第054話 旅館
しばらく走っていると、海が見えなくなり、代わりにのどかな町並みに変わる。
さらに進んでいくと、海ではなく、山が見えるようになり、川沿いにある温泉街が見えてきた。
「あそこか?」
リンダ姉さんに聞く。
「ええ。今日はあそこの温泉街ですね」
へー……
「別府とはちょっと違うな」
エルヴィスを見る。
「そうだな……山も普通だし、煙も出てない」
別府ははげ山だったし、あちこちで煙が出ていた。
ちょっと匂いが気になったが、風情ある感じだった。
「リンダさん、どこに泊まるの?」
アヤカがリンダ姉さんに聞く。
「えーっと、仲間が勤めている旅館があるんですよね……」
まーたサキュバスか。
「SNS?」
「ええ。便利ですよね。あ、ありました」
リンダ姉さんは前方にある旅館に入る。
そして、出入り口の前に車を止めた。
「ここか」
老舗って感じのする旅館だ。
「では、チームドロップアウトの皆さんは降りてください。フロントに言えば、昼ご飯も作ってくれますし、今からお風呂に入ることもできるでしょう。私達も夕方までには戻りますのでゆっくりしてください。あ、私の部屋も取っておいてくださいね」
「あ、俺っちのも」
前の旅館もそんな感じだったな。
今回はリンダ姉さんの名前を出せばいい。
「姉さーん、部屋割りは?」
「私は個室でお願いします」
「俺っちもだな。あとはお前らで決めろ」
男女で分かれるかと思ったが、そうではないのか。
「どうする?」
アヤカが後ろの2人を見る。
「やっぱり誰かを1人にするのは良くないし、アヤカとユウ、私とマユミで良いんじゃない?」
「そうそう。ま、暇だし、集まって温泉に行くか、トランプでもしようよ」
今回は完全にオフだしな。
「わかった。じゃあ、そんな感じで。エルヴィス、リンダさん、何かあったら連絡を」
頷いたアヤカが前の2人に告げた。
「ああ」
「もちろんですよ。夕食は一緒に食べましょう」
「ええ」
俺達は車から降りると、エルヴィスとリンダ姉さんと別れ、中に入る。
すると、綺麗なロビーであり、奥には受付があった。
「あー……仲居メデューサが懐かしいな」
「仲居サキュバスね。絶対にそう」
受付にはニコニコした若い女性がいるのだが、胸元がざっくりした花魁みたいな格好をしているのだ。
「姉さんって実はまともなのかも」
「結構、着こんでいるしね」
いーや、体のラインがはっきり見えるニットとパンツスタイルだからエロエロだ。
ちょっと小さいサイズなのか、たまにお腹が見えるし。
あれは絶対にわざと。
「もうここからでもチャームをかけてきてるのがわかる」
バリアで防いでるけど。
「高梨君、サキュバスにモテるねー」
嬉しくない。
俺達はアヤカを先頭に受付に向かう。
「いらっしゃいませー。当旅館にようこそー」
すげー甘ったるい声だ。
「泊まりたいんだけど空いてる? 2人部屋が2つと個室が2つ」
さすがはアヤカ。
クールだ。
「んー……リンダちゃんのお友達だったりするー?」
「ええ。リンダさんの知り合いが働いている旅館って言ってたわね。リンダさんともう1人ゴブリンがいるんだけど、その2人は夕方に来る」
「なるほど、なるほど。わかりました。それでは部屋を取っておきましょう。では、2人部屋の鍵です。401号室と402号室です」
仲居サキュバスがカウンターに鍵を置いたのでアヤカが取り、1つを高宮さんに渡した。
「それとご飯って食べられる? 昼食がまだなの」
「あとお風呂ねー」
「温泉」
高宮さんと北浦さんは楽しみが止まらないって感じだ。
「わかりました。それでは当旅館の施設について、説明させていただきます。まず、1階の奥に大浴場があります。残念ながら男女で分かれています」
仲居サキュバスが本当に残念そうに頬に手を当て、俺を見てくる。
「いや、そりゃそうでしょ」
「またまたー。あ、続けます。2階にはレストランがあります。そこはいつでも利用できますのでお食事はそちらで食べてください」
いつでも?
「24時間?」
「ええ。寝てたら叩き起こしてください」
それはしない。
「部屋では食べられないの?」
「部屋にある電話をかけていただければお持ちしますよ。その他の貸し出し品もありますのでお気軽にお電話ください…………例のやつって言えば持っていきますよ」
仲居サキュバスが俺の方を見て、ウィンクをしてきた。
そして、悲しいことに例のやつがちょっとわかってしまった。
「どうも。じゃあ、ゆっくりさせてもらうわ」
「ごゆっくりー」
俺達は受付から離れると、エレベーターに向かう。
「例のやつって何?」
アヤカが聞いてくる。
「わからん」
即答。
「どうせロクなものじゃないっしょ」
「…………多分ね」
北浦さんはわかってるっぽいぞ。
「ふーん……それより2階で先にご飯を食べる?」
「いや、先に部屋に行こうよー。それで着替えとかを持って、ご飯にしよ。ご飯のあとは温泉だ」
「それだ。マユミ、賢い」
高宮さんと北浦さんのテンションが高い。
「じゃあ、そうしましょうか」
俺達はエレベーターに乗り込むと、4階にやってきた。
そして、401号室と402号室の前に立つ。
「じゃあ、準備ができたら出てきてよ」
「浴衣で集合ね。ユウに浴衣美人を見せてあげる。役得」
テンション高いなー。
でも、俺はもう別府で見たよ。
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