第042話 海
車が町中を進んでいくと、高速に入った。
「姉さん、海はー?」
高宮さんが外を眺めながら聞く。
山やビルなんかで全然、見えないのだ。
「たまに見えるかもしれませんが、当分はこのままですよ」
「なーんだ」
「あと数十分の我慢です。橋から見える海は綺麗ですよ?」
「へー……アヤカさー、もうすぐ夏だし、海に行かない?」
海……
「泳ぐの?」
「いつ東京に行けるかわからないけどさ、色んなところに行けるわけだし、良い感じのビーチもあるかもよ?」
「海ねー……小学校以来だから15年以上前ね。まあ、良いんじゃない?」
「行こう、行こう」
海……
「ねえ、なんで私は誘わないの?」
北浦さんがむっとする。
「あんたは最初から頭数に入ってる。海好きじゃん」
「まあね」
へー。
北浦って名字だからかな?
俺も梨が好きだし。
会話に入れない話題だなーと思いながら外を見た。
「んー……? 車がいなくないか?」
首を傾げながらアヤカを見る。
「そういえば、そうね。リンダさん、高速がオーガの巣とかないわよね?」
「ないですよ。それは大分でしょ。こっちのオーガは西の方で人間と争ってますよ」
こっちの悪魔は何とか川で福岡の人間と争っているって聞いたな。
「じゃあ、なんで車が走ってないの? そんなに早い時間ってわけじゃないわよね?」
「こっちのルートは大分、山口方面です。今、大分に行く人はいませんし、山口方面も通行止めなんで行けません」
ん?
「通行止め? 厳重なことは聞いたけど、そうなのか?」
「高速は基本厳しいんですよ。人間側も狙いますし、トラップがあったりしますからね」
へー……え?
「大丈夫なのか?」
トラップって……
「ここは悪魔の勢力だから大丈夫じゃないんですか?」
えー……
「姉さん、降りようよー」
「地雷とか嫌だよ」
北浦さん、怖いこと言わないで。
「大丈夫ですって。そもそも山口に行くにはこの道しかないんです。他の道は潰れてます」
マジかー。
「防御魔法をかけるぞ」
全員と車に結界を張る魔法をかける。
「ユウ君、さすがね」
「さすがなしっちー」
「頼るべきリーダー」
すまんな。
防御魔法が得意なのはリクだ。
俺の防御魔法はそこまで……
大丈夫かなーっと思っていたが、特に何も起きずに進み、トンネルを抜けると、海が見えてきた。
「おー、海ね」
「綺麗ー」
「おっ、船が見えるよ」
確かに海は綺麗だし、船が数隻見える。
「リンダ姉さん、通行止めってあれか?」
前方の道路というか、橋が塞がっている。
「そうですよ。サービスエリアに入ります」
リンダ姉さんは橋に入る前に左に逸れ、サービスエリアに入っていくと、車を駐車場に止めた。
周りには10台くらいの車が止まっているが、歩いている人はいない。
ただ、サービスエリアから高速に戻る道の前に数人のオークがいた。
「本当に大丈夫なのか?」
エルヴィスがリンダ姉さんに聞く。
「話は通してあります。何もかもマナですよ。マユミにもらったんで」
「ふーん……」
「では、ちょっと行ってきます。あなた達は車から降りないでくださいね。空にハーピーがいますので」
リンダ姉さんはそう言って、車を降り、オークのもとに歩いていった。
「ハーピーか……」
「いるわね」
橋の方に鳥人間がいっぱいいる。
「襲ってくるのか……高宮さん、リンダ姉さんにどれくらいのマナを渡したんだ?」
「さあ? なんか手を握って、魔力を流しただけ。そんなたいした量じゃないよ」
俺もエルヴィスにはたいした量を渡していない。
それなのに至れり尽くせりだ。
「というかさ、魔力って渡せるんだね。正確には魔力じゃなくて、マナだけど」
そういや、そうだな。
魔力を流すのはよくやる行為だ。
俺なら物を作る時にやるし、アヤカとかなら武器に流す。
「アヤカ、ちょっと俺のマナを受け取ってみてくれ。ものは試しだ」
「私がもらうの? 役割的に私がユウ君にマナを渡した方が良くない?」
まあ、それはそうかも。
アヤカ達が主に使っている強化魔法はそこまで魔力を使わない。
「じゃあ、ちょっとだけでいいからくれ」
「ん」
アヤカが手を差し出してきたのでちょっとドキドキしながら握る。
やっぱり柔らかくて、温かい手だ。
「いいぞ」
「うーん……どう?」
確かにアヤカから魔力が流れてきているが……
「微妙。エルヴィス、強くなってるか?」
エルヴィスに確認してみる。
「結構なマナが流れているように見えるが、誤差なんだろうな。今の俺ならわかるぜ」
エルヴィスは山根のマナを得ているからか。
「ドカッと流してみよっか?」
「なんか怖いからやめておこう」
俺とアヤカが手を離すと、リンダ姉さんが戻ってきた。
「お待たせしました。通れますので行きますよ。さすがに橋の上では止まれませんので走りながら海を楽しんでください。それでは出発」
リンダ姉さんが車を動かすと、検問をしていたオーク達が避け、高速に戻る。
すると、すぐに橋に入り、左右に広い海が見えた。
「おー……海だー!」
「船もいるねー」
「良い感じ」
すごく眺めも良いし、九州と山口に挟まれた海峡が綺麗だ。
時間にしては1分くらいの眺めだったが、十分に楽しめたし、色々と目的のある旅だが、これからも楽しくなりそうだなと思った。
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