第073話 湯
大浴場にやってきたが、時間が早いためか、かなり空いていた。
「こういうところも昔より人が減ってるのかな?」
リクが聞いてくる。
「どうだろ? 観光客は減ってるだろうけど、人口自体は増えているんじゃないか? 山口、広島、岡山が支配されているから疎開しているだろうし」
県境に多いとは聞いているが、元々、どれくらいの人がいたのかがわからないので不明だ。
「問題も多そうだね」
「だろうな……」
じーっと、リクの身体を見る。
「何? 気持ち悪いよ」
「すまん。なんか筋肉質というか、良い感じの身体になってるな」
裸を見ることなんてなかったから意外だった。
「それはそっちもでしょ。伊達に10年も異世界にいないよ。それにもう高校生じゃなくて大人だからね」
「それもそうか。アヤカも大人の女性って感じになってるし」
「いつ見たのさ? やっぱり……」
いや、違うっての。
「服の上からでもわかるだろ」
それにアヤカだけじゃなく、高宮さんと北浦さんもだ。
「変態っぽいねー。ユウに1つ苦言を呈するなら宮前さんのことを見すぎだよ」
そりゃ悪かったな。
俺達は大浴場に入ると、身体を洗い、温泉に入った。
周りにはお爺ちゃんくらいしかおらず、ゆっくりできる。
「あー……良いな」
「そうだねー……極楽、極楽」
身体の芯から温まる感じが本当に極楽って感じだ。
「リク、ミナトはどこにいると思う?」
「皆目見当が付かないよ。せめて、僕達が元々いた東京に転移してたらね……」
ミナトも東京にいるって想像ができるな。
「ちょっと立てた仮説だが、俺達は異世界に転移した最初の場所から離れて、レステの町にいたわけだろ? だから東京から離れた場所に戻ってきたっていうのがある」
「それはあるかもね。ユウ達が別府、高宮さん達が小倉、僕が萩……近いといえば近いし、ミナトもこの辺りにいてもおかしくない」
同じ町にいた人間が西に転移したわけだからな。
「一方で同じ町にいたにしては離れすぎっていうのもあるし、切り裂きジャックや徳島の救世主が誰かはわからないが、少なくとも、山根は俺達の町の近くにはいなかったと思うんだ。その辺の矛盾もある」
レステの町近辺にはクラスメイトがいなかったはずだ。
「あるね。転移させたのがあの神様だから何とも言えないけど、それでもミナトが西日本にいる可能性は結構、あるんじゃないかな?」
俺もそれはあると思う。
リクが萩にいたことがその可能性を高めている。
もちろん、ランダムに転移させたという偶然の可能性は否定できないが、ある程度の因果関係はあるんじゃないかと思う。
「あいつは暴れたり、問題を起こすような人間じゃないよな?」
「ちょっとお調子者のところがあるけど、ないでしょ。それに1人だし、慎重に動くと思う」
やはりそうか。
ただ、慎重に動かれると、こっちも探せないんだよな。
ずっとそのジレンマがある。
「あいつ、東京を目指すと思うか?」
「思わない。僕もだけど、この状況で1人で動くっていうほどの行動力はないでしょ」
それは俺もだな。
その後も温泉を満喫し、露天の方も楽しむと、大浴場から出て、部屋に戻った。
そして、テーブルにつき、ドラッグストアで買ったジュースで乾杯をする。
「風呂上がりのコーラだなー」
「コーラってこんなに美味しかったっけ? すごいね」
10年ぶりにコーラを飲んだリクが目を見開いている。
「美味いだろ? やっぱりこっちの飲み物や食べ物は良いぞ」
「ホントにね」
「俺っちもこっちの世界に来た時に酒が美味いと感じたな。というか、とんでもないことに気付いた。小っちゃいままで飲めば飲み放題だ」
エルヴィスが缶ビールを抱えるように飲んでいた。
午前中のドラッグストアでエルヴィスとリンダ姉さん用に買ったやつだ。
「そりゃ良かったな」
ちょっと呆れながら見ていると、ノックの音が聞こえ、女子3人が部屋に入ってきた。
「お邪魔するわね」
「良い湯だったねー」
「あ、もう宴会してる」
3人はこちらにやってきて、テーブルについた。
アヤカが俺の隣に座り、高宮さんと北浦さんがリクの隣だ。
「リンダ姉さんは?」
「脱衣所にあったマッサージチェアで休んでるねー」
「すんごい揺れてた」
すごそうだ。
「自由な悪魔だな」
大胆というかなんというか……ここ、人間の町だぞ。
「リンダさんはそういう人でしょ。私達も飲みましょう」
3人がジュースを取り出したので改めて乾杯をし、皆でお菓子を摘まみながらジュースを飲んでいく。
「チョコ、美味っ!」
チョコ菓子を食べたリクが初めて食べたようなリアクションをした。
「でしょ? ヤバいよねー?」
「鬼ヤバ」
本当にな。
「俺っち達もそう思うぜ。多分、魔界に帰りたいって思ってる悪魔はいないと思う。酒も食いもんも豊富だし、天国だぜ」
魔界か。
「なあ、エルヴィス、魔界ってどんなところなんだ? 異世界だろ?」
「本当につまんねーところだよ。海もあるし、森もある。山もあるし、村や町だってある。でも、この国と比べると天と地だ。それに魔物も多いから死が常に隣にある」
ふーん……
「俺達がいた異世界に近いのかもな」
「いや、大きく違うのがあると思う。魔界は常に薄暗いんだ。太陽が小さいんだろうな。寒いし、過ごしにくいところだ」
そうなのか……
「今さらだけど、なんで転移したのとかわからないの? 私達は神様に拉致され、さらには勝手に帰られされたけど」
アヤカが聞く。
「わからん。気付いたら人間の町にいたんだ。お前らが言うような神の声みたいなのも聞こえていないし、転移した理由を知っている奴はいない」
事故かな……
「俺達を生贄に悪魔を召喚がマジだったりしてな」
SNSにあったやつ。
「さすがに違うと思うけどね。というか嫌よ」
俺達のせいみたいだしな。
「魔物がいるって言ってたけど、しゃべらないゴブリンもいるん?」
高宮さんがエルヴィスに聞く。
「いるぞ。しゃべらないというか、知性がない個体だな。そいつらを魔物と呼ぶ。多分、お前達がいた世界の魔物と同じだろう」
ふーん……
「そいつらは転移しなかったんだ」
「こっちに来てからは見てないからそうじゃないか? SNSで外国の様子を見てもそんな感じだし。もし、魔物がいたらもっとパニックになってたと思うぜ」
だろうなー……
というか、下手をしたら大勢の人間が死んでいる。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




