第076話 県境へ
温泉街を出ると、助手席のリクが案内をしながら田舎道や山道を進んでいく。
俺達は分担して、SNSで切り裂きジャックの情報を調べたり、岡山へ行くルートについて調べていた。
「もうSNSで話題になってるねー」
「切り裂きジャック、悪魔だけじゃなくて、人間側も認知してるね。もっとやれーって声が多い」
切り裂きジャックのことを調べていた高宮さんと北浦さんが教えてくれる。
「その切り裂きジャックは人間の味方っていうわけでもないでしょうに……」
アヤカの言うとおりだろう。
これまでは正義の味方説もないわけでもなかったが、リクを狙った時点でそういうことだ。
「単純に人間はマナが少ないってだけだからな」
もし、人間も普通にマナがあったらこんな世界だし、やるかもしれんな。
「そっちはー?」
高宮さんが聞いてくる。
俺とアヤカはルートを調べているのだ。
「ルートはいっぱいあるからどうとでもなると思う。とんでもない道もあるけど」
かろうじて舗装してありますってレベルの道もそこそこある。
「そこは歩きでしょうね。この車は大きすぎます」
俺達6人が乗ってもゆったりしているミニバンだもんな。
「リク、このルートを行ってくれ。ここまでは車で行けると思う」
リクにスマホを見せる。
「了解。リンダさん、とりあえず、道なりに進んでください」
「わかりました」
リンダ姉さんが頷くと、どんどんと山道を進んでいく。
1時間くらいが経つと、集落に着いたのだが、あちこちにプレハブが立っているし、町の規模よりも明らかに人が多かった。
「広島か岡山に住んでいた人達か……」
「みたいね……」
県境に多いとは聞いていたが、かなりの数の仮設住宅がある。
「リンダさん、そろそろ大きな道路は避けた方が良い気がします」
「そうですね……どうしますか?」
「とりあえず、次の交差点を左に曲がってください」
「わかりました」
リンダ姉さんが頷くと、先にある交差点を左に曲がる。
その後もリクの案内で進んでいくと、山道に入った。
「そろそろ岡山県です。どこまで行きますか?」
リクがリンダ姉さんに聞く。
「岡山は悪魔の領地ですが、正確に言うと、北の山間部は人間が押さえています。まだいけるとは思いますが……念のため、この辺りから歩きにしますか」
リンダ姉さんがそう言って、車を止めた。
「歩きか」
「ま、いいじゃない」
俺達は車から降りる。
「それではユウさん、車の方をお願いします」
「わかった」
車に触れると、空間魔法を使う。
すると、しゅんっと一瞬で車が消えた。
「すばらしいですね」
ちょっと不安だったけど、できたな。
「どうも。ここからずっとこの道を進むわけか?」
「ええ。この先をずっと進んでいけば小さな集落があります。おそらく、地理的に人間も悪魔もいないでしょうからそこで夜まで待ちます」
スマホで確認してみると、歩きで3時間程度だ。
遠いが、熊本から歩いた俺達からしたらたいしたことはないと感じてしまう。
「わかった。じゃあ、行こうか」
俺達は山道を進み始めた。
「アヤカー、私が後ろを見るから前をお願い」
「了解。皆、車が来たら私かマユミが言うからすぐに隠れてちょうだい」
気配察知のスキルを持っているアヤカと高宮さんが一番前と一番後ろに回った。
俺は当然、アヤカのそばにいるので地図アプリを確認しながら歩く。
「今回は皆が一緒で心強いよ」
島根の山道を一人で歩いていたリクがつぶやく。
「だろうな。俺も熊本から歩いたが、アヤカとエルヴィスがいてくれて良かった」
「あそこを1人で歩くのはきついわよね」
「俺っちはあの時も今も歩いていないがな」
確かにな。
俺達はひたすら代わり映えのしない道を歩いていき、1時間くらいが経った。
「ん? あ、来た! 隠れて!」
高宮さんが叫んだので急いで道を逸れ、茂みに隠れる。
すると、例の迷彩色の車が走っていった。
「自衛隊だな」
「前にも見たやつね。やっぱりこの辺は巡回してる」
地図を見る限り、もうすぐで岡山だからな。
「この先も遭遇すると思います。見つかったら面倒なことになりますので慎重に行きましょう」
「そうだな」
俺達は道に戻ると、再び、歩いていったが、10分間隔くらいで前から後ろから自衛隊の車が来たのでその都度、隠れてやり過ごしていった。
「多くない?」
自衛隊の車が通りすぎると、アヤカが聞いてくる。
「多いな。熊本の時の比じゃない。まさか戦争が起きるとかそういうのじゃないよな?」
「起きてもおかしくはないけど……ちょっと面倒ね」
勘弁だ。
「やはり夜の移動が良さそうですね。皆さん、もうすぐで集落に着きます。そこで暗くなるまで待機ですからもうちょっと頑張りましょう」
リンダ姉さんが激励したので道に戻り、歩いていく。
その後も何回か車が通りすぎたが、上手くやり過ごすと、前方に集落が見えてきた。
「着いたー」
「そうね。人の気配はないわ」
やはりゴーストタウンか。
「通りに面していない適当な空き家に入りましょう」
俺達は道を曲がると、住宅街に入り、目立たない家を探す。
すると、良い感じに何度か曲がらないといけないところにある家を見つけたのでそこに入ると、ドアノブを握った。
「まあ、鍵はかかってるわな。エルヴィス、頼む」
「はいよ」
ポケットからエルヴィスが出てくると、地面に着地し、元の大きさに戻る。
そして、前にもやった光のナイフで鍵を切った。
「手慣れている……」
「別府組は空き巣組だったか」
高宮さんと北浦さんが呆れる。
「そっちは競馬組か? いいから入ろう」
俺達はさっさと中に入る。
家の中はやはりタンスなんかの大きな家具は残っていたが、ほとんど物は残っていないし、人が出入りしている形跡はなかった。
「では、夜まで待機ですね。一休みしましょう」
俺達はリビングのフローリングに買っておいたカーペットや座布団を敷き、テーブルも出して、一休みすることにした。
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