第081話 地味にユウ君の評価が上がった
高宮さんが突っ込み、剣を振るう。
しかし、その剣は吉井に簡単に受け止められた。
「良い振りだな」
「どう、もっ!」
高宮さんが押し込むと、吉井の体勢が崩れる。
追い打ちをかけるように高宮さんが突っ込むが、吉井の姿が消えた。
「え?」
「まずは1人」
「じゃないんだなー」
高宮さんの背後に現れた吉井だったが、その後ろに北浦さんが現れ、ショートソードを振るった。
「ほう?」
吉井は北浦さんのショートソードを躱すと、距離を取る。
すると、アヤカが剣に魔力を込めた。
「行くわよ」
アヤカが突っ込み、突きを放つ。
それと同時に高宮さんと北浦さんも突っ込んだ。
「雑魚じゃないか……」
吉井はアヤカの突きを躱したが、さすがに3人を同時に相手にできないようで一気に距離を取った。
「私達を舐めないことね」
「それはすまない。会ったことはなかったが、先行組だったか」
ドロップアウト組だけどな。
でも、途中までは魔王討伐に向けて、ちゃんとやっていたのだ。
「強いね。追えない」
「スキルだと思う。途中で気配が完全に消える。気を付けて」
吉井はローグ系のジョブだ。
俺達より先に進んでいたし、間違いなく、上位ジョブだろう。
「ふむ……ところで、なんでお前達は悪魔と一緒にいるんだ? そっちの女は角が生えているし、そいつはゴブリンだろう?」
吉井がリンダ姉さんとエルヴィスを見て、聞いてくる。
「仲間よ」
「仲間、か……お前達は仲間が多いな。だからこそ、先に行けなかったといったところか」
吉井に仲間はいないのか?
「吉井、お前はソロなのか?」
「当然だ。ソロの方が効率がいい。足手まといはいらない」
足手まとい……
「1人で俺達より進んだのはすごいな。俺には無理だ」
「後衛職を選ぶような奴はそうだろう。女の尻に隠れて楽しいか?」
「良い眺めだぞ。グラヴィトン!」
魔法を放つと同時にアヤカ達が左右にばらけた。
「むっ!」
吉井がバックステップで距離を取ると、さっきまで吉井がいた場所がべコリとへこむ。
「捕らえた!」
「何!?」
吉井が距離を取った先から植物の蔓が出てきて、足を絡めとった。
グラヴィトンを使ったと同時に別の魔法も使っていたのだ。
「次は外さないっ!」
アヤカが突っ込み、突きを放つ。
吉井はもう躱せないし、当たると思った。
「――アヤカ、避けろっ!」
エルヴィスが叫ぶと、アヤカが止まり、転がり込むように右に避けた。
すると、何故か吉井がさっきまでアヤカがいた位置の背後におり、剣を振っていた。
アヤカは間一髪で躱した形になる。
「ゴブリン……」
吉井がエルヴィスを睨む。
「ッ!」
起き上がったアヤカが慌てて、距離を取った。
「何が起きたの!?」
俺はわかった。
「アヤカ、高宮さん、北浦さん、そいつが使ってるのは転移だ。一瞬で移動できるんだ」
そうじゃなきゃ俺の魔法から逃れられない。
「退避!」
高宮さんがそう言って、こちらに戻ってくると、アヤカと北浦さんも戻ってくる。
「アヤカ、エルヴィスと一緒に護衛に回って。転移は厄介」
「了解」
アヤカが頷いた。
「リク、お願い」
「うん」
北浦さんが頼むと、リクが魔法を使う。
すると、女性陣3人がキラキラと輝きだした。
バフの魔法をかけたのだ。
「なるほど……確かに良いチームだな。それぞれがそれぞれの役割をしている。それも一朝一夕ではない。連携が上手くできている」
吉井が感心したように褒めてきた。
「5年も一緒にいるんでね」
「5年か……なあ、高梨。その5年間……いや、10年は楽しかったか?」
ん?
「そこそこに。失ったものもあるがな」
「そうか……俺は何もないよ。せめて、魔王を倒せれば何かを得られたのかもしれないが、何もなしえなかった」
魔王を倒したのは吉井ではないか。
「だからって奪いにくるな。俺達の知らないところで切り裂きジャックをしてろ」
「すまんな……会ってしまったから仕方がない」
来るか!
「ふふ、ふふふ」
リンダ姉さんが怪しく笑った。
「姉さん?」
「どうしたの?」
高宮さんと北浦さんがリンダ姉さんを見るが、笑ったままだ。
「何だ、この女……? ん? くっ!」
吉井が片手で頭を抑えた。
「あなたの本当に欲しいものはなーに?」
リンダ姉さんが前に出る。
「こ、こいつ……!」
「可愛い。強がって、1人の殻に閉じこもっている。でも、本当は誰かに認められたいし、誰かに愛されたい。ふふふ、無理しなくていいのに……私がすべてを許容してあげるのに……何をしたいの? 何をされたいの? ほら、言ってごらん? 私は絶対に否定しない。私はすべてを受け入れる。あなたの熱い心をすべてもらってあげるし、返してあげる……さあ、」
あ、チャームだ。
「ぐっ! こ、こいつ……サキュバスか!」
「ふふっ……そう? 優しくしてほしいのね? そして、乱暴にしたいのね? いいわよ? あなたのすべてを私は受け入れる」
「クソッ!」
吉井は持っていた剣で自分の腕を切ると、距離を取った。
「あらあら? そんなことして……私の髪を引っ張って、無理やり犯したいんでしょう? でも、優しくしてほしいんでしょう? してもいいのに……」
それ、矛盾してない?
「黙れ!」
吉井が一歩、二歩と下がっていく。
「……すごいわね」
いや、ホントに。
でも、俺はあれに耐えたぞ。
あ、そうか。
吉井は魔法使いじゃないから俺やリクと違って、チャームに対抗するすべがないんだ。
「……隙だらけだけど、やる?」
アヤカが小声で聞いてくる。
「……ああ」
アヤカが構え、突きを放った。
しかし、吉井は間一髪のところで気付き、転がりながら躱す。
「ぐっ! これ以上は……!」
吉井はついに俺達に背を向け、走り出した。
そして、奥にあるバイクに乗る。
「逃げるか?」
「黙れ!」
吉井はこちらを睨むと、エンジンをかけ、走り出した。
そして、あっという間にどこかに行ってしまった。
どうでもいいけど、あいつ、バイクを運転できるのか。
「逃げた?」
「みたいだね」
「リンダさんのおかげかな?」
だな。
「ふふふ、典型的な童貞君ですね。皆さんの目がなかったら初手でズボンを脱いでましたよ。くすくす」
そして、マナも何もかもすっからかんになるわけだ。
「サキュバスってすごいわね……」
「それに耐えた高梨君よ」
「愛か」
愛だよ。
「吉井は逃げた。それでも自衛隊が来る可能性がある。さっさと進もう」
「そうね」
「よし、行こう」
「姉さん、感謝」
ホントにな。
「いえいえ。それでは参りましょう」
俺達は線路に戻ると、急いでこの場から離れた。
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