第061話 ウェアウルフ
町中を進んでいくと、お堀が見えてきた。
「萩城址だって」
そう看板に書いてある。
「さっきのも城下町だったし、そういう町なんでしょ」
本来ならゆっくり観光したい感じだな。
「あ、海だ」
お城址を通り過ぎると、旅館が立ち並ぶ区画にやってきたのだが、海が見えている。
「ここですね」
リンダ姉さんは駐車場に入り、車を止めた。
「ここからは俺っちが先導する。行くぜ」
エルヴィスがそう言って、車を降りたので俺達も続く。
そして、歩いて海にやってくると、綺麗な砂浜だった。
「へー……良いじゃん。もう少し暖かくなったら泳げそう」
「さすがに5月はね」
前に話してやつだな。
「ユウ君、この景色……」
「ああ。写真と同じだな」
俺達はスマホを取りだし、リクが写っている写真を見る。
「んー……あの辺かな?」
アヤカが右の方を指差した。
「行ってみよう」
スマホと周りを見比べながら砂浜を歩いていく。
すると、写真の地形と同じ場所にやってきた。
「ここね……」
「間違いないな。あそこにリクが立っていったんだ」
前方を指差す。
当然だが、リクはいない。
「ねえ、後ろにいっぱい旅館があるんだけど、リクってあそこに泊まってたんじゃない?」
北浦さんが後ろを見たので俺達も振り向くと、確かに旅館が並んでいた。
多分、海の眺めをコンセプトにしているのだろう。
「エルヴィスさん、ここは任せます。私はちょっと旅館の人に聞いてきます」
「頼む」
リンダ姉さんはこの場から離れ、旅館の方に向かった。
「エルヴィス、ウェアウルフは?」
というか、周りには誰もいない。
「まだ時間じゃねーからな。まあ、写真でも撮って、その辺で待っとけ」
そうするか。
「なんか独特な砂浜だよな?」
「そうねー……なんか雰囲気があるわね」
エルヴィスがタバコを吸い始めたので俺達はスマホで写真を撮る。
「歴史ある町って感じだったしねー」
「全然、詳しくないけど、長州藩とかそういうのじゃない?」
うーん……俺も全然知らないけど、高杉晋作とか桂小五郎もここに来たんだろうか?
もうちょっと歴史を勉強すれば良かったかも。
「高梨君、とりあえず、アヤカとの写真を撮ってあげるからスマホを貸して」
「じゃあ、はい」
高宮さんにスマホを渡すと、海をバックにアヤカと並ぶ。
「いちたすいちはー?」
「「にー」」
アヤカとピースサインをした。
すると、カシャという音が鳴る。
「お堅い夫婦写真コレクションが増えたよー」
高宮さんがスマホを返してくれたのでアヤカと写真を見てみる。
「良い感じね。あとで送ってちょうだい」
「ああ。高宮さん、仲良し女子3人の写真を撮ってあげる」
「よろー」
俺達は前と同じように色んな写真を撮っていく。
すると、旅館のから大柄の狼男がこちらにやってきた。
ウェアウルフである。
しかも、かなり魔力が高い。
「お前がエルヴィスか?」
ウェアウルフがエルヴィスに聞く。
「ああ。ディーンか?」
「そうだ……ふん。人間か」
ディーンが俺達を一瞥した。
「わかるか?」
「俺はウェアウルフだぜ? 匂いでわかる。それもそんじょそこらのウェアウルフじゃない」
「確かにすげーマナだな」
「お前もな。まあいい。それで俺が撮った写真のことを聞きたいってんだったな。その前に聞かせろ。あのコスプレ野郎もだが、そいつらは何だ? 広島の切り裂きジャックと関係あるのか? 俺もこの辺りを縄張りにしているし、把握しておきたいんだ」
ディーンがそう言うと、エルヴィスが俺を見てくる。
「俺が話そう。ディーンだったか? 俺はユウだ。あんたが言うように人間だ」
「どう見ても人間だな。でも、人間が持っていいマナじゃねーよ。お前もそっちの女共もだ。何者だ?」
話すべきだな。
「実は……」
俺はディーンに自分達のことを説明する。
元々が高校生だったこと、そして、異世界に行っていたこと、そして、別府に戻ってきて、今は仲間を探していることなどを説明していった。
「はん! 異世界なんてイカレちまったかって言いたいな。でも、それはお互い様だ。俺達も別世界からここに来ているからな。しかし、それでようやく合点がいったぜ。広島の切り裂きジャックはお前らのクラスメイトだな?」
「ああ。俺達もそう考えている。それであんたの質問に答えるが、俺達は関係ない。俺達は仲間同士で静かに暮らしていたんだ。これからもそうする」
それだけは揺るがない。
「そうかい……まあ、思想は人それぞれだし、お前達が俺達の脅威じゃないのはわかった。しかし、そうなると、長門のデニスでも危ないわけか……」
デニス?
