第003話 ごぶごぶ
俺達は居間に戻ると、コタツでハムを食べる。
「少ないわね」
ぺらぺらのハムだからな。
「仕方がないだろ。それにしても今、23時半だな……」
掛け時計があることに気付き、ようやく時間に気付いた。
「やっぱりゴールデンウィークだし、旅行っぽいわね。まあいいわ。朝にでも書置きをしておきましょう」
ごめんなさいって書けばいいか。
それで親に話して、金を払おう。
「どうする? 寝るか?」
「起きててもお腹が空くだけだしね。明日、朝にでも市街地に行きましょう。一応、市内っぽいし、どっかで車を見つけられるでしょ」
それもそうだな。
「じゃあ、電気を消すな」
立ち上がると、灯りを消し、コタツで横になる。
そして、目を閉じたのだが、眠気はまったく来なかった。
よく考えたら時差があり、まだ夕方だったのだ。
それでも目を閉じ続けたが、30分経っても眠気は来なかった。
「……ねえ、起きてる?」
アヤカが声をかけてくる。
「ああ。眠気ゼロ」
「私も。これからどうなるのかしら?」
不安で眠れないのかもしれない。
「しばらくは色々あるだろうな……でも、いずれは落ち着くだろ。そしたら、会社でも興すか」
「あなたって、その辺はアクティブよね」
「中卒の俺達はロクな就職先がないぞ。就職してもこんなことになった以上、同僚に変な目で見られるだけだ。だったら自分達で居場所を作ればいい。ミナト達や高宮さん達を誘って、6人で会社でも興そう」
上手くやれると思う。
「起業するっていっても何するの?」
「何でもできる。俺達はスキルがあるんだぞ。空間魔法があるし、配送業とか引っ越し業でもいい」
まずは車の免許だけど。
「なるほど。良いわね、それ。私ら、何トンでも持てるわよ」
それがジョブの恩恵である。
なお、錬金術師の俺は無理。
「だろう? 会社名はドロップアウト」
俺達にふさわしい。
「それは嫌。というか、客が来ないでしょ」
アヤカが笑う。
「まあな。社長は俺な」
「異世界の延長ってわけね。良いと思う」
そういう話を転移前にしていた。
「アヤカ、人生はどうとでもなる。異世界に行ったけど、生き延びられただろ」
「ええ……メイは死んじゃったけど」
「ショウタもだ。それでも俺達の人生は続くぞ」
立ち止まっても周囲も時間も待ってくれない。
実際、立ち止まらなかったクラスメイトが魔王を倒した。
「そうね……ありがとう。眠れそうだわ」
「ああ……なあ、転移する前の話なんだが、酔った時に俺は何を言ったんだ?」
「それはまた今度。というか、あなたが言ったんだからわかるんじゃない?」
それが皆目見当がつかない。
え? 告ってないよね?
実は2年生になって、同じクラスになった時からちょっと気になっていたことを言ってないよね?
「……おやすみ」
「ふっ、その辺はアクティブじゃないのね」
あれー?
言ってそうだぞー?
「宮前さんに何か聞いた?」
相談したのはあの人だけ……
「マユミ? 何も」
「そうか。あ、眠くなってきた」
「はいはい。おやすみなさい」
目を閉じると、自らにスリープの魔法をかけ、無理やり就寝した。
翌日、目が覚めると、コタツから出て、カーテンを開ける。
すると、部屋に朝日が飛び込んできた。
「朝ぁ……?」
アヤカが起きてくる。
「ああ。7時だ」
「学校に行かないとねー……」
懐かしいな。
もっとも、あの時は一緒に学校に行くどころかしゃべったこともない関係だった。
クラスメイトだが、まだ4月だったし、クラス替え直後だったから。
まあ、そこからさらに時間が経ったところで微妙だったと思うが……
「食べるものもないが、これを飲んでおけ」
そう言って、小瓶を2つ、取りだし、1つをアヤカに渡す。
「ポーション? ありがと」
アヤカが小瓶を受け取って飲んだので俺も飲む。
すると、コタツで寝たことで身体にあったちょっとした痛みがすーっと取れ、さらには身体が少し楽になった。
「あー……疲れてたんだな」
気付いていなかっただけか。
「色々あったしね。本当に楽になったわ。やっぱり錬金術師様様ね。ヒールは傷を治すくらいしかできないし」
俺はこういうポーションなんかを作れる錬金術師であり、これを売ったりして生計を立てていた。
というか、冒険者として魔物を狩るより儲かるのだ。
「空腹はどうしようもないけどな。行くか」
「ええ。書置きを書くわ」
アヤカはコタツの上にあるペンとメモ帳を取り、謝罪の言葉と電話番号を書いた。
「アヤカの番号か?」
「ええ。面白いもので10年経っても忘れてない」
俺は最初から覚えてないな。
「よし、行くか」
「ええ。もしかしたら私達、当分、会えなくなるかもね」
あー……あり得るな。
病院とかに連れていかれそうだし。
「仕方がないか。まあ、どっかで集まろう」
「そうね。学校はどう?」
良いかもな。
「そうするか」
俺達は立ち上げると、居間をあとにし、家を出た。
ちょっと肌寒いといった感じがするが、風があるわけでもないし、辛くはない。
「誰もいないわよね?」
「ああ。畑仕事をしている人もいないな」
「ま、いいわ。道路を歩いていきましょう」
俺達は道路まで出ると、左右を見比べる。
「どっちだ?」
「私のうっすらとした記憶なんだけど、確か別府って海に面していたと思うのよ」
「だったか?」
子供の頃に日本中を巡って物件を買い漁るゲームをしたが、あんまり覚えてないな。
「じゃあ、山と反対方向に行くか」
右だ。
「ええ。なんとかなるでしょ」
俺達は右の方向に歩いていく。
道はアスファルト舗装されていて歩きやすいし、電柱、側溝、ミラー、何もかも懐かしい感じがした。
「帰ってきたんだな」
「ええ……ねえ、あの山、何?」
アヤカが見ている方向には山があるのだが、木が生えていない。
日本の山ではあまり見ない風景だ。
「さあ? 別府のことは温泉っていうくらいしか知らん」
「やっぱり充電するべきだったかしら? 地図が欲しいわ」
そういやそういう便利なアプリもあったな。
すっかり忘れていた。
「歩いていけば車が見つかるだろ」
「そうねー……いや、人がいなさすぎない?」
田舎の集落を抜け、ひたすら歩いているのだが、車も人も通らない。
「うーん……泊まった家には生活感があったんだけどな」
「そうよね……廃墟とかゴーストタウンって感じではなかった……ん?」
アヤカが前方を見た。
前から車が走ってきているのだ。
「よし、警察に連絡してもらおう」
「そうね……ん? この気配は何……?」
「どうし……」
どうしたって聞こうと思ったのだが、言葉が止まってしまった。
何故なら、前方の白の箱バンの運転席に見えるのが人間に見えなかったからだ。
箱バンは俺達の10メートルくらいに手前に止まると、運転手が降りてくる。
緑色の肌に尖った目と耳……どう見てもゴブリンだった。
「くっ!」
アヤカは我に返り、空間魔法から剣を取り出して、構えた。
俺もいつでも魔法を使えるようにする。
「なんでゴブリンがこの世界にいる!?」
「知らないわよ! やるわよ!」
アヤカが低く構えた。
「あーん? なんで人間がこんなところにいやがるんだ?」
え?
「は?」
「ど、どういう……」
しゃべった?
ゴブリンが?
しゃべるゴブリンなんて聞いたことが……
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