第004話 非常識VS非常識
「よくわからねーが、俺っちとやろうってか? けっ、めんどくせーな」
ゴブリンはどこからともなく、斧を取り出した。
「空間魔法!? ゴブリンが!?」
訳がわからない。
ゴブリンは雑魚中の雑魚であり、魔法なんて使えないはずだ。
「アヤカ、ちょっと待て!」
アヤカの肩を掴む。
「え? で、でも、魔物が……」
「いいから!」
強めに言うと、アヤカが剣を降ろした。
とはいえ、アヤカならその状態でも相手より早く動ける。
「あん? やんねーのか? 何だ、お前ら?」
ゴブリンは斧を降ろさずに怪訝な顔になった。
「お前、ゴブリンか?」
しゃべれるならまずは対話だ。
状況がわからなさすぎる。
「俺っちが天使にでも見えるか?」
ゴブリンが笑った。
「見えない。なんでゴブリンがこの世界にいる? なんでしゃべる?」
「ハァ? お前ら、マジで何だ? 何を言っているんだ?」
ゴブリンの方も困惑し始めている。
「俺達は10年ぶりに異世界から帰還した。10年前はゴブリンなんかいなかった。異世界でゴブリンに遭遇したこともあるが、しゃべりはしなかった」
「は? 異世界? 10年前? 頭がおかしい連中か?」
ゴブリンにこんなことを言われる日が来るとは……
「本当のことを言っている。お前は何者だ? どうなっている?」
「ふーむ……なんか必死だし、嘘を言っているようには見えねーな……」
ゴブリンが斧を降ろした。
「嘘じゃない。お前に言ってもわからないかもしれないが、俺達の格好は変だろ」
「あーん? そういや人間が着ている服とはちょっと違う気がするな。それにお前らからはマナを感じる」
マナ?
いや、それよりも人間か……
「人間がいるのか? 全部、ゴブリンになったわけでもなく?」
なんかのウィルスで人間がゴブリンになったっていう考えもないわけではなかった。
「こりゃ本物か? マジでわかってねー……」
「どういうことだ? 教えてくれ」
「ふーん……人に物を頼む時はそれ相応のものを払うもんだぜ?」
ゴブリンがにやりと笑ってそう言うと、アヤカが殺気を出す。
「アヤカ」
「わ、わかったわよ」
アヤカが数歩下がった。
「ゴブリン、それ相応のものって何だ? 金はないぞ」
学生だったし、持っていない。
異世界の金貨も店の倉庫の中だ。
いきなりだったのでロクに持ってこられなかったのだ。
「金? はっ! 人間は本当に金が好きだな。そんなもんはいらねーよ。俺達悪魔が欲しいのはマナって決まっている」
マナ?
「さっきも言ってたが、マナって何だ?」
「マナはマナだ」
ゼロ点の解答だな。
「さっき俺達がマナを持っていると言ったな?」
「ああ。持ってるぜ。人間にしては珍しいことだ。あ、いや、最近はそうでもねーか。人間共も盛り返してきてるし」
こいつの言っていることがまったくわからない。
「マナって目に見えないものか?」
「そうだなー……あんたはかなり持っている。そっちの姉ちゃんもすごいが、あんたほどじゃねーよ」
普通の人間は持っていない、アヤカも持っているが俺ほどではない……
「魔法を使う魔力か?」
「あー、そういう認識で良いと思うぜ」
この言い方だとちょっと違うのか?
うーん……
「それでお前は魔力……マナを寄こせって言ってるのか?」
「ああ。マナは俺達悪魔にとって最高のご馳走だし、力になる。悪魔の中ではすべてのことはマナで片付けられるんだ」
金みたいなものか?
「それでそのマナを渡せば教えてくれるっことか?」
「そう言っている」
ふーむ……
「どうやって渡すんだ?」
「ユウ君!」
アヤカが止めてきた。
「何だ?」
「そいつの言うことを信じるの?」
「それはわからない。でも、明らかにおかしいことが起きているのは確かだ。真偽はどうであれ、情報が欲しい。判断するのはそれからだ」
まずはとっかかりが欲しいのだ。
「はん。兄ちゃんの方はわかってるな。それとマナの渡し方だったか? お前は魔法を使えるんだろ? だったらその魔力とやらを俺に流してくれればいい」
ゴブリンが笑う。
騙しているようにも見えるが、今は信じるしかない。
もっとも、騙したとしても後ろにはアヤカが控えているからどうとでもなるが……
「手を出せ」
「へへ。人間にマナをもらうのはさすがに初めてだぜ。どんな味がするのかな?」
ゴブリンが手を出してきたので握る。
そして、魔力をゴブリンの方に流した。
「ほう! ほう! 良いね! 最高だ! すげー……いや、いや、いや。さすがに離せ。もらいすぎだ」
ゴブリンがそう言うので手を離した。
「これでいいのか?」
特にこちらの変化はない。
「へっへっへ。良いぜ。しかし、寄こしすぎだ。さすがに情報料と釣り合わねーよ。返す」
ゴブリンが再び、手を差し出してきた。
「いや、たいした魔力は流してないぞ」
「ほう? あんた、見た目以上にマナを持ってるな? ということはそっちに姉ちゃんもか……異世界に行っていたというのもあながち嘘じゃねーのかもな。明らかに人間の器じゃない」
ゴブリンが感心する。
「よくわからん」
「そうだろうな。とにかく、マナは返す。悪魔っていうのは契約を重視する。必要以上の対価はもらってはいけないんだ」
ルールでもあるのか?
「だったら対価に見合うだけの情報をくれ。俺達は何もわかっていないし、いまだに頭が混乱しているんだ」
なんで俺はゴブリンと握手をしたんだって思ってる。
「ふーん……」
ゴブリンは手を降ろすと、頭をかきながら考え込む。
「どうした?」
「いや……まあ、わかった。情報だったな。それを話そうじゃないか。その前に確認だが、お前らは10年前に異世界に行き、戻ってきたわけだな?」
俺が言ったんだが、他人から聞くと、すごいセリフだ。
しかも、それを言っているのがゴブリン。
「ああ。昨夜戻ってきた。そして、市街地に行こうと思って歩いていたんだ」
「なるほどねー。ってことは奥の集落で一夜を過ごしたわけだ」
「ああ。誰もいなかったがな」
「そりゃそうだ。あの辺は俺の家だからな。俺しかいねーよ」
なんでゴブリンが……いや、今はいい。
「教えてくれ。なんでこの世界にしゃべるゴブリンがいる? それに人はどこだ?」
「焦るな。対価はもらったし、丁寧に教えてやる。10年前、この世界に突如として異形のバケモノが現れた」
異形のバケモノ……
「お前か?」
「へっへっへ。まあ、そういうことだ。俺達悪魔は魔界からやってきたのさ」
魔界……?
「魔界って何だ? 何を言っている?」
「そうよ。ふざけないで」
「異世界に行って戻ってきたとか言っているおめーらに言われたくねーよ」
そりゃそうだな。
実にごもっともなツッコミだ。
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