第028話 知らないではない
辺りは暗く何も見えないのでスマホを見る。
「もう2時を回ってるな」
「21時には寝る予定だったのにね……エルヴィス、別府に着いたらどうするの? あなたの家に泊まる?」
アヤカがエルヴィスに聞く。
「いや、せっかくだし、旅館で良いだろ。頼めば泊めてくれる。温泉にでも入って、ゆっくり寝ろ。それで明日は休みにして、予定通り、明後日に出発だ」
「それが助かるわ。走ったし、汗をかいちゃったもの」
俺も風呂に入りたい。
「すぐに着く。俺っちも入りたい」
車が進んでいくと、数十分で別府の町に戻ってきた。
街灯はほとんどついていないし、歩いている悪魔もいないのだが、建物の所々で明かりが見えたし、坂までやってくると、上の方に見える旅館が明るかった。
「一昨日の旅館か?」
「そうなるな。知り合いの旅館だし、融通が利くんだ」
エルヴィスがそう言うと、一昨日の旅館に入り、その時と同じように玄関の前に車を止めた。
「お前の分の部屋も取っておけばいいか?」
前回と同じ。
「ああ。頼む。先に風呂に入り、寝ろ」
「わかった」
俺とアヤカは車から降りると、旅館に入る。
「やっぱり仲居メデューサ……」
受付にいるのは例の仲居さんだった。
「いらっしゃいませ。あれ? 朝からカップルじゃないですか。こんな夜更けにどうしました?」
誰が朝からカップルだ。
変なあだ名をつけるな。
まあ、こっちも仲居メデューサって呼んでるけど。
「ちょっと色々あってね。エルヴィスと来てるんだけど、2部屋をお願い。今日と明日泊まる」
「空いてるからいいですけどね。では、お手を拝借」
仲居メデューサが手を差し出してきたので握る。
その時に気付いたのだが、仲居メデューサの髪の蛇がすやすやと寝てて、可愛かった。
「温泉は入れますよね?」
「もちろんですよ。はい、どうも。こちらが鍵になります」
仲居メデューサから鍵を受け取ると、エレベーターに乗り込む。
「蛇が可愛くなかった?」
アヤカも気付いたようだ。
「可愛かったな。なんか仲居メデューサへの恐怖心がなくなった」
「ね?」
エレベーターが止まったので廊下を歩いていき、部屋に入る。
「あれ? 前と同じ部屋じゃない?」
「っぽいな。まあいいだろ。風呂に行こうぜ」
「そうね」
俺達は浴衣を取り、部屋を出ると、再び、エレベーターに乗って最上階まで行く。
そして、男女に分かれている浴場の前までやってきた。
「そこの休憩スペースで待ち合わせよう。ゆっくり入っていいから」
「ええ。じゃあ、あとでね」
アヤカと別れると、中に入り、服を脱ぐ。
そして、浴場に入ったのだが、時間が時間なため、他の客はいなかった。
ラッキーと思いながら身体を洗うと、湯船に浸かる。
すると、これまでの疲れがどっと溢れてくるような気がした。
「あー……」
「おっさんか?」
声がしたので振り向くと、エルヴィスが入ってきて、洗い場に向かう。
「悲しいかな。俺はもう26歳だ」
「若いだろ」
んー……
「そういえば、エルヴィスって何歳だ?」
「100歳を超えた辺りから数えてねーよ」
100!?
「え? お前ってそんなに年上なの?」
かなりびっくり。
「悪魔と人間では寿命が違う。別府にも風俗街があったが、悪魔は利用してないって言っただろ。俺達はお前らと違って性欲なんてないし、繁殖もしない」
へ、へー……
「サキュバスは?」
「そういうのもいる。気を付けろよ。あいつらは性行為を迫ってくるが、代償にマナを奪う。ハマってしまって、気が付いたらマナがすっからかんだ」
「大丈夫。実は俺、好きな人がいるんだ」
「知ってる。多分、皆が知ってるんだろうな」
エルヴィスも湯船に入ってきた。
「高宮さんにしか言ってないぞ」
高高同盟。
「いや、見ればわかるから……」
「まあ、皆が俺達を2人にしようとするな……」
北浦さんもミナトもリクも……
「だろうな。ま、これ以上は言わねーよ」
俺達は湯船を出ると、外の露天の方に向かった。
そして、星空を眺めながらつぼ風呂に入る。
「エルヴィス、ありがとうな」
「んー? 何が?」
決まっている。
「山根を殺してくれたことだ」
「それか……お前らにあからさまな動揺が見えたからな」
そうなんだろうな。
「俺達は人間を殺したことがある」
「異世界でだろ?」
もちろん、そうだ。
「異世界では悪い奴も多いし、治安も悪かった。盗賊なんていたし、町でも殺傷事はよくあった。それに巻き込まれ、戦ったことがあるんだ」
俺達チームドロップアウトは皆がそうだ。
「正当防衛だな」
かもな。
「でも、クラスメイト……こっちの世界の人間を殺したことはない」
「当然だ」
「でも、今後、やらなければならない時が来るんだと思う」
山根は極端だったが、同じようにクラスメイトと戦うことがあるかもしれない。
それにマナを得た人間もどうなるかはわからない。
力を持った人間は変わってしまうものだから……
「何度も言ったが、そういう時は隣を見ろ。自分の死ではなく、仲間の死を恐れろ」
「ああ。もう躊躇わない。あの時、俺達が負けた時のことを考えると、ゾッとする」
山根はアヤカのことが嫌いと言っていた。
でも、どうなったかは明白だ。
「ま、困ったら俺っちがやってやるよ。俺っちはまったく躊躇わない」
っぽいな……
「お前は人間を殺したことがあるか?」
悪魔ではなく、人間を……
「あるぜ。俺っちは戦いを好まない。でも、俺っちはゴブリンだし、気持ち悪いだろ? 嫌悪感からか、向こうから襲ってくることもあったし、自衛隊とやったこともある」
何も否定できない。
何故なら、最初に会った時、アヤカは剣を抜いたし、俺もいつでも魔法を放てるようにしていた。
「悪いな」
「謝ることじゃねーよ」
「今はもう仲間だと思ってる」
間違いなく。
「ありがとよ。そんな仲間に良いことを教えてやる」
ん?
「何だ?」
「こうやって星空を見ながらそんなかっこいいことを言う相手は俺っちではなく、アヤカだろ」
………………。
「言えたら良いんだけどな……」
「言えよ」
うーん……
「アヤカ、俺のことをどう思っているかね?」
「言わない。自分で確かめな、26歳」
26歳かぁ…………
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