第012話 温泉
エレベーターに乗り、最上階にやってくると、赤と青ののれんがあり、男女に分かれていた。
「じゃあ、私はこっちだから」
当然、アヤカは赤いのれんの方だ。
「何かあったら魔力を出してくれ。すぐに駆け付ける」
「いや、自分でなんとかするから。多分、真面目に言ってるから好感度は下がらないけど、普通に嫌よ」
女風呂に突っ込むのはダメか。
まあ、アヤカは強いし、大丈夫だろうな。
「いや、痴漢とか覗きじゃなくて、ナイトの方のつもり」
「わかってるって。まあ、町の感じだと大丈夫だと思う。じゃあ、あとでね。そこの休憩スペースで集合」
風呂場とは別に休憩スペースがあり、マッサージチェアなんかが置いてあった。
「わかった」
頷くと、中に入った。
そして、脱衣所で服を脱いでいく。
「客がいないな」
「まだ午前中だからな。夜になれば多いと思うぜ」
というか、普通はこの時間は開いてないと思う。
悪魔の支配になり、ルールが変わったんだろう。
「ゾンビとかも入るのか?」
「さすがに入りたがらないし、入っているところを見たことはねーな。俺達も嫌だ」
そりゃそうだと思いながら服を脱ぎ、浴場に入る。
「おー、広いな」
「良い旅館だろ。こういうのもだが、有効利用してんだ」
俺達はまず身体を洗うために洗い場で並んで腰かけた。
「おー、泡立つな」
さすがにこっちのソープは違う。
あっちの世界の石鹸って全然、泡立たなかったのだ。
「お前らも苦労してんだな」
「女子は特にそうだと思うぞ。不満ばっかりだった」
主に衛生面だ。
俺達男子はまだ我慢できるが、女子連中は辛かっただろう。
さすがに10年も経てば慣れるものだが、ちょっとしたことで不満が出ていたものなのだ。
俺達は身体を洗うと、広い温泉に入る。
ここにいるのは俺とエルヴィスだけなので独占しているような感じだ。
「あー、良いなー……」
この感じは久しぶりだ。
ポーションとは違った疲れの取れ方な気がする。
「悪魔にも温泉は人気だからな。宮崎、鹿児島辺りからも来るんだぜ」
宮崎、鹿児島も悪魔の領地か。
「悪魔の方が勢力が広いんだな」
「広さだけはな。ただ、主要な都市は人間だ。そこに避難し、集まったってところだ」
なるほどねー。
俺達は十分に温まると、露天があったので外に出て、一人用のつぼ風呂に入った。
「眺めがすげーな」
海が一望できる。
程よい風もあり、本当に癒される感じだ。
「だろー? だから勧めたんだ。せっかくここに来たのに温泉を堪能せずに出るのは良くないぜ」
ちょっとわかるな。
そんな状況じゃないのだが、やっぱり堪能したい。
ましてや、10年も異世界に行っていたのだからちょっとゆっくりしたい。
「しかし、ゴブリンと風呂か……」
シュールだ。
「まーだ言ってやがる。そういう世界だっての。それともアヤカと一緒が良かったか?」
「いやー、それはちょっと遠慮したい。俺にはレベルが高すぎるな」
無理無理。
絶対に温泉もこの眺めも楽しめない。
「情けないどぎまぎ君だな。お前ら、5年も一緒にいたんだろ? 今まで何してたんだ?」
ゴブリンから説教だぜ……
「ほっとけ。色々とあるんだよ……」
語尾が弱くなると、オークが外に出てきた。
「うえー……」
オークさんは露天風呂に入り、感嘆の声を漏らした。
巨体なので温泉の湯が溢れていく。
「でけー……」
すごかった。
「まあ、オークだしな。コンビニでもそうだったろ」
いや、身体じゃなくて……
いや、身体なんだけど……
もうオークさんとしか呼べない。
その後も温泉を堪能していくのだが、オークに始まり、コボルト、サハギンといった様々な悪魔がやってきて、温泉を楽しんでいた。
ただ、それらの悪魔が俺を見て、怪しんだりする様子はなかった。
俺達はある程度、温泉を堪能すると、浴場を出て、身体を拭いた。
そして、浴衣を着ると、休憩スペースに行き、窓際で外の街並みを眺めながらアヤカを待つ。
「アヤカはまだか?」
「女子は長いだろ。それにまあ、向こうも10年振りだからなー」
ゆっくり入るだろう。
俺ですら3、40分は入っていた。
昔ならここまで長くは入らない。
「ま、今日はやることもないからゆっくりすればいいか」
「そうだな。あ、ポーション、飲むか?」
ポーションを飲もうと思い、取り出したのだが、エルヴィスに渡す。
「ん? ポーションって何だ?」
ポーションはないか。
「回復薬だ。傷口にかけると治るんだが、飲んでも疲労が回復できる」
「聞いたことねーな……」
「まあ、飲んでみろって。俺はそういうのを作る専門家なんだ」
「ふーん……どれ」
エルヴィスがコルクを抜き、ポーションを一気飲みした。
「どうだ?」
「おー……何だこれ? 身体がやけに軽くなったぜ」
エルヴィスが驚いている。
「そういう薬だ。異世界にはそういうのがあるんだよ」
「すげーな……しかも、マナが上がったぞ」
え? そうなの?
「そんな効果は知らんのだが……」
というか、魔力回復ポーションもあるんだけど……
「お前らは本当に面白いな。いや、すげーよ。おかげで返さないといけないことが増えたぜ」
それはすまん。
「やっほー。お待たせー」
アヤカが女子風呂から出てきて、声をかけてきた。
浴衣姿なのはさっきと変わらないのだが、風呂上りなのでホクホク顔だし、髪を上げているのでちょっと魅力度が上がっている。
「俺達もさっき上がったところだ。あ、ポーション、飲むか?」
「ちょうだい」
「はい」
隣にやってきたアヤカにポーションを渡すと、一気飲みしたので俺も飲む。
「あー、良いわね。風呂上がりの一杯はお酒じゃなくて、ポーションよ」
「そうだな」
身体にも良いだろうし。
「そんな貴重なもんを軽々しく飲んでいいものか?」
エルヴィスが聞いてくる。
「これ、貴重なの?」
「いや、水があればすぐにできる」
労力なんかない。
スキルであっという間に錬成できるのだ。
「じゃあ、いいじゃん。いつもありがとー」
「いえいえ」
本当にたいしたことじゃない。
「俺らの常識からすると、相当なもんを返すことになるんだがなー」
悪魔のルールか。
「相当なもんを返してもらってるよ。それが仲間だ。アヤカだけじゃなく、ミナトもリクも高宮さんも北浦さんも……そうやって頑張ってきたんだ」
それができなかったら5年も一緒にいられなかっただろう。
「ユウ君、良いこと言うわね。実にかっこいい」
アヤカが満足そうにうんうんと頷いた。
「そうかい……お前達にはお前達のやり方があるんだな」
そうそう。
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