第023話 嫌な話
「間違いなく、あの坂下さんだった」
「まあ、坂下さんが死んだのは知ってる。神様からアナウンスがあったし」
確かにあった。
だから俺達はあの死体が3年も前の特に印象のなかった坂下さんだとわかったのだ。
「死んでまだそこまでは経っていなかった。ただ、身体にはかなりの外傷があったし、事故でもない感じだった。それにあの傷は魔物や獣でもない。人間に殺されたんだとわかった」
さすがにその辺はわかる。
異世界は死が身近だったから。
「そう……盗賊か何かかしら?」
「俺達もそう思った。俺達はジョブやスキルがあるから他の人より強かったが、それでも死ぬ時は死ぬ。その時点でそれはもうわかっていた」
本当の意味でわかったのはそれから2年後だがな……
「その坂下さんが何なの?」
「俺達はその後、近くの町に向かった。そこでとんでもない魔力を持つクラスメイトを見かけたんだ。目が淀んでいて、不気味だった」
「そいつが……」
アヤカもわかったらしい。
「真偽はわからないが、俺達はそう判断して、その場から逃げた」
「誰なの?」
「山根だ」
名前は……何だったかな?
「山根君……話したことないわね」
「俺もない。ひと月程度だが、誰かと話しているのを見たことがないな」
1年の時も違うクラスだったし、よくわからないのだ。
まあ、そういう奴は何人かいる。
4月から2年生になり、それから1ヶ月も経っていない時期に異世界転移したのでまだ新しいクラスに馴染んでいなかったのだ。
俺だって、結局は1年の時に同じクラスだったミナト、リク、ショウタとつるんでいたし、そのまま異世界でもパーティーを組んだ。
「その山根君がどうかしたの?」
「さっきの風俗街にいたかもしれない」
「え? いた?」
「通りを抜けそうな時に肩を抱いただろ。あの時だ。右の方の店から嫌な感じがした。あの時に感じた者と同じやつだった」
魔力は感じなかった。
しかし、俺達がそうしているように魔力は隠せるのだ。
「……そいつの武器はわかる?」
「さすがにわからない。会ったのもその時だけだし、武器までは知らない」
町で見かけただけだし。
「うーん……ユウ君の勘を信じ、さっきいたのが、山根君だったとしましょう。槍男が山根君の可能性はないこともないわね」
十分にあると思う。
「山根が坂下さんを殺したというのも確証はない。槍男であるという確証もない。そもそもさっきの嫌な予感が俺の勘違いという可能性もある。ただ、やはり撤退しよう。これ以上のリスクは負えない」
「そうね……それが良いと思う」
アヤカが頷いた。
「俺っちも賛成だぜ。話を聞いていると、槍男はそいつの可能性が高い。何よりもこういう時は最悪を想定して動くもんだ」
確かにエルヴィスの言うとおりだ。
「最悪を想定して言うが、マナを奪い、強くなるという話を聞いた時、あいつが脳裏に浮かんだ。そして、あいつだけは絶対に知っているはずだ」
殺せばマナを奪えるということを……
そして、効率良くマナを奪うには魔物や一般人ではなく、誰を狙えばいいのかも……
「ええ……撒いたわよね?」
アヤカが立ち上がり、そっとカーテンから外を覗く。
「多分な。追っている様子もなかったし、俺達に気付いていないと思う」
「明日は早めに出ましょう。えーっと、始発は……」
アヤカがベッドに戻り、スマホで検索し始めた。
「ユウ、もう一つ言っておくことがあるだろ。その坂下とやらの死体はどういう状態だったんだ?」
エルヴィスがそう聞いてくると、アヤカが顔を上げ、こちらを見てくる。
「衣服が乱れているというか、切り裂かれているというか……」
散乱していたというか……
「お前達がその山根を犯人と決めつけ、さっきもお前がアヤカを見えないようにした理由だな?」
「ああ」
頷くと、アヤカがスマホに視線を落とした。
「そういうこと……マユミやヒナにも共有ね。というか、やっぱり他のクラスメイトは信用できないわ」
それは俺もそう思っている。
「そうだな。明日は何時だ?」
「6時ね。5時起きでいい?」
「早い方が良いし、そうしよう」
「よし、じゃあ、早めに寝ましょう。お風呂に行ってくる」
アヤカが風呂場に向かった。
「エルヴィス、床で悪いな」
「いい。確かに同じ部屋で寝るべきだ。寝ている時が一番危ないからな」
そうなのだ。
俺達が気を付けないといけないのは奇襲。
特に夜襲だ。
これは異世界で旅をしていて、真っ先に学んだこと。
しばらく待っていると、部屋着に着替えたアヤカが出てきたので次に俺が入り、最後にエルヴィスが入る。
そして、早めに寝ることにし、ベッドと床で横になる。
「エルヴィス、本当にいいの? あれだったら私の部屋もあるけど……」
あ、そっちで寝てもらうっていうのもありか。
「大丈夫だ。今は何が起きるかわからん。もし、お前らが襲われて、どこかに逃げた時、俺っちはこんな敵陣のど真ん中で途方に暮れることになるだろ。今は一緒にいる時だ」
それもそうか。
「エルヴィス、ありがとうね」
「そうだな。ありがとう」
エルヴィスのおかげで色々と上手くいっている。
「気にするな。山の方で農家をしている時よりもよっぽど楽しいぜ。カップラーメンは美味かったしな」
確かに美味かった。
「エルヴィス、マナをやるから一緒に東京に行かないか?」
「悪くねーな。富士山を見てーよ」
「道中で見れるな」
富士山ならあの辺に行けば普通に見えるし、寄ってもいい。
「ま、今は別府に戻り、小倉に行くことだな。最低でもそこまでは付き合ってやる」
「頼むわ」
「ああ。じゃあ、そろそろ寝ろ」
俺達は目を閉じると、そのまま就寝した。
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