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第005話 混沌世界


「すまん……魔界って何だ?」

「俺達のような悪魔が住んでいる世界だ。まあ、お前らが行っていた異世界って思っておけ。俺達だって詳しくは知らねーよ」


 ふーむ……


「わかった。それで進めてくれ」

「あいよ。10年前、魔界にいた俺達はいきなりこの世界に現れた。俺達も焦ったが、それ以上に人間が焦っていた。そして、俺達を排除しようとした。そこからは戦争だな」


 排除……


「日本がか?」

「ははっ、日本はそこまででもなかったな。この国は武器がないし、逃げるばかりだった。軍隊もいたが、何故か攻撃してこなかったんだよ」


 うーん……日本っぽい。


「日本は武器の所持が禁止されているからな」

「みたいだな。でも、他所の国は違う」


 他所の国……


「お前ら魔物が出てきたのは日本だけじゃないのか?」

「世界中だよ。あと魔物と呼ぶんじゃねー。俺達はあんな知能のない奴らとは違う。悪魔だ。お前らも猿とか言われたらムカつくだろ」


 魔物とは違うのか……


「すまん。よくわからないんだ」

「だろうな。とにかく、俺達は悪魔だ。話を続けるぞ。日本では最初、そこまでの争いは起きなかったんだが、他所の国では争いが起きた。それはもう各地で大戦争だ。そうなると、自然と日本も同じよう空気になり始めた。何よりも俺達も住むところがない。そして、1つの銃弾が戦争を起こした。米軍基地の連中だがな」


 そうか。

 日本にはアメリカ軍がいる……


「それで?」

「俺達も黙って殺されるほど馬鹿じゃない。向こうがその気ならやる。それで各街々を奪っていった」


 本当に戦争だ。


「ねえ、人間は? あなた達が勝ったの?」


 アヤカが聞く。


「最初はこっちが優勢だったな。この国の人間はマジでよえーし、話にならなかった。しかし、すぐに反撃に転じて、逆にこっちを攻めてきた。以降、町の奪い合いだな。実際、この辺でも起きてるぞ。別府を始めとするこの辺は俺達悪魔のものだが、熊本なんかは人間の町だ。よく阿蘇山辺りで小競り合いが起きてるぜ」


 悪魔と人間の戦争か……


「ユウ君、どう思う?」

「ちょっと信じられんな」

「だよね……」


 信じろって言われても難しい。

 しかし、目の前にはしゃべるゴブリンがいる。


「信じるか信じないかはお前らに任せるぜ。まあ、実際に見ればわかると思うぞ」


 見る……か。


「なあ、だったらこのまま道を進んでいけば悪魔が住む町に着くのか?」

「そうなるな。この辺は山に近い田舎だから悪魔は住んでねーが、別府市街は悪魔しかいねーよ。見たら驚くんじゃねーか?」


 マジかよ……


「このまま進んだらマズいのか」

「え? どうすればいいの? 警察どころの話じゃないわよ」


 警察どころか人がいないって話だからな。


「まあ、お前らだったらどうにかなりそうだけどな」


 ん?


「どういうことだ?」

「さっきも言ったが、お前らにはマナがある。それも人間とは思えないくらいにな。だったら悪魔って言い張れば信じるんじゃねーか?」


 俺達が悪魔……


「いや、さすがに無理じゃないか? 俺達はお前と違うぞ」

「あー、このことも言わねーとな……一言に悪魔と言っても色々いるぜ? 魔物と一緒だ。俺がゴブリンであるようにオークの悪魔もいれば、姿が人間に近い悪魔もいる。サキュバスなんて人間に人気だったぜー? 人間の中ではサキュバス教なんてあるくらいだからな」


 サキュバス……異世界では見たことがなかったが、男の精を奪うえっちなお姉さんというイメージだ。

 博識の俺は勉強したから知っている。


「バッカみたい」


 アヤカが呆れる。


「まったくだな」


 一言言えるのはアヤカじゃなくて、ミナトとリクだったらちょっと盛り上がったかもしれないということ。


「へっへっへ。まあ、そういうわけでお前達が市街地に行っても大丈夫だとは思うぜ。ただ、確証はしない」


 うーん……


「状況や今の世界の常識を知らないからな……」

「いまだにマナとか悪魔とかよくわからないし、頭に入ってこないしね……」


 状況整理ができていない。


「だったら案内してやろうか?」


 ん?


「案内? お前がか?」

「ああ。俺っちと一緒だったら怪しまれることもないだろ。それにその都度、教えてやれる」


 それはありがたいが……


「なんでそんなことをしてくれるわけ? 怪しいわよ」


 アヤカがジト目になる。


「別に無理にとは言わねーよ。単純にもらったマナに釣り合った情報を渡してないから提案しただけだ。断ってもいいぞ。ただ、マナは返すからな」


 悪魔の等価交換のルールか……


「ユウ君、どうする?」

「このまま2人で行くのは危険だと思う」

「でも、罠だったら?」

「罠を張るならここで情報をくれる必要はない。それに市街地に行かなかったら逆方向に行くしかない。山だぞ」


 遭難の二文字が浮かぶ。


「奥に行くのはやめとけ。行き止まりだぞ。道なんてない」


 ゴブリンが頷きながら教えてくれる。


「あー、わかんなくなってきた。頭がくらくらする」


 アヤカが頭を抱えた。


「アヤカ、自分達を信じよう。何かあっても逃げられるくらいの力はある」


 俺達はドロップアウトしてしまったが、けっして弱くないのだ。


「ごめん。ユウ君に任せる……」


 よし。


「ゴブリン、案内してくれ」

「いいぜ。それと俺の名前はエルヴィスだ」


 かっこいいな、おい。


「俺はユウだ。こっちがアヤカ」

「へっへっへ。よろしくな。ちなみにだが、お前ら夫婦か?」

「違う。友人だ」

「ふーん……なんとなくわかったぜ。まあ、乗りな。別府まで連れていってやるぜ」


 エルヴィスが親指でくいっと箱バンを差す。


「どうでもいいことを聞くが、なんで運転できるんだ?」

「ははっ、別府に行ったらビビると思うぜ。俺達悪魔は普通に人間と同じように生活しているからな。車だって乗るし、テレビだって見る。この世界は最高だぜ」


 テレビって……番組を放送しているのか?

 いや、待て……確かに俺達が泊まった家にはテレビがあった。


「あ、そういえば、お前の家かは知らないが、一泊したぞ」


 というか、元居た人間の家じゃないか?


「勝手にしろよ」

「ハムも食べた」

「泥棒じゃねーか」


 すまん。


「何か食べるものはないか? 昨日からハムしか食べてない」

「あー、はいはい。後部座席にリンゴがあるからそれでも食ってろ」


 エルヴィスがそう言って、運転席に乗り込んだので後部座席に向かう。

 そして、中を覗いたのだが、段ボールに積まれた赤いリンゴの山が見えた。


「これは?」

「売りもんだよ。俺が育てたんだ。俺は農家だからな」


 ゴブリンが農家……


「本当に人みたいだな」

「俺達も10年で馴染んだんだよ。いいから乗れ」

「あ、ああ」


 俺とアヤカは後部座席に乗り込むと、段ボールの中にあるリンゴを取る。


「これ、大丈夫?」

「毒はない。普通のリンゴだ」


 俺のスキルである鑑定ではそう出ている。


「食べよっか」

「ああ」


 俺達がリンゴを齧ると、車が動き出した。


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