「ヘカトンケイルか?」
「ああ。そいつだ」
名前までは聞いてなかったが、なんとなくわかった。
「俺達はジョブとスキルという恩恵がある。それと10年間もの間、ずっと魔物を倒してきたことで得たマナだな」
「そうかよ……おい、ちょっと魔法を使ってみてくれ。どんなものかを知りたい」
魔法か……
「わかった」
俺は海に向かって手を向ける。
そして、魔力を込めると、海が波立っていき、ついにはモーゼのように割れた。
「もういい」
「そうか?」
魔力を込めるのをやめると、海が元通りに戻る。
「バケモノじゃねーか。これで静かに暮らしていた? そうじゃなかった連中はどれだけなんだよ」
「俺達より強い人間は確実にいる。それと静かに暮らしていたいという俺達の考えとは逆の人間もいる」
山根とか切り裂きジャックはまさにそうだろう。
「チッ! ちょっと考えねーとな……」
「もういいか? リクのことを教えてくれ。仲間なんだ」
「ああ……そいつな。もうこの町にはいねーよ」
いない……
「どこに行ったかは?」
「島根だ」
島根……予想通りではあるが……
「なんで知っているんだ?」
「俺の知り合いがそいつをそっち方面に運んだよ。ヒッチハイクをしてたらしいぜ」
そうやって足を確保したわけか。
「それはいつだ?」
「2、3日前だな。浜田まで連れていったんだってよ」
「浜田……」
俺達はスマホを取りだし、地図アプリで確認する。
「結構行ってるわね」
「でも、出雲まではまだ距離があるね」
「ねえ、そこから先は?」
北浦さんがディーンに聞く。
「さあな。でも、東方面に行ってることは確かだ。そこから先もヒッチハイクじゃないか? さすがに人間の領域である出雲に入る時は歩きだろうけどな」
2、3日前に浜田……そこから出雲……
「まだ島根にいるな」
「時間的にはそうね」
アヤカと頷き合った。
「リクのことも人間ってわかったんだよね? スルーで良いの?」
北浦さんが聞く。
「知らねーよ。人間共は侵略者である俺達が嫌いだろうけど、俺達からしたら人間なんてそこら辺のゴブリンやコボルトと変わらねー。所詮は別種族のうちの1つだ。戦いを挑んでくるから戦うだけだな」
そういう考えか。
「じゃあ、私達もスルー?」
「スルーだ。さっさと出ていけ。いや、残ってくれて、切り裂きジャックの野郎を殺してくれても良いぜ」
「それは無理。仲間が大事だし、そんなトラブルはいらない」
当然だ。
「だろうな。じゃあ、さっさと行きな。そのリクって男はこっちではそこそこ話題になっている。いつ切り裂きジャックの耳に入るかわからないぜ? 俺はすぐにでもSNSでコスプレ野郎は島根の方に行ったってつぶやくからよ」
さすがにそれは止められないか。
「わかった。ありがとう」
「本当ならマナをもらうつもりだが、こっちも結構な情報をもらった。助かったぜ。じゃあ、頑張れや」
ウェアウルフはそう言って、旅館の方に帰っていった。
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