第074話 旅館の夜
その後も話をしていると、リンダ姉さんもやってきたのでスマホでミナトの情報を探していく。
特に新たな情報もなく、時間が過ぎていき、夕食がやってきたので皆で食べることにした。
「しじみの味噌汁が心を温めるねー……」
「味噌って最高の調味料だよねー」
「魚も美味しい」
俺達は思い思いに会席料理を食べていく。
小さいエルヴィスとリンダ姉さんも酒を飲みながら楽しそうにしていた。
「リンダ姉さん、明日からのことなんだけど、どうする?」
リンダ姉さんが酔ってしまう前に話をする。
「そうですね。まずですけど、ご存じの通り、広島と岡山は悪魔の領域になります。そして、この辺りは平和ですけど、県境は争いが起きています。山陰と山陽を分ける中国山地全体で起きていますのであちら側に行くのはちょっとルートを考える必要があります」
阿蘇山付近で争っていた大分と熊本みたいなものか。
「ルートはいくらでもあるんだろ?」
「ええ。その辺を睨みながら進みます。そこで相談なんですけど、あなた方の空間魔法で車を収納することはできますか?」
リンダ姉さんがそう聞くと、皆が俺を見てくる。
「俺の空間魔法ならできると思う。容量は一番あるからな」
空間魔法は皆が使えるが、保存の魔法を使えるのも俺だけだし、容量も俺が一番大きい。
だてに魔法使いのジョブを極めていないのだ。
「でしたら安心ですね。所々で車ではなく、歩きになると思います。それでなんとか中国山地を越え、高梁まで行きます」
ん?
「俺?」
呼んだ?
「惜しいですが、違いますね」
「えーっと……」
スマホの地図アプリで確認すると、岡山県には高梁市というのがあるらしい。
1字違いだ。
「ここね……悪魔の町だよな?」
「ええ。そこまで行けば安心でしょう。まあ、あなた方にとって、悪魔の町の方が安心というのも変な話ですが」
俺達は人間だもんな。
でも、エルヴィスとリンダ姉さんがいる限り、悪魔の町の方が安心というのは間違いない。
「ちょっと距離があるな。車で2、3時間ってとこか。ただ歩きも入る」
「ええ。慎重に行く必要もあるでしょうし、ホテルや旅館に泊まらずに車中泊やどこかの空き家に泊まるということも想定しておいてください。戦地では自衛隊もですが、悪魔側も気が立っていたり、好戦的な種が多いですから要注意なのです」
それは仕方がないか。
熊本から別府に戻る時でもそうだったし、小倉に行く時はオーガもいた。
「アヤカ、高宮さん、北浦さん、リク。戦闘も想定しておいてくれ。悪魔とも……人間とも……」
なるべく避ける方向でいくが、それでも起きてしまうことはある。
これまで何度もそういうことがあった。
「任せて。この前のようなヘマはしない」
「ようやく私の剣が光る」
「暗殺者の本領発揮」
「僕は援護だね」
さすがに臆する様子はない。
10年も戦ってきたし、慣れてるか。
「エルヴィスも頼むぞ」
「ああ。俺っち的にはマナを得られるチャンスだから嬉しいね」
山根をやって、かなりのマナを得たしな。
「私はお姫様ポジションです。皆さん、守ってくださいね。ご褒美にチューしてあげます」
あんた、チューで終わらんだろ。
そして、マナを奪うだろ。
とんだお姫様だ。
「チューはいらない。明日は何時に出る?」
「10時くらいですかね?」
10時か。
「そんなに遅くていいのか?」
「できたら夜中に進みたいんですよ。なので、ある程度行ったら待機になります」
なるほど。
「わかった。じゃあ、10時で。風呂に入れるな」
「そうですね。今日はゆっくりしてください」
俺達は夕食を食べ終えると、もう一度温泉に行く。
そして、部屋に戻ると、食器なんかが片付けられており、布団が敷かれていた。
まあ、リクと一緒なので以前とは違い、別に何かを思うことはない。
端に移動したテーブルでリクとエルヴィスと話をしていると、女性陣も温泉から戻ってきたのでお酒を飲みながら話をしたり、トランプなんかをして過ごしていく。
「ふっ、上がり。勝ったね」
最後に北浦さんが上がり、高宮さんが負けた。
「トランプも意外と白熱するもんだね」
心が高校生だからな。
「ちょっと休憩」
「私も」
俺とアヤカはトランプの一勝負が終わると、例のスペースに行き、腰かけた。
「姉さーん、大富豪しよー」
高宮さんがお酒を飲んでいるリンダ姉さんを誘う。
「脱衣トランプですか。良いですね」
「脱衣はないねー」
「あ、そうですか。エルヴィスさん、マナでも賭けますか?」
「良いな」
リンダ姉さんとエルヴィスも加わり、トランプが再開となった。
一方で俺とアヤカは外を見る。
「なんか本当に修学旅行みたいになったわね」
「そうだな。リクと合流できたからよりそう思う」
これまではエルヴィスを除けば男子が俺だけだったからな。
修学旅行ではない。
「少しは落ち着いた?」
「ああ。かなりな。助かったよ」
アヤカとアルコール度数低めの缶酎ハイで乾杯をする。
「いいえ。私もほっとしたし、良かったわ。松永君も楽しそう」
リクはかなりはしゃいでいるな。
さっきも夜食のカップ麺を食べて、食レポしてた。
「ああ。なんか綺麗だな」
外を見ているが、正面にある小さな川はライトアップされているし、憩いの場になっているようで歩いている人が多い。
「そうね。ちょっと行ってみる?」
「良いかも……行くか」
「ええ」
俺達は立ち上がると、どちらからともなく手を握った。
「ちょっと外を歩いてくる」
「ごゆっくりー」
俺とアヤカは白熱している皆を尻目に部屋を出ると、エレベーターに乗り、1階に下りた。
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