第055話 トンカツは?
部屋に入ると、広々とした和室だった。
落ち着く雰囲気だし、障子越しから入る日の光が部屋を明るくしていた。
「やっぱり和室は落ち着くな」
「そうね。昔は何も思わなかったし、むしろ洋室の方が好きなくらいだったけど、10年も離れると、こっちの方が落ち着くわ」
まったくだな。
俺達は奥にある名前を知らない謎のスペースに行くと、障子を開ける。
すると、前方には山と川が見え、これまでとは違った日本の良き風景が広がっていた。
「良いな」
「ええ。海も好きだけど、こっちも好き。帰ってきたんだなーと思える」
うんうん。
「あ、着替えるか。テンション高めの2人が待ってる」
「お腹空いたしね。じゃあ、私はあっちで着替えてくるから」
アヤカは部屋の押し入れにある浴衣を取ると、脱衣所の方に向かった。
俺も浴衣を取り、その場で着替えていく。
「えーっと、どっちだっけ? やっぱり調べよう」
スマホを取り、浴衣の正しい着方を調べる。
どうやら右前が正しいようだな。
「こんなものかな?」
空間魔法があるからいいが、浴衣ってスマホなんかの貴重品を入れるポケットみたいないのがないんだよな。
『ユウくーん、もう大丈夫?』
アヤカが扉越しに聞いてくる。
「着替えたー」
そう答えると、アヤカが出てくる。
花柄の浴衣であり、可愛らしいアヤカに似合っている。
サキュバスなんか目じゃないぜ。
「良い感じだな」
「でしょ? ユウ君も似合ってるわよ」
「やっぱり日本人はこっちだよなー」
「ね?」
俺達は頷き合うと、部屋を出る。
すると、すでに高宮さんと北浦さんが待っていた。
2人共、花柄の浴衣姿であり、よく似合っている。
「おまたせ」
「おー、アヤカ、良いじゃん」
「さすアヤ」
うんうん。
「2人も良い感じね。なんか修学旅行みたいで良いわ」
結局、俺達が行けなかったやつな。
2年の秋に行く予定だったのだ。
「だよねー。よし、昼ご飯にしよう」
俺達はエレベーターに向かい、2階のボタンを押す。
「そういえば、他の客がいない」
「まだ昼だしねー。別府ではどうだったん?」
高宮さんが聞いてくる。
「似たような感じだったな。夕方くらいに増えてくる。女湯はわからないけど、大浴場もそんな感じだった」
「女湯も同じような感じだと思うわ。最初は少なかったけど、夜は多かった。あ、スライムが入ってきても『女の子かい!』ってツッコんだらダメよ?」
言ってたな。
「なんか楽しそう」
「姉さんと入って、敗北感を味わうまでがセット」
俺はオークさんに尊敬の目を向けたな。
いや、そんなに見てないけど。
俺達は2階にやってくると、すぐそばにあったレストランに入る。
レストランといってもやはり和風の要素が強い内装だ。
「誰もいないわね」
「やってんのかな?」
「――いらっしゃーい。適当な席についてねー」
奥の厨房から男性の声が聞こえてきたので適当なテーブルにつく。
やっぱり並びは俺とアヤカが隣同士で対面に高宮さんと北浦さんだ。
「何にしようかなー?」
「やっぱり雰囲気的に和食じゃない?」
高宮さんと北浦さんが嬉しそうにメニューを見る。
「俺、これにする」
色々あったが、すぐに目に飛び込んできたので指差す。
「カレー……」
「なっつ……」
「私もこれにする」
北浦さんもカレーを指差した。
「温泉旅館でカレーかー……でも、私もこれかな」
「すみませーん。カレーを4つー!」
高宮さんが注文した。
「はーい。ちょっと待っててねー」
厨房から返事が聞こえた。
「やばくない? カレーだよ?」
「やばたにえん」
やばたにえんだな。
ちょっと待っていると、腕がいっぱいある人型の悪魔が人数分のカレーと水を持って、こちらにやってきた。
「お待たせー。カレーだよー。暇だったからゆで卵もトッピング。美味しいよー」
「ど、どうも……」
すげー魔力なんだけど?
絶対にボスキャラだ。
「シェフ?」
アヤカが聞く。
「そうだよー。料理が好きだからここで働いているんだよー。ゆっくりしていってねー」
シェフはカレーと水を置くと、厨房に戻っていった。
「あれ、何だ?」
「わからない……でも、仲居メデューサよりも魔力が高かったわね」
とんでもない悪魔が普通に働いているんだよな……
「ま、良いじゃん、食べよう、食べよう」
「うん。美味しそう」
俺達はスプーンを取り、カレーを食べる。
すると、スパイシーな香りと程よい辛味、そして何よりも濃厚な旨味と絡み合う米が非常に美味しかった。
「これだ……」
「美味しい……」
「インド料理だけど、日本に帰ってきたって感じがする」
「鶏肉だ……おいひい……」
北浦さん、泣いてる……
「他に何食べたい? 俺、トンカツ」
カツカレーが食べたい。
「親子丼ね。得意料理だった」
アヤカはやっぱり家庭的だなー。
「はちみつたっぷりのパンケーキっしょ」
ごめん、高宮さん。
ホットケーキしか食べたことないや。
「炊き込みご飯」
良いな……
すごく渋いチョイスだ。
「これから食べていこうか。フグも良かったけど、懐かしいのを食べていこう」
「うん」
「そだねー」
「どっかキッチンを使える宿泊施設で泊まるのも良いかも」
良いかもー。
親子丼を食べたい。
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