表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真名殺しの無銘 〜名前を奪う世界で、俺だけが奪われない〜  作者: 佐木凛人
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/44

第21話 何でも屋の仕事

 作戦を共有してから、準備に入った。

 まず工房を回って素材を集める。

 廃業した鍛冶屋に金属粉が残っていた。これを煙玉に混ぜると、煙の中に金属粒子が漂って目潰しの効果が加わる。普通の煙より長く滞留するし、吸い込むと咳が止まらなくなる。


 道具屋でロープを買った。

 太さと長さの違うものを何本か確保した。路地の入口に膝の高さで張る。視野が狭くなっている人間は引っかかる。気づいてても、遅延にはなる。子供騙しかもしれないが、無いよりあった方がいい。


 木工房に木材と釘。扉を加工して、外からは開くが内からは開かないようにする。敵を追い込む袋小路になる。

 油は鍛冶屋に残っていたものと、市場で買い足した分を合わせて壺三つ分。地面に撒けば足元を奪えるし、火をつければ壁にもなる。


 煙玉の調合は俺がやった。

 小麦粉、灰、金属粉。配合を変えて、二種類作る。

 一つ目は即効型。投げた瞬間に煙が広がる。いつもの煙玉の強化版。

 二つ目は持続型。煙の量は少ないが、長時間漂い続ける。建物の中に投げ込めば、しばらく使い物にならなくなる。

 全部で十二個。今まで一度にこんなに作ったことはない。


「こんなに準備するの、初めて見た」


 フィーナが俺の横で油壺の蓋を閉めながら言った。


「いつもは突発だからな。準備できる時はこうする」


「何でも屋って、そういう仕事なの?」


「依頼によるけどな。害獣駆除の時は罠の仕込みだけで三日かけたこともある」


「三日……」


「相手によって準備を変えるのが何でも屋だ。今回の相手はセーラス・ヴェインだから、三日分の準備を一日でやる」


 フィーナが黙って俺を見ていた。何か言いかけて、やめた。

 代わりにロープを持って立ち上がった。


「東の路地、私が張ってくるよ」


「膝の高さで頼む」


「了解了解」


 フィーナが路地に消えていく。

 元保護局で実務をやっていた人間だ、安心して……いいよな?


 イリスは煙玉の調合を横で見ていた。

 配合を書き留めている。

 なんとなく、イリスが真名に詳しい理由がわかった気がする。


「この配合、錬金術の応用に近いですね」


「錬金術……前も言ってたな、だがこれは俺の経験と勘だ」


「経験と勘で錬金術に辿り着いているのが問題なんです」


「何で怒られてるんだ」


「怒っていません。呆れているんです」


 呆れられた。まあいい。結果が出ればいいんだ。


 ♢ ♦︎ ♢


 日が傾く頃には、準備はほぼ終わっていた。

 広場の三つの入口のうち、北と東に煙幕の仕掛け。南は開けたまま。セーラスを南から誘導するための設計だ。

 路地にはロープと油。建物の扉は加工済み。イリスが使う二階の窓からは広場全体が見渡せることを確認した。布の合図も決めた。

 広場に立って、全体を見渡す。


「……こんなもんか」


「足りる?」


 フィーナが隣に立った。汗を拭いている。一日中動き回って、さすがに疲れた顔をしていた。気だるいだけじゃなくて、本当に疲れている顔。


「足りるかどうかは、明日になってみないと分からない。でも、やれることは全部やった」


「ノウムさん」


 イリスが反対側から近づいてきた。


「セーラスは本当に来ると思いますか」


「来る。拠点を見せた以上、次の手を打つはずだ」


「……私もそう思います。あの人は放置できないタイプです。自分の研究結果が目の前で動いているのに、何もしないでいられる人ではない」


「研究結果……」


「あ、違います、違います。私が思ってるんじゃなくて、セーラスの立場からしたら――」


「冗談だよ、わかってるさ」


 研究結果。

 昨日の「被験体」を思い出した。そう、セーラスは俺を人間として扱ってない。

 怒りが一瞬だけ戻って、飲み込んだ。今じゃない。明日だ。


「宿に戻るか。明日は早い」


「賛成。疲れた」


 フィーナが大きく伸びをした。


 宿に向かって歩く。旧市街を抜けて、大通りに出る。夕暮れの街は穏やかだった。明日ここで何が起こるかなんて、街の人間は誰も知らない。


「ねぇ」


 フィーナが後ろから声をかけてきた。


「何だ」


「明日、君が前に出るんだよね」


「そう言っただろ」


「干渉は効かなくても、剣は効くよ」


「さっきも聞いた」


「……何とかなるの、本当に」


「酢だけじゃない。油もある。煙もある。ロープもある。釘も木材も金属粉もある」


「……それで安心しろってこと?」


「俺を信じろ」


 フィーナが少しだけ笑った。

 いつもの力が抜けた笑い方だったが、目の奥に、昨日からずっとある何かが残っていた。

 心配しているのか。俺のことを。

 ……そんなに弱く見えてるのか? まあ、実際フィーナより弱いから仕方がない。


「おやすみ」


「ああ。おやすみ」


 部屋に入って、ベッドに横になった。

 天井を見る。

 明日、セーラス・ヴェインに会う。

 あの飄々とした笑み。あの力の抜けた声。「お困りですか」。

 被験体として会うんじゃない。

 文句を言いに行くんだ。

 何でも屋として、四年間やってきた全部を使って。


 ……寝るか。

 明日は、腹いっぱい食ってから行こう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