第十話 出立
一週間後、俺達は王都へと出発した。
パパ・グレンの正式な男爵就任式のためである。
向かったメンバーは総勢八人。
内訳はまずアイゼンウルフ男爵家の全員。当主グレン、妻サラ、長男エリオット、次男の俺だ。
同行者はシルフィ、それにメイドのリズ、あとはアイゼンウルフ家に仕える騎士が二人。
一人は赤毛の女騎士リーナ、もう一人の茶髪がラントスという名前。二人ともまだ若い。
リーナの方は俺も見覚えがあった。山賊グレート(グレたパパン)退治の時に老騎士ゴルドンと一緒にいた美少女だ。彼女はゴルドンの孫だそうだ。祖父のゴルドンは腰の調子が思わしくなく、馬には乗れず、馬車もキツいとのことでお留守番だ。
「リーナ、お前、あいつらと一緒に馬車の中でもいいんだぞ? そろそろ、疲れてきただろう」
出発して結構時間が経った頃、パパンが同行者に気を遣った。
「グレン様、まだ半日と経っていません。エクタール家の血筋がこの程度の行程で疲れると思われては困ります」
「いや、そうだが、お前はまだ子供だろう」
「成人の儀は去年済ませました。同席されたのに、お忘れですか」
「そうだった。まあ、無理はするな。見張りはオレやラントスもいるんだからな。それに、王都へは道のりが長いんだ。初日から気を張ってると、後が持たないぞ」
「はい。気を付けます。お気遣い、感謝します」
「ふふ、なんだかゴルドンがそこにいるみたいね」
サラが馬車の中で笑うが、あの老騎士はもうちょっと砕けた感じだったと思うけど。
「お館様、そろそろ日も暮れそうです。この辺りは強いモンスターもいますし、早めに夜営の場所を決めた方が」
「おう、そうだな、ラントス。じゃあ、そこの草むらにしよう。サラ、魔除けの結界、頼む」
「ええ、分かったわ」
魔除けの結界に興味があったので、オレも馬車の外に出て作り方を見せてもらった。
木にナイフで切り込みを入れ塩を撒いて祈りを捧げるだけだったが、切り込みの印がほのかに光り、近くにいたスライムが慌てたように逃げ出したので、かなり強い効果がありそうだ。
「じゃ、オレは水を汲んでくる。シルフィ、ラントス、焚き火の枝は任せたぞ」
「分かった」
「はい、お任せ下さい、お館様」
「グレン様、私は」
「リーナは見張りだな。あいつらの護衛を頼む」
「分かりました! 身命に代えましても!」
「おい……死んでもらっちゃ、ゴルドンの爺様にオレ様が叱られるんだが? 危ないモンスターが出たら、サラに任せるんだぞ。サラ、後は任せた」
「ええ、行ってらっしゃい、あなた。リーナ、私は食事の準備もあるから、レイの子守――コホン、護衛、よろしくね」
「はい……、奥様」
鑑定してみたが、リーナのレベルはまだ18で、サラの方がずっと高い。冒険者もやっていたからママンの方がずっと経験豊富で強いはずだ。
実の息子に全力全開の攻撃呪文を撃てる奴なんてそうはいないだろうし。
「私は、必要とされていないのでしょうか……」
リーナちゃんは真面目だねぇ。そこでメイドのくせになーんにもせずに座ってぐうたらしてるリズを見習うべきだ。
『それなら、連れてこなかったと思うけど』
「ひゃっ! だ、誰!?」
『いや、俺俺、今、君が手に抱いてる赤ちゃん』
「あ、ああ、レイ様。そう言えば喋れるんでしたね……未だに信じられませんが……」
『念話の魔法だよ』
「そんな魔法、初めて聞きました」
『そ。一応、これは俺がオリジナルで開発したけど、たぶん、似たような魔法は存在してるはずだと思うけど』
「そうですか、その辺りは、私は騎士ですので、分かりません」
『うん』
じっと俺を見つめてくるリーナ。なんだろ?
