第032話 夜中
突如、カンカンカンという大きな音が聞こえ、目が覚めた。
「んー?」
「え? 何? 目覚まし?」
アヤカも起きたようなので立ち上がり、灯りを点ける。
「火事か?」
鐘の音だし、それっぽい。
「またー?」
アヤカも起き上がり、乱れた浴衣を直し、窓の方に向かったので俺もついていく。
外は特に何も起きてないように見えるし、暗い。
いや、徐々に建物の灯りが点き始めた。
「皆、起きるわよね……って、3時じゃないの」
時計を見ると、確かに3時だった。
どうも最近、ゆっくり寝られていないような気がする。
「ちょっとエルヴィスに電話……あ、かかってきた」
スマホを点けると、ちょうど画面にエルヴィスと表示され、着信音が鳴った。
「エルヴィス?」
「ああ。もしもしー?」
通話ボタンを押した。
『ユウか!? アヤカはそばにいるか!?』
ちょっと焦った声だ。
「いるわよー。というか、寝てるっての」
アヤカが答える。
『そりゃ良かった。時間がないから簡潔に説明する。この鐘の音は警報だ。人間が攻めてきたんだ』
は?
「え? 人間が? 自衛隊?」
『詳細はわからん。とにかく、逃げるぞ。さっさとロビーに降りてこい』
マジかよ。
「わ、わかった」
頷くと、電話が切れたのでアヤカを見る。
「マジ?」
「エルヴィスは悪質な冗談は言わないし、ドッキリもしないだろ」
「ま、そうよね。ハァ……落ち着かないわね」
まったくだ。
「仕方がない」
「まあね。行きましょうか」
「着替えは?」
俺達は2人共、浴衣姿だ。
「あとでいいでしょ。急ぎましょう」
「わかった」
俺達はスマホなんかの出していたものを収納すると、急いで部屋を出る。
そして、エレベーターに向かったのだが、他の待っている客で埋まっていた。
「ユウ君、階段を使いましょう」
「ああ」
俺達はちゃんと階段の位置もチェックしていたのでそちらに向かい、階段を下りていく。
「浴衣って走りにくいわね」
「そういう服じゃないしな。仕方がない」
俺達は階段飛ばしで急いで降りると、ロビーに出た。
すると、玄関の方にエルヴィスと仲居メデューサがいたのでそちらに向かう。
「エルヴィス!」
「来たか。どうやら西の方から結構な攻勢に出ているらしいぞ」
本当に攻めてきたのか。
「エルヴィス、逃げるのはいいですが、下道はやめなさい。おそらく、混んでいるし、進みませんよ」
仲居メデューサが忠告する。
「わかってる。じゃあ、俺達は行く。オーナーによろしく言っておいてくれ」
「ええ。気を付けて」
「ああ」
頷いたエルヴィスが外に出た。
「仲居さんは逃げないんですか?」
一緒にとは言わないが、随分と悠長な感じがする。
「逃げる? 私が? 何故?」
なんか怖い……
まあ、メデューサだもんな……
「あ、いえ、何でもないです……お世話になりました」
「ありがとう」
「いえいえ、またいらしてください。どうせこちらが勝ちますから。では、私もこれで失礼します。オブジェをいっぱい作らないと……」
仲居メデューサは怖い笑みを浮かべ、受付の方に向かった。
「やっぱりボスキャラだよな……」
「そうよね……」
「お前らー、何してんだー? 乗れっての」
あ、そうだった。
俺達は慌てて外に出ると、後部座席に乗り込む。
「行くぞ」
「お願い」
エルヴィスが車を発進させる。
しかし、旅館の敷地を出たところで止まった。
「チッ、やっぱり下道は無理そうだな」
前を見ると、町の方で車のライトらしき明かりが見えているし、走って逃げている悪魔もいる。
「悪魔も逃げるんだな」
「弱い悪魔もいるし、戦いを好まない悪魔もいる。この別府はそういう悪魔が多いんだ」
なるほど。
「どうするの? 仲居メデューサは勝つと言ってたけど、万が一、自衛隊がやってきたらマズいわよ」
「わかってる。これまでも自衛隊が攻めてきたことはあったが、こっちが勝ってきた。ただ、不安にさせるようなことを言うと、被害がゼロなわけではないし、町までやってきたこともある。熊本から大分までは山が多いし、複数の道が入り組んでいるから別動隊がここまで攻めてきやすいんだ」
マジかよ……
あ、いや、そうか。
俺達もそうやって熊本に行ったし、帰りも自衛隊を振り切ったんだった。
「戦闘になっても何とかなるとは思うけど……」
「やめとけ。こうなったら仕方がない。高速を通るぞ。あそこなら間違いなく、混んでない」
高速……
「オーガの巣があるんだろ?」
「あるな。天秤にかけ、どっちがマシかを考えた結果、そっちが良い」
「戦闘は?」
「あるかもな。まあ、問題ねーよ。行くぞ」
エルヴィスが車を走らせる。
「ユウ君、着替えるからちょっとあっち向いてて。あ、エルヴィスも振り向くんじゃないわよ」
「興味ねーよ。そもそも種族が違うんだぞ」
あ、やっぱりそういうのがあるんだ。
「それでも!」
「わかったよ」
「ユウ君もお願い」
俺は興味あるけど、紳士と評判なので窓の方を見る。
そして、スマホを取りだした。
「アヤカ、高宮さんと北浦さんに連絡する」
「お願い」
スマホを操作し、高宮さんに電話をかける。
時間が時間なので中々出ないが、10秒くらいでようやく呼び出し音がやんだ。
『もしもしー……? 高梨君、今、何時だと思ってんのー……?』
『迷惑。寝られないならアヤカの布団に行くといい』
2人共、眠そうな声だ。
「すまん。ちょっとこっちで問題が発生した。熊本の自衛隊が攻めてきたんだ」
『は?』
『え? 戦争?』
さすがに2人も目が覚めたようだ。
「まだそこまでいってないと思うが、逃げているところだ。だから予定より早くそっちに着く。多分、朝方には着くと思う」
高速なら1時間で着く。
とはいえ、高速に乗るまでが混むし、乗った後はオーガの巣だ。
『わ、わかった。ヒナ、起きるよ』
『うん。ユウ、そっちは大丈夫?』
北浦さんが聞いてくる。
「だと思う。こっちも戦力は十分だし、どうにでもなる」
『それでも気を付けて』
「ああ。それでどこに行けばいい?」
『競馬場でいい。私達も準備をしたら姉さんを起こしてそこに行くから。また連絡をお願い。こっちも動きがあったら連絡する』
「頼む」
頷き、電話を切った。
「ユウ君、もういいよ」
アヤカの方を見ると、すでに着替えており、髪を整えていた。
「俺も着替える」
「はいはい」
アヤカが窓の方を見たので服を取り出し、着替え始めた。
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