第025話 一泊?
リビングにやってくると、棚やテーブルといった大きな家具しかなかった。
「避難したから大抵のものは持っていってるわけね」
「フローリングか。布団は諦めるが、せめて畳はないか?」
「えーっと……」
俺達は手分けをして、各部屋を探っていく。
すると、リビングの隣の部屋が6畳くらいの和室だった。
「アヤカ、あったぞ。こっち」
「どれどれー? 見事に何もないわね」
本当に何もない部屋だ。
テーブルすらない。
「マジで空き巣になった気分だな」
「まあねー……」
俺達は畳に腰かけた。
「ふう……さすがに疲れたな」
「そうね」
「ほれ」
アヤカにポーションを渡す。
「ありがと」
アヤカがポーションを飲んだので俺も飲んだ。
すると、エルヴィスがやってくる。
「ん? ポーションか?」
「ああ。お前もいるか?」
「俺は別に疲れてねーよ。それよりも車の位置まではあとどれくらいだ?」
「歩きで6時間。明日の朝に出れば、昼には着くな」
車を置いた場所をちゃんと保存してある。
土地勘のない俺達にとって、地図アプリは本当に助かる。
「じゃあ、明日、別府に戻って一泊。小倉は翌日だな」
「そうだな」
温泉宿で一泊しよう。
「あ、マユミとヒナに報告しておくね」
アヤカがスマホを操作しだした。
「夕食はどうするんだ?」
エルヴィスが聞いてくる。
「まあ、カップ麺だな。どれがいい?」
空間魔法から色んな種類のカップ麺を取り出した。
「俺、味噌ラーメン」
「俺はうどんかな」
「私もうどん」
アヤカは報告中なのでアヤカの分も用意する。
多分、水道もガスも止まっているんだろうが、お湯は魔法で出せるので問題ない。
「ユウ君、エルヴィス、向こうも海を渡る準備ができたって」
小倉で合流したらいつでも行けるわけだ。
「予定通りに行けそうだな」
「本州は初めてだからちょっと楽しみだな。フグだっけ?」
確かに山口はフグが有名だな。
「山口も悪魔の町でしょ? そういう料理屋もやってるのかしら?」
「さあ? まあ、行ってみようぜ」
俺達はカップ麺を食べ終わると、駄菓子なんかを食べた。
そして、やることもないので横になった。
「畳とはいえ、ちょっと辛いわね」
「異世界の安宿を思い出せ」
最初は当然、金もなかったのでゴザだけの部屋で寝たもんだ。
「あれは辛かった」
当然、アヤカ達も同じような経験をしている。
「別府でも小倉でもいいから布団とか買わないか? 空間魔法で収納できるし、今後もこういうことがあるだろ」
「それもそうね。他にも色々と揃えた方が良いかも。枕がないのが地味に辛い」
俺の腕枕……
続きを言えない26歳です……
「明日は何時起きだー?」
エルヴィスが聞いてくる。
「早い方が良いな。ここでゆっくりするより温泉旅館でゆっくりしたい」
「まったくね。6時に出発しましょう。起きるのは5時」
「りょーかい」
「じゃあ、寝るか」
明日の予定を決めたので目を閉じる。
すると、強烈な魔力を感じた。
「――ッ!」
「魔力!?」
「今のは俺っちにもわかったぜ」
俺達は身体を起こし、顔を見合わせる。
『う、うわー! や、やめっ!』
外から男の叫び声が聞こえてきた。
「何だ?」
「外が明るいわ!」
アヤカの言う通り、さっきより障子が明るい。
「何かあったな? 軍か?」
エルヴィスが障子を開ける。
すると、隣の家が見えたのだが。2階の窓から火が出ていた。
「マジかよ……」
誰もいないのに火事?
いや、いるんだ……
「誰かいたってこと? それにこの魔力は……」
「普通じゃねーな」
この魔力は……
「チッ! 気付かれてたか! アヤカ、戦闘だぞ」
「ま、すんなりはいかないわよね」
アヤカが空間魔法から剣を取りだしたので俺も杖を取り出す。
「エルヴィス、小さくなってポケットに入ってくれ。いつでも逃げ出せるようにしたい」
火事だし、自衛隊が来るかもしれないのだ。
「わかった」
エルヴィスが小さくなったのでポケットに入れ、立ち上がった。
「山根君?」
「多分な」
頷くと、ポーションを取り出し、一気飲みする。
そして、リビングを抜け、外に出ると、燃えている家の前に立つやせ型の男がいたのだが、そのそばには2人の男が倒れていた。
「山根……か?」
そう聞くと、火を見ていた男がこちらを向く。
髪が長く、肩下まである男の目はいつぞやと同じくどんよりとしていた。
「確か……高梨だったか? そっちは……わからん」
山根がアヤカを見て、首を傾げる。
「宮前よ」
「宮前……あー、嫌いだった女子だ」
なーにー?
「失礼ね」
「気にするな。お前ら女子の視界にも入っていないだろう俺の言葉だ」
何、こいつ?
「あの火はあなたがやったの?」
まだ燃えている。
夜だし、遠くからでも目立つだろう。
「ああ」
「その倒れている男の人達は?」
「俺だ。俺以外にいないだろ」
そうだけど……
「なんでそんなことをするの?」
「あー、思い出した。その自分は正しいって思っている意志の強い目が嫌いだったんだ……」
話が通じないんだけど。
「山根、坂下さんを覚えているか?」
アヤカより前に出て、山根に聞く。
「覚えているよ。唯一、仲間になれるかもしれないと思ったクラスメイトだ」
仲間……
「何故、殺した?」
「仲間にならなかったからだ」
否定しないのか……
「お前、俺達を追ってきたのか?」
「そうだ。繁華街で見たな……魔力を隠しているようだが、俺にはすぐにクラスメイトだとわかった」
やはりバレていたか……
まあ、ここにいる時点でな。
「どうやって追ってきた?」
「ふっ……まあ、バカなお前に教えてやる。マーキングというスキルがあるんだ。俺のジョブはエージェント。盗賊の上位ジョブだ」
知らないが、なんかすごそうだ。
「そうか……俺達を追ってきた理由は?」
「良い世の中になった……異世界から元の世界に戻されると聞いた時は絶望したものだが、このクソみたいな世界もずっと前よりも良い世界になっている。俺はこの世界で生きたい」
山根が笑う。
薄気味悪い笑い方だ。
「ユウ君、こいつ、何言ってんの?」
「何だ……彼氏彼女か? 高梨はそういう風には見えなかったんだがな」
失礼な。
10年も経っているんだぞ。
10年も経って、手を繋ぐ止まりだけど……
「やる気か?」
「俺のために死んでくれ。大丈夫。高梨、お前はすぐに殺してやる」
アヤカの方はすぐに殺さないのか?
その言葉で大丈夫と言える感性がわからない。
「こっちは2人だぞ?」
「たった2人だ。対人戦闘に慣れてなさそうな2人だ」
山根がどこからともなく、槍を取り出した。
「槍男はやっぱりこいつね。最悪っていうのは当たるものだわ」
アヤカが剣を抜き、俺の前に出ると、構えた。
「山根、死んでくれ」
こいつは危険だ。
やらないといけない。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