おもむろにほっぺを指でつつかれた。
「か、可愛い……」
赤ん坊パワーだな。
「その悪魔には気を付けた方がいいっすよ。可愛い顔に騙されちゃダメっす」
リズが俺にも聞こえよがしに言うが。
「悪魔って、まさか」
「ホントの話っす。アタシはもう奴隷のように毎日こき使われて。奥様ぁ、給料上げるか、別のベビーシッターを雇って下さいよぅ」
「いいけど、それだとリズ、あなたはクビになるかもだけど、それでいいの?」
「うっ。それはちょっと困りますね……」
「レイもリズをいじめちゃダメよ」
「あい」
別にいじめるつもりは無い。俺の手足としてこき使うつもりではいるけど。
と、急にサラが杖を持って立ち上がると、俺の方に険しい顔で駆け寄ってきた。
『ひい! お母様! リズに優しくしますから、許して』
「もう、馬鹿ね、レイ。モンスターが来たわ。リズ、あなたがレイをお願い。リーナは剣を」
「はわわ」
「分かりました、奥様」
エリオットも自分の木剣を抜く。
「エリオ、あなたは前に出ちゃダメよ」
「うん、分かってる」
低い唸り声と共に出て来たのは、狼の群れだった。
「ダイアウルフ! 参ったわね。この辺で一番厄介なのが出てくるなんて」
「AUUUUUU―――」
数匹が空に向かって遠吠えをする。
「まずい、仲間を呼んでる! ――聖なる矢よ、魔を討ち祓い給え! ホーリーアロー!」
サラが魔法を唱え、遠吠えをしている一匹を攻撃したが、一撃では死なない様子。
「お任せを!」
「ダメよ、リーナ! 一人で前に出ないで! くっ」
横から現れた狼がサラに飛びかかる。なんとかサラが杖で弾き飛ばしたが、すでに回りは何匹もの狼が取り囲んでいる。
こりゃ、俺も参戦しないとマズい雰囲気だな。
『雨よ凍れ、風よ上がれ、雷獣の咆哮をもって天の裁きを示さん! 貫け! ライトニング!』
ブラン先生に教わった、雷系中級呪文。
コイツは一匹だけじゃなくて貫通するぜ?
「ガウッ!」
「キャインッ!」
だが、くそっ、俺の魔法も一撃じゃ倒せないか。
それなら、連打、連打、連打!
「す、凄い」
「レイッ! 後ろ!」
「えっ?」
サラの声に後ろを見るが、ミスった。呪文に集中しすぎて、後ろからやってきたダイアウルフに気づくのが遅れた。
「任せて!」
エリオットが横から剣を振り下ろす。
「ギャンッ!」
「よしっ!」
当たった。それだけじゃなく、飛びかかっていたダイアウルフを撥ね飛ばした。
おお、兄貴、やるじゃん。
「レイの背中は僕が守るッ! レイは気にせず撃って!」
分かったよ、兄さん。背中は預けた。
雷の連打!
「あっ、倒した!」
数匹のダイアウルフが灰色の煙と化して消えた。
パパラパー♪
『レイのレベルが12に上がった!』
おお、一気にレベルアップか。
だが、MPは回復しないみたいだな。それでも、魔石があるから余裕だ。
ここは一つ使ってと。
MPを半分回復。
魔法の威力も上がって、一撃でダイアウルフを倒せるようになった。
「いいわ、その調子」
「あっ、逃げ始めた」
逃がすかよ。
念力魔法で上昇し、上空から狙い撃ちしていく。狼のシューティングゲームだ。
ビビビビビビ!
よーし、いなくなった。
『もう大丈夫だよ、母さん』
「やるわね、レイ。エリオットも良くやったわ」
「うん!」
「助かったぁ……」
「くっ、何もしていないのにレベルだけ上がるなんて……申し訳ありません、奥様」
リーナが悔しそうに言うが、壁役としては充分に役立っていたと思う。
「いいのよ、リーナ、私だって二匹くらいしか倒してないんだから。でも、次を期待しているわね」
「はい。必ず……!」
ギロッとリーナが俺を睨んでくるが、それってライバル認定だよね? 嫉妬して夜中に後ろからグサッと襲ったりするのは無しよ?
「サラ! 大丈夫か!」「奥様!」「レイ! エリオ! 無事!?」
パパン達が遠吠えを聞きつけたようで、戻ってきてくれた。
「ええ、レイがほとんど一人でやっつけてくれたわ」
「ほお、さすがはオレ様の息子だな。よくやったぞ、レイ」
ごつい手で頭を撫でられた。いててて、あんまり力入れるのは止めて、パパ。首はまだあんまり据わってないから。
「ちょっとあなた、レイが痛がってるわよ」
「おお、悪い悪い。浮いてると、どうも叩き落としたくなるんだよな」
あぶねーな。ハエ扱いかよ。
「もう。ふふっ」
「がはは」
「ぷっ」
一家と従者達の笑い声が高らかに森に響く。
こうしてアイゼンウルフ家の今日一日は終わった。




