第026話 報い
山根が槍を向け、腰を落とした。
「お前は魔法使い系だな。接近戦に弱い」
合ってる。
「遠距離戦に強いんだよ!」
杖を向け、エアカッターを放つ。
すると、アヤカが突っ込んだ。
「ふん」
山根は見えないはずのエアカッターを躱すと、アヤカの剣を槍で受ける。
「どいつもこいつも同じだな」
「くっ!」
山根が槍を押し込むと、アヤカが距離を取った。
すると、山根が槍を俺に向け、突っ込んでくる。
「チッ」
山根の槍を躱し、距離を取る。
しかし、山根が追ってきた。
「遅い。これで終わりだ」
「お前がな!」
山根の腹部を蹴り上げる。
「ぐっ……! 何!?」
山根が慌てて後退する。
しかし、その後退した先にはアヤカがおり、剣を振っていた。
「終わりよ」
「面倒な……」
アヤカが剣を振ったのだが、山根の姿が消える。
すると、10メートル先に山根が移動していた。
「え? 瞬間移動?」
「エージェントだろ? 多分、密偵系のジョブだ。そういうのが使えても不思議じゃない」
ちらっと山根を見ると、腹部を抑え、首を傾げていた。
「後衛系の力じゃないな……お前も上位ジョブか」
錬金術師だ。
家を出る前に強化ポーションを飲んでいる。
「お前と同じように10年も異世界にいたんだよ」
「それもそうか……その辺は今後、注意だな。となると、宮前もか……」
山根がどんよりとした目でアヤカを見る。
「今後って他のクラスメイトも襲うわけ?」
「お前らは邪魔なんだ。それでいて、良い経験値になる。一石二鳥だろ」
ダメだ、こいつ……
「魔王を倒した人もいるわよ?」
「だからこそ、お前らでレベルアップしたいんだ」
経験値にレベルアップ……
俺達もよく使ったワードだが、こいつは完全にゲーム感覚だな。
「私達は平穏に暮らしたいの。邪魔しないで」
「平穏……反吐が出るな」
こいつにはわからないだろうな。
「アヤカ、もういい。こいつは現実を生きていない。異世界で壊れてしまったんだ」
こいつは自分が主人公のゲームをしている。
俺達を経験値をくれるモンスターとしか見ていないのだ。
「そう……」
アヤカが姿勢を正し、剣を目の前に立てる。
すると、アヤカの細剣が輝きだした。
アヤカの魔法剣だ。
「むっ、やはり上位ジョブか」
「異世界で学んだのは話が通じない人間がいること、自分達の平和のためには手段は選べないこと、そして、仲間以外は信用しないことよ」
アヤカが構える。
「来い」
「えいっ!」
アヤカが突っ込むと、山根がカウンターで槍を突いた。
しかし、アヤカは簡単にそれを躱し、肉薄すると、斬りかかる。
山根はそれを難なく躱したのだが、家の塀がすっと斬れた。
アヤカの魔法剣は色々な効果があるが、今使っているやつは切れ味が増すやつだ。
もし、山根がさっきのように槍で受けたらそれで終わっていただろう。
「なるほど。エンチャントの類か」
「どうでもいいでしょ。次で終わりよ」
アヤカの魔力が上がった。
完全にやる気だ。
「いや、次はない。お前達は本当に舐めている」
「何が――あれ?」
アヤカが膝をついた。
「ん? アヤカ?」
「足が動かない……!?」
は?
「痺れ粉だ。搦手を使うローグ職に素直に突っ込んだのが間違いだったな。そして何よりも初手で殺しにかかるべきだ」
「くっ!」
アヤカは本当に動けないようだ。
「お前は後だ」
山根がアヤカを一瞥すると、こちらを見る。
「坂下さんも同じか?」
「そうだ。さすがにお前達はこの雑魚共と違って強い」
山根が倒れている男達を見た。
「そいつらは?」
「ここまで運んでもらったんだ。不良達は火事場泥棒が好きらしい」
当然、こいつも車の運転はできないからな。
「そうかい……」
「高梨、死ね」
「もう一度、言ってやる。お前がな」
杖を山根に向ける。
「お前に何ができる?」
「痺れ粉を撒いたな? 俺には効かんぞ」
体内に異物を感知したのだ。
しかし、そんなものは俺の錬成で分解できる。
「むっ……」
「お前に教えてやる。俺のジョブは錬金術師だ」
「ほう? 後衛職どころか支援職だな。ますます俺に勝てるとは思えん」
そうかもな。
「俺には仲間がいるんだよ。そして、仲間は助け合うものだ」
「そうよ」
アヤカが立ち上がり、山根を斬る。
「ぐっ……! バカな!?」
腹部を斬られた山根が後ずさる。
「痺れ粉は効かないと言っただろ。それは錬成で消すことができるからだ。当然、アヤカの分も消せる」
距離があった分、ちょっと時間がかかったが……
「ユウ君、いつもありがと」
アヤカは礼を言い、剣を山根に向けた。
「くっ!」
「山根、降参しろ。もう無理だ」
「ッ! 舐めるな!」
山根は怒気がはらんだ目で槍をこちらに向けてくる。
「ユウ君、やるから」
「ああ」
こいつは生かしておけない。
「確認がいるくらいならやるんじゃねーよ」
どこからともなく、声が聞こえてきた。
「な、誰だ!? どこにいる!?」
山根が動揺し、辺りを見回す。
しかし、俺とアヤカの目には山根の背後で斧を振るうエルヴィスの姿が見えていた。
すると、斧が山根の首に当たった瞬間、首がねじれ、飛んでいく。
そして、首が敷地に転がり、胴体がその場で崩れ落ちた。
「エルヴィス……」
「いつの間に……」
エルヴィスが斧を担ぎ、ドヤ顔を浮かべていた。
「こりゃピンチかなと思って、お前のポケットから抜け出したんだよ。こいつ、全然、俺っちに気付いてなかったし、隙だらけだったからな」
どんなに強くても避けられないものがある。
奇襲や不意打ちと呼ばれる最も警戒しなければならない攻撃だ。
俺達は強くなったが、自分より格下相手に何度もピンチになった。
そして、ついには仲間を失った俺達にはこれの脅威がよくわかる。
本当に一瞬なのだ。
理解が追いつく前に死ぬ。
「悪いな」
「いいってことよ。というか、こいつ、すげーマナだな。めちゃくちゃだぞ」
エルヴィスの魔力が目に見えて上がっている。
山根のマナを奪ったのだ。
山根がこれまでしてきたように……
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