第052話 首を傾げているアヤカが可愛い
翌朝、アヤカに起こされて目が覚めると、一緒に朝食のカップ麺を食べる。
「微妙に不健康よね」
「ドラッグストアでビタミン剤とかもらえば良かったな」
正確に言うと、火事場泥棒。
「一応、何個かもらってきてるけどね。ユウ君、ビタミンポーションとか作ってよ」
うーん……
「ビタミン剤を見せてくれ」
「はい」
アヤカが瓶に入ったマルチビタミンを渡してくれたので解析してみる。
「ふーん……まあ、作れないこともないな」
俺の錬金術は別に材料が必要ということはない。
まあ、材料があった方が早いし、良いものが作れるけど。
「そう? さすがはユウ君。シャンプーとか化粧水とか作ってくれたもんね」
商品だったんだけどな。
全然、売れなかったけど。
絶対に売れると思ったんだけどなー。
「時間を見て、作ってみるわ」
「お願い。やっぱり頼りになるわね」
そう?
上機嫌で朝食を食べると、準備をし、部屋を出る。
そして、隣の部屋をノックした。
「高宮さーん、北浦さーん、そろそろ時間だぞー」
『ちょっと待ってー』
また靴下かな?
『マユミ、あったよ』
『おー、良かった』
そのまま待っていると、扉が開き、2人が出てくる。
「靴下?」
「うんにゃ、ヘアピン」
それは見つかりにくいだろうな。
「もう9時になるし、行くわよ」
アヤカがそう言って、エレベーターの方に向かったので俺達も続く。
「昨日、あれから何してたんだ? 遅い時間まで話し声が聞こえてたけど」
電気を消し、ベッドに入ってからも隣から声が聞こえていた。
もっとも、何を話していたかまではわからない。
「部屋でゴロゴロしてたよ。そしたらリンダ姉さんが来て、三次会」
また飲んだのか?
あの人、運転手だけど、大丈夫だろうか?
「高宮さんと北浦さんも飲んだの?」
「ちょびっとね」
「女子会」
「へー……」
まあ、暴飲するような2人じゃないか。
「そっちはー?」
高宮さんが聞いてくる。
「夜の海を見てた」
「船が良かったわよ」
うん。
眺めながら話ができて良かった。
「絶対にウチらの部屋の空気と違うんだろうね」
「姉さん、後半は下ネタばっかりだったしね。白子酒の件は引いた」
ひどいね。
俺達はエレベーターで1階に下りると、出入り口近くのソファーに座っている下ネタ姉さんと毒ゴブリンのもとに向かう。
「おはよー」
「おはよう」
「おう。ユウのおかげで朝起きたら冷たくなっていたってことにはならなかったぞ」
そりゃ良かった。
「姉さん、二日酔いは大丈夫ー?」
「取り締まる警察はいないかもしれないけど、事故は勘弁だよ」
「大丈夫ですよ。毒に耐性があるんですからアルコールにも耐性がありますよ」
ホント?
「一応、二日酔いに効くポーションもあるから飲んでくれ」
リンダ姉さんにポーションを渡す。
「これはどうも。ユウさんは本当に万能ですね。私とすばらしいポーションを開発しませんか?」
絶対にエロいポーションじゃん。
「しない」
「そうですか。では、行きましょう」
俺達はホテルを出ると、駐車場にある車に乗り込んだ。
もちろん、並びは同じだ。
「このルートが良いと思うぞ」
「ふむふむ……」
助手席のエルヴィスがリンダ姉さんにタブレットを見せて、ルートの相談をしている。
「ヒナ、今日は温泉だよ」
「楽しみ。露天で星を眺める」
「悪魔がいるからびっくりするわよ」
オークさんはびっくりしたなー……
「さて、それでは行きますね。安全運転で参ります」
リンダ姉さんはポーションを一気飲みすると、エンジンを点け、車を発進させた。
そして、町中を進んでいく。
「ユウ、アヤカ、ミナトとリクの情報はどう?」
北浦さんが身を乗り出して聞いてくる。
「全然。あれから萩を中心に観光地なんかを探しているが見つからない」
「私もね。大村君の情報もなし。それどころか広島の件以外はクラスメイトっぽい情報もないわね」
悪魔と人間の争いの情報はすぐに見つかるのだが、欲しい情報はあまり見つからない状況だ。
「私達もなんだよね。やっぱりこっそり動いているのかな?」
「だと思う。10年の神隠しにスキルやジョブ。後ろめたいことがなくてもあまり目立つようなことは避けるんじゃないだろうか。ただでさえ、俺達がいた時と比べて状況が変わりすぎてるし」
ファンタジーからファンタジーだ。
「あのさ……ちょっと口裏を合わせない?」
ん?
