眺めながら到着を待つ。
すると、次第に周囲が温泉街っぽくなり、坂を登り始めた。
「ねえ、火事?」
「いや、あちこちにあるぞ」
なんか白い煙が上がっている。
「ありゃ温泉の煙だよ。窓を開けてみろ」
エルヴィスがそう言うので窓を開けてみる。
すると、涼しい風が入ってきたのだが、鼻を突くような刺激臭がした。
「臭いわねー」
「硫黄かな?」
「ユウ君じゃなかったらそうじゃない?」
失礼な。
屁なんてこいてないわ。
「アヤカかもしれないだろ」
「ブブー、好感度がガクッと下がりました」
頑張って上げよう。
「温泉街だからだ。地獄めぐりとか聞いたことないか?」
あ、知ってる。
何かは知らないけど、聞いたことはある。
「がっつり温泉街なんだな。俺、地味にこういうところに来たことない」
「私は祖父母の家に遊びに行った時にあるかな。松山はこんな感じではなかった気がするけど」
あー、確かに温泉が有名なところだ。
ちょっと匂いがあれなので窓を閉める。
そして、どんどんと坂を上がっていくと、多くのホテルや旅館が見え、さらには歩いている人も増え始めた。
もっとも、全員悪魔だし、異様な光景であることは間違いないのだが。
「すごいな」
「これが慣れる日が来るのかしら?」
来てほしくないな。
さらに坂を登っていくと、車がとある旅館の敷地に入っていく。
そして、玄関の前で止まった。
「あいよ。到着だ。俺っちは車を止めたり、知り合いと話があるからチェックインをしてこい。ちょっとしたら部屋に行くからまあ、ゆっくりしておけ」
エルヴィスがこちらを向きながら言う。
「お前も泊まるのか?」
「せっかくだからな。受付で俺の名前を出せば安くなる。まあ、お前らのマナからしたら誤差だろうけどな」
俺達はいわば大金持ちなんだろうな。
「わかった」
俺とアヤカが車を降りると、エルヴィスが車を発進させ、奥に向かった。
「なんか高そうよね……」
アヤカが見上げる。
旅館はホテルのようであり、10階以上はある。
「マナは俺が払う」
「そう? 能力的にもユウ君の魔力がなくなる方が痛いと思うけど」
俺は魔法使いだからな。
「まだマナの相場というか、どれくらい奪われるものなのかがわからない。これくらいの旅館ならある程度はわかるんじゃないかと思う」
エルヴィスに渡したマナもコンビニで渡したマナも減ったかどうかがまったくわからないのだ。
「じゃあ、任せる」
「ああ」
俺達は中に入り、受付に向かう。
「……髪が蛇なんですけどー」
「……メデューサじゃね?」
受付にいる仲居さんの髪が全部白い蛇なのだ。
ちょっと怖い。
「いらっしゃいませー。お泊まりですかー?」
仲居メデューサがそう言うと、髪の蛇が一斉にこちらを見た。
夜に見たら声が出たと思う。
「あ、ああ……エルヴィスっていうゴブリンと一緒に来たんだ。一泊したい」
「ああ。エルヴィスですか。わかりました。それでは2万マナになります」
仲居メデューサが手を差し出したので握る。
手は普通に柔らかく、コンビニのゾンビとは違い、温かった。
でも、嬉しくはない。
蛇がすげー見てるんだもん。
「あら? すごい魔力。食べちゃい……608号室でーす」
なんか怖い仲居さんだな。
「あのー、この時間ですけど、温泉とかって入れるんですか?」
アヤカが聞く。
「ええ。いつでも入れますよ。この時間ですと……昼食と夕食はいかがされますか? レストランもありますし、お部屋にお持ちすることもできますよ」
「じゃあ、部屋で食べます。」
「ふふっ、わかりました。朝から楽しんでください」
んー……?
仲居メデューサが鍵を渡してくれたので受け取ると、近くにあったエレベーターに乗った。
「2万マナもしたけど、どう?」
6階のボタンを押したアヤカが聞いてくる。
「まったくわからん。マナに関しては考えなくても良いと思う。普通に考えて、俺達は何百、下手したら1000以上の魔物を倒している。それだけのマナを持っているなら大丈夫だろ」
俺達のマナ量は普通じゃないと思う。
じゃないと、他の悪魔が利用できない。
「それもそっか。それにしてもあのメデューサ、結構な魔力じゃなかった?」
「メデューサって石にするんだっけ? 結構、格上っぽくないか?」
異世界にはいなかったが、名前くらいは知っている。
絶対にボスクラスだし、雑魚じゃない。
「それが仲居?」
「それも考えないようにした方が良いと思う。ゾンビがコンビニ店員だぞ」
「確かにそうだわ」
6階に着いたので8号室を探し、中に入る。
すると、広々とした和室の部屋であり、窓の外からは海が見えた。
「おー、すごいな」
「方向的にあっちに四国があるのよねー」
確かそんな記憶がある。
「眺めも良いし、部屋も良い。高級旅館っぽいな」
温泉は期待できそう。
「そうね……温泉……さすがに男女分かれていると思うけど、悪魔と一緒に入るのか……」
そうなるな。
「考えないようにしよう」
「そればっかりね」
アヤカが笑ったので窓から離れ、座椅子に座る。
すると、アヤカがお茶を淹れてくれた。
「悪いな」
「別にいいわよ。というかさ、浴衣に着替えない? ユウ君、めちゃくちゃ浮いてるわよ」
アヤカの方が浮いていると思う。
俺はまだローブだが、ファンタジーな剣士の格好のアヤカは和室には似合わなさすぎる。
「そうするか」
「じゃあ、私は脱衣所で着替えてくるから」
アヤカは棚にあった浴衣を取り、玄関の方に向かった。
俺も浴衣を取ると、ローブを脱ぎ、浴衣を着る。
「えっと、どっちが前だったっけ? まあ、いいか」
適当に着ると、帯を締め、座った。
そして、お茶を飲んでいると、アヤカが浴衣姿になり、戻ってくる。
「お待たせ」
「ああ……」
うん……
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。似合ってるなーっと」
可愛いね。
「どうも。ユウ君も似合ってるわよ。もうすっかり見慣れたけど、やっぱり私ら日本人はあんなファンタジーな服装よりこっちでしょ」
いやはや、まったくもってその通り。
「なんかちょっと感動だな。そんなに馴染みがあるわけでもないのに何故か懐かしさがヤバい」
可愛いし。
「わかる、わかる」
「ってかさ、まだ10時よ? ゆっくりするっていっても何する?」
何……あ、あの仲居メデューサがにやついていたのは……
「ちょっと体を休めようぜ。あとSNSでミナトやリクを探せないか? 俺のスマホはダメだ」
「あー、そうね。探しましょうか」
アヤカはスマホを取ると、立ち上がり、こちらにやってくる。
そして、隣に座ると、俺にもスマホが見えるようにしてくれた。
その時になってようやく気付いたのだが、同じ部屋だ。
異世界では宿屋の部屋の数が少なく、同室になることがよくあったのですっかり忘れていたのだが、付き合ってもいない男女が同じ部屋で泊まるのは変じゃないだろうか?
しかも、和室。
いや、和室が悪いわけじゃないのだが、なんか意識してしまう。
え? 今からもう一部屋取ってもらうか?
夜はどう寝るの?
和室だし、布団を並べて?
「ユウ君さー、お願いだからどぎまぎしないでくれる?」
ごめんなさい。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




