第006話 状況
俺達はリンゴを食べながら窓の外を見る。
畑や山が見えており、日本の風景にしか見えない。
ただ、車を運転しているのはゴブリンだ。
「なあ、あそこの山に木が生えていないのは戦争の余波か?」
歩いている時にも見えていた禿山を指差す。
「あーん? ありゃ火山の影響だろ。別府は有数の温泉街だしな。お前ら、この国の人間だろ。なんで知らねーんだ?」
ゴブリンの方が詳しい……
「俺達は東京の人間なんだ」
「また遠いところだな」
「東京の高校に通っていた高校生だったんだ」
「ふーん……ガキがいきなり異世界に行くなんて大変だな。それも10年か……何があったんだよ?」
なんかエルヴィスって大人な感じがするな。
「突拍子もないことだぞ」
「もうすべてが突拍子もないだろ。この世界に来た俺達も、異世界に行っていたとかほざいているお前達も」
それはそうだ。
「俺達は授業中にいきなり異世界に飛ばされたんだ。そして、神に魔王討伐を命令された」
「へっへっへ。確かに突拍子もねーな。神に魔王ときたか。それで?」
「旅に出て、色んなことがあった。しかし、俺もアヤカもその旅の途中で友人を失い、挫折した。旅を続けられなくなり、とある町で足踏みしていたんだが、違うクラスメイトが魔王を倒し、俺達は戻ってきたんだ」
本当に色々あった。
楽しいことも……辛いことも……
「ふーん……友人を失ったか。魔物にでも殺されたか?」
「ああ」
「おめーらに言っておく。友の死を嘆くことも後悔することも大事なことだが、飲み込まれたらダメだぜ?」
「あんたに何がわかるのよ……!」
アヤカが怒気をはらんだ声を出す。
「わかるさ。戦争があったし、今も続いているって言っただろ? 俺っちの仲間も死んだし、逆もしかりだ。ユウ、アヤカ、友の死に囚われるなよ? そういう奴はロクな死に方をしねーぞ」
ロクな死に方……
「そう思うか?」
「悪魔も人間も同じだよ。マジでロクな死に方をしなかった。おめーら、ちょっと手を繋いでみろ」
え?
「なんでだよ」
「いいから繋いでみ?」
えーっと……
「兄ちゃん、そこはスムーズに繋ぐもんだぜ?」
えーっと……
「いい、かな?」
「はいはい」
アヤカの方から手を繋いできた。
「どうだー?」
温かいし、柔らかい……
アヤカって手が小さいんだな。
「いや、これが何だ?」
「死人を見すぎるな。隣にいる仲間を見ろ。お前達はまだ一人じゃないし、人生は続いている。優先すべきことは何かをちゃんと考えろ」
………………。
「わかった」
「そうね……ユウ君もマユミもヒナも大村君も松永君もいる」
そうだな。
「…………そうか。異世界から戻ってきたのはお前らだけじゃないのか」
あ、そうだ!
「あいつらも戻ってる!」
そして、同じ状況だ。
下手をすると、悪魔が住む町のど真ん中だぞ。
「そうだったわ。エルヴィス、スマホの充電器とか持ってない?」
「充電器? モバイルバッテリーなら持ってるな。ほら」
エルヴィスが空間魔法からモバイルバッテリーを取り出し、アヤカに渡す。
「連絡を取らないと……ん? 刺さんないわよ?」
「あーん? ちょっと見せてみろ」
エルヴィスが運転しながら手を出してきたのでアヤカがスマホごとモバイルバッテリーを返した。
すると、エルヴィスが車を停止させ、スマホとモバイルバッテリーを見る。
「あー……古いタイプだな。10年も前だから仕方がないか。えーっと、あったかな……」
エルヴィスがダッシュボードを開け、探っていく。
そして、ケーブルを取り出すと、モバイルバッテリーとアヤカのスマホを繋いだ。
「これでいいだろ。ほらよ」
アヤカにスマホを返すと、再び、車が動き出す。
「電話するか?」
「まだ充電したばかりよ。動くかどうかも……」
それもそうか。
「お前らの他に何人いるんだ?」
エルヴィスが聞いてくる。
「30人くらいはいると思う。そのうち俺達の仲間は4人だ」
ミナト、リク、大村さん、北浦さんだ。
「お前らと同じくらいに強いのか?」
「俺達以上もいる。少なくとも、魔王を倒した奴がいるな」
「そうかい……荒れそうだねー……」
そうかもな。
「なあ、お前もスマホを持っているんだろ? 仲間とかに連絡が取れないか?」
「取れるが、知り合いは皆、別府にいるぜ? 他の町のことは知らない。いや、ネットで確認できるかもな」
ネットか。
「なあ、戦争だか何だか知らないが、インフラはあるんだよな?」
「人間も俺達もそこは整備しているからな。SNSを見るとおもしれーぞ。人間と悪魔がレスバしているし、逆に妙な会もできている。代表的なのがさっき言ったサキュバス教だけどな」
すごい世界になったな。
「戦争はどんな感じだ?」
「今はある程度、落ち着いている。ただ場所によるな。福岡辺りは激しいみたいだ。本州は知らねー」
本州……
「東京はどうだ? SNSとかで情報がないか?」
「あー、おめーら、東京の人間だったな。家族か?」
「ああ。10年も会ってない」
「気になるわな。ちょっと待ってろ」
エルヴィスがスマホを取りだし、操作し始めた。
「運転中だぞ」
「うるせーな。まあ、急ぐこともないか。ったく……」
エルヴィスが車を止めた。
「ニュースとかそういうのか?」
「その辺は死んでるよ。フェイクニュースだらけで何も信用できない状況だ。咎める人間もいないし、ひどいもんだぜ。間違っても動画サイトとかは見るな」
嫌な動画がたくさんあるっぽいな。
「じゃあ、どうやって調べるんだ?」
「SNSだな。東京は……人間側だからそこまで被害はない。ほれ」
エルヴィスがスマホを見せてくれたのでアヤカと見る。
スマホには画像が映っており、渋谷の街並みっぽい。
「普通ね。そこまで変わってなさそう」
「新しい建物があるわけでもないし、壊れているわけでもなさそうだな」
「そりゃこんな状況だから積極的にビルの建て替えなんてしないだろ。お前ら、東京に行きたいか?」
東京……
「ああ。家族に会いたい」
「もちろんよ」
俺とアヤカが頷く。
「そうか……俺はユウからマナをもらっている。だから情報を渡せる。それは辛い情報でも聞くか?」
辛い情報……
「教えてくれ」
「そうかい。じゃあ、言うぞ。東京は戦争で結構な人間が死んでいる。あそこにはこの国のトップがいるから一番の激戦区だったんだ。良い情報としてはその争いに勝ったのは人間側だっていうことだな。しかし、一方で東京の周りは千葉と神奈川を除いて、すべて悪魔側だ。関東、中部、東北はほとんどだ」
囲まれているということか。
「行くのは難しいか?」
「上手く悪魔側を誤魔化せれば望みはある。だが、境はどこも厳重だぞ」
そりゃそうだ。
戦争しているんだからな。
「それでも行く」
「ええ」
俺とアヤカは深く頷いた。
「そうかい。ただ、焦るなよ? 方法は探せばあるんだ。焦った奴は死ぬ。これも覚えておけ」
「それは知っている」
俺達も異世界に行っていたから……
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