第029話 敬老
俺とエルヴィスは風呂から上がり、休憩スペースで待つ。
ちょっとすると、湯上り浴衣姿の想い人が出てきた。
「お待たせ」
髪を上げ、童顔ながらに大人びた感じがとても魅力的。
「俺達もさっき上がったところだ」
「お風呂に入ったら疲れがドッと来たし、さすがに眠くなってきたわね」
もう4時前だからな。
「昼まで寝ようぜ」
「そうね。エルヴィス、明日だけど、昼から車を出してくれない? 時間もあるし、もうちょっと服とか買いたい。あと布団とかも」
「いいぜ。俺っちもここを離れるし、家に荷物を取りに戻りたい」
エルヴィスもこの旅についてきてくれるようだ。
「じゃあ、昼に来てちょうだい。一緒に昼ご飯を食べて、出ましょう」
「わかった」
エルヴィスが頷いたのでエレベーターに乗り込む。
そして、途中でエルヴィスと別れると、アヤカと部屋に戻った。
「ふう……濃密な1日だったわね」
「まったくな。でも、こっちの世界に帰ってからずっとそうだ」
いきなりゴブリンに遭遇したし、コンビニゾンビ店員に仲居メデューサ、さらにはオーク先輩。
「まあね。波乱万丈な人生だわ」
「ホントにな」
俺達は布団を敷くと、電気を消し、横になる。
「ユウ君、寝た?」
「だから早いって」
修学旅行かってんだ。
まあ、修学旅行は異性と同じ部屋で寝ないけど。
寝ないよね?
「次は躊躇わないから」
山根か……
アヤカは魔法剣を使った初手で手を抜いていた。
あの場面、山根は俺達を舐めていて、油断しきっていたし、アヤカが本気で殺す気で斬っていたら仕留められたと思う。
実際、魔物相手だったらやっていただろう。
しかし、動きが鈍り、向こうの痺れ粉という奥の手で逆転されてしまった。
「わかってる。俺もやるし、油断はしない。エルヴィスが隣を見ろってよ」
「そうね……いつもそばにいてくれてありがとう」
それはこっちのセリフ。
「仲間だしな。ドロップアウト組はドロップアウト組らしく、群れようぜ」
1人では勝てなくても皆なら勝てる。
それがパーティーであり、仲間だ。
「うん。おやすみ」
「おやすみ」
やっぱりちょっとドキドキしたが、目を閉じると、あっという間に意識が遠くなり、就寝した。
翌日、10時過ぎに起きた俺達は温泉に入り、その後は部屋でゴロゴロと過ごす。
「マユミが当たったんだって。恨み節のメッセージがヒナから届いている」
競馬ね。
「俺にも高宮さんから自慢のメッセージが届いている。わからないから1と2にしたら当たったんだって」
でも、報酬がマナだからどれぐらい儲かったのかよくわからないそう。
「向こうは楽しそうね」
「向こうも同じことを思っていると思うぞ。こっちは温泉だし」
競馬にハマっている北浦さんはともかく、高宮さんは羨ましがっている。
「まあねー」
「昨日のことは?」
「話した。特に驚きはないっぽいわね」
女子チームは女子チームで色々あったんだろうな。
多分、目立たない陰キャな俺達男子チームよりもトラブルが多かったんだろう。
「そういえば、神からのアナウンスも消えたな」
これまでは誰かが死んだらアナウンスがあった。
「もう縁が切れたんでしょ。せいせいするわね」
縁が切れたわけだし、本来ならジョブやスキルも返すことになっていたはずだ。
だから魔王を倒した奴はジョブやスキルを持ったまま帰りたいと願った。
しかし、自分だけじゃなく、俺達もっていうのが気になるな。
普通、他の連中まで持っているのは嫌がらないだろうか?
そのままゴロゴロしていると、昼になり、エルヴィスがやってきた。
そして、部屋で昼食の刺身定食を食べる。
「そういえば、熊本の馬刺しは食べられなかったな」
「あー、確かに聞いたことあるかも。でも、この世界であるのかしら?」
どうかねー?
「人間の町は悪魔の町よりものが揃っているし、生活が維持されているように見えた。あるんじゃねーの?」
確かにそんな感じはしたな。
その辺がどうなっているのかはわからないが、まあ、考えなくていいだろう。
「これからも人間の町に行くことはあるし、物資なんかも仕入れたいな」
主に駄菓子やカップ麺。
大事なのは人間の町にはその辺が充実していること。
「そうね。お金はまだあるし、空間魔法もある。次はじゃんじゃん買いましょう」
「そうそう。それだ。ほれ、また仕入れてきたぞ」
エルヴィスがテーブルに札束を置く。
しかも、すげー分厚かった。
「すごいな……」
こんな札束、現実で初めて見た。
「これ、どうしたの?」
箸が止まったアヤカが聞く。
「オーナーにもらった。餞別だと」
ふーん……まあ、悪魔にしたら紙切れらしいしな。
「悪いな」
「ありがとう」
「気にすんな。美味いもんを食おうぜ」
エルヴィス、カップ麺にハマってたしな。
いつかラーメン屋に連れていってやりたい。
「そうだな」
俺達は昼食を食べ終えると、エルヴィスと一度別れ、準備をする。
そして、1階に下り、ロビーでエルヴィスと合流し、車に乗り込んだ。
「まずは買い物な。服と布団だっけ? 面倒だから大型ショッピングモールに向かうぞ」
あるんだ……
「頼む」
頷くと、車が動き出し、別府の町中を進んでいく。
やはり歩いている人達は悪魔しかいないのだが、さすがにもう慣れた。
「やっぱり平和ね。自衛隊ってさ、どこまで考えてるのかしら?」
俺と同じように町中を見ていたアヤカが聞いてくる。
「どういうことだ?」
「軍隊って基本的に軍隊と戦うわけじゃない? でも、ここに住んでいる人って軍人じゃない」
そういうことか……
「人と見ているかってことか?」
「ええ。見た目は魔物だけど、言語を話せるじゃない? 侵略者から町を取り戻したいのはわかるけど、もし、勝ったとして、悪魔達をどうするつもりなのかなって」
SNS上では悪魔を擁護する人間もいたからな。
「エルヴィス、どうなんだ?」
「さあな。人間共の考えることはわからん。良くて奴隷じゃないか?」
果たして、それが現代社会で許されるだろうか?
異世界ならそういうのもあるだろうし、なんなら根絶やしにしてもおかしくないが、こっちの世界は人権問題とか色々あるんだよな。
「政治家が何を思っているかだな」
「ね? 揉めるでしょ」
揉めそうだ。
「難しい問題だろうな」
日本だけじゃなく、海外のこともある。
もし、日本が勝って、町々を取り戻したとしても、別の国では悪魔が勝つかもしれない。
「まあ、最悪は小さくなるからペットにでもしてくれ。あ、3食は出せよ。掃除くらいはしてやる」
「それでいいのか?」
あっさりしてるな。
「外に出て、殺されたり、迫害されるよりかは良いだろ。それにまあ、悪魔はそこまで考えない。死ぬ時は死ぬ。それだけだ」
「さすがに100歳を超えていると考えが達観しているな」
なんか大人というか、いてくれると精神的に頼りになる。
「100歳!? エルヴィス、お爺ちゃんじゃないの!」
アヤカが驚く。
「そうだよ。老人は労われ」
元気なお爺ちゃんだこと。
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