第080話 血
「状況を考えろって言われそうなことを言っても良い?」
線路を歩いていると、北浦さんが聞いてくる。
「いいぞ。気分転換も大事だ」
「星がすごい」
北浦さんがそう言うので全員が空を見上げる。
すると、ものすごく綺麗な星空が広がっていた。
「すっご」
「え? 何これ?」
「本当に綺麗だねー」
「僕、こんなの初めて見たよ」
俺もだ。
「この辺は灯りがないし、山の上だ。だからくっきり見えるんだろうな」
へー……
「ロマンチックですねー。確かに状況を考えろですけど、良いと思います。ささっ、ユウさん」
俺に何をしろって言うんだよ。
多分、アヤカに何かをしろっていうことだろうけど。
「それこそ状況を考えろだな」
ただ、北浦さんのおかげでちょっと緊張が和らいだ気がする。
緊張は大事だが、過度に緊張しすぎると、疲れるだけだ。
俺達はその後も歩いていく。
あれ以来、銃声は聞こえていないし、車が通ることもない。
静かだ。
「皆さん、止まってください」
リンダ姉さんがそう言ったので皆が足を止めた。
「どうした?」
「いえ……これは……」
ん?
「リンダ姉さん?」
「ちょっとマズいことになりましたね」
いや、何が?
「マジで何を言ってるの?」
「サキュバスは嗅覚が優れています。だからわかるのですが、この先に人間の血の匂いがします。それも1人や2人ではありません」
血の匂い……
「ぱっと頭に浮かんだのはさっきのバイクと自衛隊だけど……」
「1人ではありませんので自衛隊かもしれませんね」
空き家で1時間待った。
さらに歩いて1時間くらい経っている。
その間に自衛隊が戻ってきていない。
「バイクの方がやったか……」
「その可能性もありますし、悪魔側が待ち伏せをしていた可能性もあります」
どちらにせよ、俺達にとって、良くないな。
「アヤカ、カーペットを出して。ルートを確認する」
北浦さんがそう言うと、アヤカがカーペットを取り出した。
そして、北浦さんはしゃがんでカーペットに包まる。
「線路上を行けば、かち合うことはないと考えられないか?」
バイクも線路を走るということはない。
「魔力を消せれば魔力感知は逃れられます。ただ、私のように五感に優れる種族だったら厳しいですね」
「むしろ、リンダがそうであるように向こうもこっちに気付いている可能性もあるぞ」
あり得るな。
「皆、いつでも戦闘ができるようにしてくれ」
そう言って、眠気打破ポーションを飲むと、まだ飲んでない者も飲んでいく。
すると、北浦さんがカーペットから出てくる。
「ダメ。ルートを変えるにはこの先の集落に出るしかない。もしくは、さっきの駅まで戻る」
1時間かけて戻らないといけないのか。
「今、何時だった?」
「3時半」
戻ったら4時半。
そこからルートを変えても、どう考えても朝までにこの辺りを抜けられない。
血の匂いがするということもあるし、いつ自衛隊の援軍が来てもおかしくない。
なんとしても夜のうちにこの辺りを離れたい。
「行こう。エルヴィス、姉さん、元に戻ってくれ。悪魔だったら見逃してくれるかもしれない」
「わかりました」
「あいよ」
リンダ姉さんからはヤギの角が生え、エルヴィスが元の大きさに戻った。
「あ、リンダさん、角が生えていたんだね」
そういやリクは知らないか。
「ええ。性感帯なんですよ」
「え、え……あ、そうなんですね」
「くすくす」
遊ぶなっての。
「皆、強化ポーションも飲んでくれ」
そう言うと、皆が強化ポーションを取り出し、飲みだしたので俺も飲む。
「ふむふむ。確かに魔力の流れが良くなりましたね」
「すげーよな」
どうも。
「行こう。ここから先は念入りに魔力を隠してくれ。アヤカ、高宮さん、お願い」
「ええ」
「任せて」
俺達は進むことにし、線路を歩いていく。
すると、集落に出て、駅が見えてきた。
「ここまで来たら俺っちもわかるぜ。すげー血の匂いだ。こりゃ確実に死んでんな」
「10人は死んでますね。ただ、悪魔の匂いはしません」
良いのは悪魔も自分達の町に帰ったことだが……
「リンダ姉さん、血の匂いは近いのか?」
「そこの駅ですね」
そうかい……
俺達はそのまま歩いていき、駅までやってくる、
すると、確かに血の匂いがし、嫌な悪臭も漂っていた。
異世界で何度も感じた死の匂いだ。
「チッ!」
マジかよ。
「ユウ君?」
アヤカがこちらを見てくる。
「敵だ。駅を出よう」
「え?」
線路から駅に上がり、外に出る。
すると、駅の前のちょっとした広場には自衛隊の車が止まっているのだが、その前には倒れている自衛隊の姿があった。
「出てこい。俺の魔力感知を舐めるなよ」
そう言うと、車の陰から男が出てくる。
「なんだ……追ってきた自衛隊かと思ったらお前らか……名前は忘れたが、懐かしい顔ぶれだな」
男は真っ黒な装束を着ている。
頬が痩せこけているが、見覚えがあった。
「吉井か?」
クラスメイトだ。
そして……
「すまんな。そっちはこっちを覚えてくれていたようだが、俺はお前らを覚えていない。名前は何だったか?」
「高梨だよ」
「高梨……ああ、高梨か。覚えている。そうか、高梨か……」
まあ、目立つ人間じゃないし、10年も経っているからな。
「これをやったのはお前か?」
「ああ。放っておいてくれればいいのにしつこかったからな」
「お前が広島の切り裂きジャックだな?」
間違いない。
ここまで来やがったんだ。
「俺の得物はカミソリじゃないんだがな……」
吉井は笑うと、空間魔法から剣を出した。
すると、アヤカと高宮さんが前に出て、剣を構える。
「ユウ君、下がって!」
アヤカに言われたので1、2歩下がった。
「女子か……女子は本当にわからんな」
「高宮だよー」
「高……すまんな」
高宮さんのことはダメらしい。
「謝んなし。それよりも親愛なるクラスメイトの吉井君。なんでこんなところにいるの?」
「そいつを追ってきた」
吉井がリクを指差した。
「殺してマナを奪おうっての?」
「まあ、そんなところだ。日本に戻ってきたらこんな世界になっていた。引き続き、力が必要そうだ」
こいつもやっぱり経験値欲しさか。
「ふざけんな。ウチらの仲間を殺させてたまるか」
「すまんな」
吉井から強烈な殺気がこぼれた。
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