第063話 高梨アヤカ
俺達は4階にやってくると、廊下を歩き、それぞれの部屋の前に立つ。
「じゃあ、ちょっとしたらそっちに行くから」
「一緒に待機した方が良い」
それもそうだな。
「ああ」
頷くと、それぞれの部屋に入る。
部屋はベッドが2つあるが、そこまで広いというわけではない。
とはいえ、窓際に小さな丸テーブルがある。
「ビジネスホテルってどこもこんな感じなのかしら?」
「多分、そうじゃないか? 高級なホテルならまた別なんだろうけど」
俺達はホテルに泊まるっていう経験があまりないのだ。
「いつかはそういうところに泊まりたいわね」
「そうだな」
アヤカと手を離すと、それぞれのベッドに腰かける。
俺が窓際でアヤカが手前だ。
「ふう……」
アヤカが一息ついた。
「ここまで来たな」
「別府から始まり、島根だものね。結構な旅だわ」
何キロくらい進んだんだろう?
「順調で良いよな?」
「マユミとヒナと合流できて、エルヴィスとリンダさんという悪魔側の仲間もいる。大村君の情報はないけど、松永君はもうちょっと。順調と言って良いと思う」
そうだよな……
「どうしてもリクとミナト……全員が揃わないと、落ち着かない自分がいるんだ」
「大丈夫よ」
アヤカがこちらのベッドに来て、再び、手を握ってくれる。
「エルヴィスの隣を見ろという言葉はまさしくだな。その言葉がなかったら焦りまくっていたと思う」
まずは自分達。
これが大事だ。
「仕方がないわよ。大村君と松永君は10年……いえ、1年生の時からって考えると11年も一緒にいたんだもの。同じようにまだマユミやヒナと会えてなかったら私もそうなっていると思う」
11年……長いな。
それだけの時間をずっと一緒にいた。
もはや家族と言ってもいいレベルだ。
「アヤカと一緒に転移して良かったって思うな。あの時、手を伸ばして良かった」
1人でこんな終末世界は厳しい。
2人だったからここまで順調に来られたと思う。
そして、その相手がアヤカだったのだが、本当に良かった。
一緒にいられるということよりもアヤカがどこに転移したのかわからない状況だったらとんでもなく焦っていたと思うし、それでどこかでミスをしてそうだ。
「そうね。私もそうして良かったって思うわ」
今の自分がそうであるようにアヤカの支えになれたらなって思うな。
そう思っていると、ノックの音が聞こえてきたので扉の方に行く。
そして、扉を開けると、高宮さんと北浦さんがいたので部屋の中に招き入れた。
「やっぱり同じような部屋だねー」
「狭いね。まあ、異世界の宿屋のことを考えたら充実してるけど」
高宮さんと北浦さんは丸テーブルのところにある椅子に座る。
「エルヴィスとリンダさんが帰ってくるまでどうする?」
アヤカが聞いてくる。
「やることはないな……」
「SNSチェックでもしない? 松永君の情報もあるかもしれないし、大村君や切り裂きジャックの情報も欲しいし」
「そうしよっか。じゃあ、私とマユミでリクの情報を探すからアヤカは切り裂きジャックね。ユウはミナト」
それが良いか。
俺達はスマホを取りだし、それぞれSNSで情報を見ていく。
俺はミナトなので槍とか、どこかで事件が起きていないかを探っていった。
「ミナト、特徴がないな……」
槍を調べても熊本の槍男である山根の件しか出てこない。
「リクもなー……モヒカンとかにすればいいのにね」
モヒカンは嫌だな。
ヒャッハーじゃん。
「しないっしょ。ウチらが検索しやすいようになると、逆に言えば他のクラスメイトも検索できちゃうのがジレンマよねー」
そうなんだよな。
「ねえ、私達だけがわかるワードなんかで釣れないかな?」
アヤカが顔を上げた。
「ドロップアウト」
俺もそれが浮かんだ。
まあ、俺と北浦さんしか言ってないし。
「それ、調べたことがあるよ。普通に引っかかりまくる」
ドロップアウトだもんな。
普通に何かをやめる時に使うワードだ。
「うーん……名前はマズいし……俺達がいた町の名前はどうだ? 【レステの町の生活は楽しかったなー】ってつぶやけばいい」
俺達がいた町の名前がレステなのだ。
「他のクラスメイトにも引っかからない?」
「そこまで到達していない奴らは町の名前を知らないし、俺達より先に行っている奴らは道中で寄った町の一つだ。覚えていたとしてもまず検索はしないだろ」
「それもそうね。じゃあ、ちょっとつぶやいてみる」
アヤカがスマホを操作する。
「他にあるかな?」
高宮さんと北浦さんを見る。
「大村君と松永君が探すのはまず高梨君だと思うわけよ。男子仲間だし、リーダー」
「うん。私もまずはマユミを探すと思う」
女子のリーダーは高宮さんだしな。
はぐれたり、何かあったらまずはリーダーのもとに集まる。
それは10年間の異世界生活でやってきたことだ。
「俺のことで何かあるか? 他のクラスメイトはわからないけど、ミナトとリクは知ってること」
「あるねー……」
「彼氏にプロポーズされ、高梨アヤカになったーってつぶやきなよ」
色々と違わない?
「なんで2人がそれを検索するのよ?」
アヤカがジト目で北浦さんを見る。
「いや、名前検索。まずは名前を検索するでしょ。そしたら引っかかるし、レステの町のつぶやきも見える。それらのワードから2人を連想するでしょ」
「他のクラスメイトは高梨君とアヤカの仲を知らないしね。高梨もアヤカもそこまで珍しい名字と名前じゃないし、そこまで目立たないと思う」
うーん……確かに俺達が合流して、チームドロップアウトになっていることを知っている奴はいないからな。
「まあ、そもそも俺はクラスで目立っていた方じゃないしな」
「そこは私もね」
いや、アヤカさんはどうでしょう?
可愛いから……いや、他のクラスメイトからしたら10年も前の話か。
山根も最初はアヤカのことがわからなかった。
「よし、アヤカ、つぶやいてくれ」
「ハァ……まずもって2人がスマホを持ってなかったら意味ないのよね……」
アヤカはため息をついたが、スマホを操作していく。
「リクの方はどうだ?」
調べている高宮さんと北浦さんに聞く。
「ダメ。特に検索には引っかからない」
「出雲もでっかい神社と蕎麦ばっかり引っかかる」
そうか……
「つぶやいたわよ」
アヤカが顔を上げた。
「切り裂きジャックは?」
「ないわ。最近は動いていないか、広島で情報規制がされているかのどっちかね」
うーん……広島のデーモンとやらが倒してくれるのが一番なんだがな。
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