第045話 市場
「なんかこう言ったらなんだけど、こっちの世界に来てから悪魔の方が良い人が多い気がするわ」
アヤカがつぶやく。
「ちょっとな……」
エルヴィス、リンダ姉さん、それに仲居メデューサも小倉のホテルのウェアウルフも良くしてくれた。
一方で人間側は電車のヤンキー達や風俗街の黒服、それに山根だ。
もちろん、悪魔側にもオーガなんていたし、人間側も町まで運んでくれた自衛隊はいた。
「悪魔は寿命が長いこととマナを重視しているからだと思う」
北浦さんが意見を言う。
「どういうこと?」
「悪魔は人間の欲があまりない感じがする。どこかあっさりしていて、お婆ちゃんやお爺ちゃんって感じ。それでいて、マナですべてが決まるから考えが簡潔な気がする」
確かにそんな感じはする。
「だから私達はどこか心地良いのかしら? ユウ君やヒナが言うドロップアウト組で諦めた側の人間だから」
「そうかもな。俺達にだって欲はあるけど、結局は平穏に暮らしたいってことだし」
ローリスク、ローリターンを目指している。
「まあね」
「正直、家族のことがなかったら皆とあのまま別府で暮らすのも悪くないなって思ってた。まあ、人間側が攻めてきたけど」
攻めてこない田舎とかなら良いかも。
「確かに良いわね。ただ、物資的なものは人間側の町が安定しているわよ?」
「それはあるな……」
俺達、10年の異世界生活でジャンクフードやお菓子類に飢えているし。
「私ら、別に人間の町側も行けるし、買い出しに行けば良いだけじゃね?」
「うん。私も平穏な町に住むのが良いと思う。聞いてる限り、人間側は治安が悪化してるし」
高宮さんと北浦さんも同意っぽい。
「ミナトとリクと合流、そして、東京に着いたら考えてみるか」
「そうしましょうよ。私達だったらどうとでもなるわよ」
「そだねー。お金とかの欲で破産するメンツじゃないし」
「会計は任せて」
俺達は土産物屋からちょっと歩いていき、市場にやってきた。
市場は活気づいており、様々な悪魔がサハギンの売っている魚介を見ている。
「おー、すごいな」
「お寿司とかも売ってるわね」
「お祭りみたい」
「港町って感じがする」
なんか楽しそうで良いな。
「どうする?」
「とりあえず、見て回りましょう。せっかくだし」
「そうするか」
俺達は市場を覗いていく。
様々な魚が売られているし、多くの悪魔がそれらを買っていた。
ただ、やはり治安は良いようでトラブルなんかは起きていない。
「なんか見てると、お腹が減ってくるね」
北浦さんがお腹を押さえる。
「ウチら、朝食を食べてないしねー」
「うん。マユミの靴下のせい」
悪い靴下だな。
「お寿司とか味噌汁を売ってるし、食べる?」
「食べる」
「うん」
俺達は割かし空いているところに行き、寿司を見ていく。
「いっぱいあるな」
「ええ。聞いたことない魚もある」
「おじさん、これとこれとこれとこれ。あと汁」
「私もこれとこれとこれとこれと汁」
高宮さんと北浦さんはすぐに決め、注文する。
「あいよ。でも、おじさんじゃねーよ。俺はまだ100歳にもなってないし、若いっての」
店員のサハギンが仏頂面でそう言いながら寿司をパックに詰めていく。
でも、100歳に届かないって言うくらいだし、50歳は軽くオーバーだ。
「ごめーん。お兄さん、ちょっと聞きたいんだけどいい?」
「何だよ?」
「ウチら、これから東の方に旅立つんだけど、どんな感じ? 広島で切り裂きジャックが出たのは知ってるけどさ。なんか土産物屋で市場の仲間に聞いた方が良いって言われたんだよねー」
高宮さん、上手だ。
「あー、あいつか。東ねー……お前ら、人間みたいだが、サキュバスか何かか?」
俺はインキュバスですかね?
「まあ、そんな感じ。種族は秘密」
「ふーん……ぱっと見は人間に見えるし、広島に行くよりかは山陰の方を通った方が良いんじゃね?」
山陰は島根、鳥取のことだ。
逆に広島、岡山は山陽。
「やっぱり広島は危ない感じ? 土産物屋の店員さんは広島市を避ければ良いって言ってたけど」
「得体が知れないんだよ。目撃者もゼロ。どうやったのかもわかってない。人間側の新兵器か、それともとんでもない悪魔が現れたか……その辺はよくわかってねーみたいだけど、近づかない方が良いぜ。その切り裂きジャックがいつまでも広島市にいるとは限らねーからな」
なるほどね。
「岡山はどうなん?」
「あそこは平和だな。関西の方は面白いぜ? 悪魔と商売している人間もいるからな。実際、あっちの方のサハギンに話を聞くと、人間に魚を卸している奴もいるらしい」
へー……
「報酬は? 人間はほとんどの奴がマナなんか持ってないし、商売にならなくね?」
「そこが人間の面白いところだよ。あっちの方じゃマナを金に換えている商売があるんだってよ。人間も逞しいよな」
民間兵が悪魔からマナを奪い、それを業者が買い取って、悪魔と商売をしているのか。
「ふーん……ちょっと関西は怖いね」
「そうかもな。まあ、お前らは人に紛れ込めそうだし、大丈夫だろ。いける、いける」
ふむふむ。
「ねえ、四国はどう?」
アヤカが聞く。
「四国か……徳島が人間側に落ちたって聞いたな。残りは香川だし、岡山に撤退もあるんじゃないか? 詳しいことは漁師の俺は知らねーけどな」
四国は愛媛、高知が人間側と聞いていたが、徳島もか。
確かアヤカの祖父母は高知だし、とりあえずは安心かもしれない。
「ありがとう。あ、私もこれとこれとこれを。それとみそ汁もちょうだい」
「あ、俺もこれとこれとこれとこれとこれとみそ汁」
「あいよ」
俺達は詰めてくれた寿司とみそ汁を受け取ると、マナを支払い、市場の外に出た。
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