「口裏って?」
「私らはこれから東京に行くわけでしょ? そして、親に会う。もしかしたら道中で政府とか警察に見つかって、問題が大きくなる可能性もゼロじゃない」
避ける方向だが、確かにゼロではないな。
「異世界に行ってましたでは精神病棟に入れられそうだから適当に言い訳を考えるってことか?」
「いや、それは無理。じゃあ、どこにいたんだって説明できないし、素直に説明するべき。幸い、今の状態ならあり得ないこともないでしょ。悪魔が転移してきてるんだからさ」
それもそうか。
以前だったら下手をしたら薬物とかを疑われそうだが、今はこっちもファンタジーだ。
「じゃあ、口裏って?」
「生きている人と死んでいる人」
そういうことか……
「俺、ショウタの親に何て言えばいいんだ? あいつの家に遊びに行ったことがあるから親も知ってる」
「私もメイの家に行ったことがある。その2人だけじゃなく、先生も含め、他の死んだ人達のことを言うか、言わないかを今のうちに決めておきたい」
生きているか、死んでいるか……
「すまん。卑怯者と呼んでくれてもいいが、俺は言えないと思う」
「私もそう。言えない」
俺と北浦さんはアヤカと高宮さんを見る。
「難しいわね……それに死んだって言って、家族は信じるかしら?」
「ウチらは生きてるわけだしね……」
全員、言いたくないようだ。
まあ、それはそうだろう。
「やめとけ。またトラブルになるぞ」
エルヴィスが振り向いて、俺達を見る。
「そう思うか?」
「無理無理。下手をすると、お前らが殺したって思われる」
「いや、さすがにそれはないんじゃないか?」
なんでそんなことを言われないといけないのか。
「思うんだよ。直接的に殺してなくても、なんで守れなかったのかとか言われる。そして、人殺し扱いだ。しまいにはお前らが死ねば良かったのにっていう罵倒が飛んでくるぜ」
「飛んでくるでしょうねー。人間と悪魔の大きな違いはその辺りの執着です。とぼけてもいいですから言わない方が吉ですよ。そんなのを相手にしたら病んじゃいます」
リンダ姉さんもエルヴィスと同じ意見だ。
「ユウ君、どうする?」
「リーダー」
「社長」
うーん……いや、答えは出ている。
「俺達は俺達のことしか知らないで良いと思う」
深く頷き、はっきりと告げる。
「わかった。それでいこう。これはチームドロップアウトで決めたこと」
「そうね。申し訳ないという思いはあるけど、私達はそれでいく」
「ま、ウチらはウチらの生き方が一番だよ。ヒーローにも勇者にもなれなかったのがウチらだしね」
3人も頷いた。
「決まったかー?」
エルヴィスが確認してくる。
「ああ。エルヴィスが言うように隣を見ることにする」
そうすればおのずと答えは出るのだ。
「すばらしい絆ですね。それもまた人間にあって、悪魔にはないものかもしれません。それを大切にしてくださいね」
「姉さん、いつも良い締めをするね」
「締まりが良いですから」
そういうとこだぞ。
あと、ドヤ顔してないで前を向け、運転手。
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