第056話 温泉
カレーをあっという間に平らげると、一息つく。
「地味にゆで卵も美味かったな」
「異世界でも卵はあったけど、ほとんどスクランブルエッグだったものね」
あれはあれで美味いんだが、卵は色んな調理法があると思うのにほぼスクランブルエッグだった。
「いやー、満足だねー。さて、それでは温泉に行きますか」
「それ」
高宮さんと北浦さんが立ち上がったので俺とアヤカも立ち上がる。
「ごちそうさまでしたー」
「はーい。また来てねー」
俺達はレストランを出ると、エレベーターに乗り、1階に下りる。
そして、奥にある大浴場に向かった。
「ここか」
当然、男女に分かれている。
全然、残念じゃない。
「ユウ君、多分、私達の方が長いと思うから鍵を渡しておくね」
アヤカが鍵をくれたので受け取る。
「ああ。せっかくだし、ゆっくり入ってくれ」
女子の方が長いのはそうだろう。
「高梨君、またねー」
「浴衣美人×湯上り美人は最強ということを教えてあげる」
3人が女湯の方に入っていった。
「……もう別府で見たっての」
小声でそう呟くと、男湯の方に入る。
誰もいなかったのでぱぱっと服を脱ぐと、浴場に入り、身体を流した。
そして、誰もいない湯船に浸かり、足を伸ばす。
「あー……」
良いもんだなー。
この広い温泉を独り占めだ。
しばらく堪能すると、露天の方に向かう。
竹でできた柵で囲われており、別府のように海が見えるというわけではないが、これはこれで風情があり、良かった。
外気を感じながら温泉を楽しんでいると、他の客がやってくる。
「んー? 兄ちゃん、1人かー?」
入ってきたのは小型の悪魔であり、小さい羽根を動かし、ふよふよと浮いていた。
なんというか、いかにもっていう感じな悪魔であり、でっかいフォークが似合いそうな小悪魔だ。
「連れが隣なんだ」
「あー、女と来てるのか。こっちの悪魔かー?」
すぐ隣に入った小悪魔が聞いてくる。
「九州の別府から来たんだよ。仲間探しをしながら東方面に旅だな」
「へー……奇特だねぇ……じゃあ、島根の方に行くのか? あそこは出雲辺りから人間の町だぜ?」
それは知らなかった。
「ダメなら迂回する。広島辺りが怖いけどな」
「例の切り裂きジャックな。こっちに来るかと思うと怖いよなー」
来ないでほしいな。
「そっちはこっちの悪魔か?」
「まあ、そうだな」
地元悪魔か。
「萩に行こうと思っているんだけど、どんなところだ?」
「穏やかな良い町だぜー。刺激が少ないって敬遠する悪魔もいるが、俺様みたいな弱い悪魔は楽で良いぜ」
まあ、強そうには見えないな。
「なあ、海を見てるコスプレ野郎って知ってるか?」
「知ってる、知ってる。ちょっと前に話題になった奴だろ? そいつも仲間を探してるらしいぜ」
意外なところで情報源が……
「実はそいつの仲間が俺達なんだ。ちょっとはぐれてしまってな」
「そいつは災難だな。ただ、今どこにいるかは知らねーなー。萩の方でも切り裂きジャックの噂は広がっているし、こっち方面か島根方面に行っているとは思うが……」
ほうほう。
「良い情報だ。助かる」
「ん」
小悪魔が手を伸ばしてくる。
「マナか?」
「良い情報なんだろ? 対価はくれよ」
やっぱりそんな感じか。
「じゃあ」
小悪魔の手を握り、精一杯抑えた魔力を流す。
「ほー! 良いね! 兄ちゃんはわかってるぜ! でも、ちょっともらいすぎた感があるな……よし! 俺様がもう1つ良い情報を教えてやるぜ。例の切り裂きジャックだがな、ありゃ人間らしいぜ?」
ほう?
「人間が何百人も悪魔を殺せるか?」
「なんかよー、最近、変な人間が増えてきてるって話だぜ? 俺達インプはよえーからそういう情報には敏感なんだ」
インプなのか。
「切り裂きジャックもそれか?」
「ああ。広島の大将のデーモンが賞金首をかけたってよ。いきり立っているらしいぜ? 広島は当分ダメだな。荒れる」
デーモンねー……
「他の変な人間は?」
「四国の徳島を人間側が取り戻したのは知ってるか? あれも徳島で1人の人間が暴れたせいって聞いたぜ」
そういうことか……
「怖いな」
「まったくだぜ。人間は弱いが、あの欲望と諦めない心がマジでこえー。兄ちゃんも気を付けろよ。あ、もしかして、兄ちゃんも人間か?」
勘が良いな。
「だとしても興味ないな。仲間とわいわいしているのが楽しい」
「だよなー? 普通はそうだぜ。人生は一回しかないんだから楽しまないとな。けっけっけ」
その通りだなと思いながら温泉を堪能し、30分くらいが経ったので浴場を出る。
身体を拭き、浴衣を着ると、部屋に戻った。
当然、アヤカはまだ帰っていなかったので謎のスペースに行って椅子に座ると、外を眺めながら3人を待つ。
すると、扉が開き、アヤカ達が部屋に入ってくる。
「お待たせー」
「良いお湯だったわー。マジ、極楽浄土」
「満喫、満喫」
3人はテーブルのところに腰かけ、お茶を飲む。
3人共、湯上りであり、いつもより3割増しに良く見えた。
「そっちは誰かいたか?」
「いや、いなかったわよ。そっちはいたっぽいわね? 何を話していたかまではわからないけど、ユウ君の声が聞こえてたわよ」
そうか……
露天だからあの柵の向こうはアヤカ達がいたのか。
「インプがいたんだよ。それで話を聞いた」
俺は3人に先ほどのインプの話を伝える。
切り裂きジャックのこととリクのことだ。
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