第七話 魔石の秘密
「あら、二人そろってどうしたの?」
サラはグレンの部屋にいた。二人ともベッドの上で、グレンが俺達を見て不満げな顔をしているが、少しタイミングが悪かったようだ。そんな顔するなよ、パパ。すぐ出て行くし。
『魔石を大きくする方法を思いついたんだよ、ママ。これが上手くいけばヴィルヘルム領の特産品になるし、うちも豊かになるよ!』
「ええ?」
「だから、ママ、ちょっと今から魔石を買いに、ニーネットのところへ行っても良いかな?」
ニーネットの名前を出した途端に、ぴくっとグレンが反応するが、黙り込んだままだ。視線も俺からそらしてなんだか怪しいが、今はそれどころじゃない。
「だーめ、もう遅いし、子供は寝る時間よ。明日になさい」
『えー、頼むよ、ママ』
「じゃ、シルフィに行かせよう。それならいいだろ? サラ」
早く俺達を追い出したいのか、グレンが援護してくれた。
「シルフィがうんと言えばね。でも、なんだか悪いわ。彼女はメイドじゃ無くて、剣術の先生として雇ってるんだし…」
「じゃ、師匠に頼んでくるね!」
俺とエリオットはダッシュ。
「あっ、気が進まないと言われたら、明日まで我慢するのよ」
「はーい」
今度はシルフィの部屋に。
「師匠!」
「ひゃああ!」
エリオットがバンと勢いよくドアを開けたが、シルフィはベッドの上で子供にはちょっと言えないことをしていたらしく、悲鳴を上げると凄い勢いでシーツで体を隠した。
「ああ、ごめんなさい、師匠。驚かしちゃったかな?」
「……うう、次から、レディーの部屋に入るときは、ノックして、許可してからにすること。いいわね?」
顔を赤らめたシルフィが言う。
「はぁい。それで師匠、今、いいですか?」
「あんまり良くないけど、何?」
「実は、レイが魔石を合成する方法を思いついたので、ちょっと質の良い魔石が必要なんです。今すぐ!」
「ええ? それで、なんで私に……ああ、子供は外に出ちゃダメって、ママにそう言われたのね?」
シルフィが察して言う。
「はい」
「じゃあ、ダメよ」
『でも、シルフィがうんと言ったら、師匠にお使いを頼んでも良いとも言ってましたよ』
「私は今、とっても忙しかったりするんだけどなぁ」
『そこを何とか。駄賃は金貨一枚でどうですか』
「乗った!」
ばっとシーツをはぐって出てくるが、下半身が裸だぞ、シルフィ。
「あれ、先生、お風呂上がりでしたか?」
「ハッ、み、見ちゃダメぇー!」
『じゃ、そういうことで、僕の部屋で待ってますから、よろしくお願いします、師匠』
金貨をベッドの上に置いて、さっさと退散する。
「うわーん、見られたぁ!」
後ろで叫ぶシルフィ。
急いで欲しいんだがな。まあ、急かすのも可哀想だ。
そう言えば、俺は【ラッキースケベ Lv1】なんてスキルも持ってたな。ハッキリ言って性欲も無い零歳児にはありがたみが無いんだが、タイミングが悪かったのはこれのせいかも。シルフィにはいつか謝っておこう。念のために言っておくが、これは俺が頼んだスキルじゃ無いし。ま、くれるというなら、確実にもらうスキルだけどな!
「レイ、どうして女の人って、裸を見られると恥ずかしがるんだろう?」
エリオットが純真な疑問をぶつけてくる。
『さあな。それは女に聞いてくれ。男には永遠の謎だ』
「それもそうだね!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「はい、一番高いのを購入してきたけど、これで良かったかしら?」
シルフィは意外にも怒っておらず、スッキリした顔で仕事をこなしてきてくれた。
ただし、結構時間が掛かっていて、俺はもうおねむだけども。
『あい、ありがとうございました。師匠……あふ』
「もう、そんなに眠いなら、明日でも良かったでしょうに。そ、それと、言っておくけど、さっきは着替えてただけなんだからね?」
「ああ、なんだ、そういうことでしたか。着替えを覗くのは失礼でしたね。ごめんなさい、師匠」
エリオットが紳士らしく謝る。
「ええ、次から、特に夜にはノックしてからね」
「はぁい」
さて、実験だが、シルフィには悪いが、やっぱり明日にしよう。寝ぼけたまま何かをやって爆発でもさせたら事だ。
翌日、まだ夜が明けきらぬうちに目覚めた俺は、すぐに実験を開始した。
まず、魔石の魔力が満杯の状態ではどうやってもこれ以上の詰め込みは無理なので、質の良い魔石Aから魔力を全部抜く。
『魔力量は52ポイントか。かなり上等なヤツだな』
何かの戦闘で魔力切れになった状態でもこれさえあれば、上級魔法が一回使える状態に回復するほどだ。
次に、空になった状態の魔石Aに、別に用意している魔石Bの魔力を移してみる。
成功。
なんだ、簡単なことだったんだな。
だが、これは常識のカテゴリではないとすると、この世界ではあまり知られていないことなのだろう。
なぜか?
第一に、魔石の魔力抽出と注入はかなりの技術を必要とする。俺は【魔法知識】【魔力感知】【魔法のコツ】の高レベルスキルを三つも持っているが、それだけの魔術士はあまり数がいないのだろう。
そして何より、コレを扱うにはとにかく魔力の強い人間で無いと行えないのだ。
最大MPが10程度の人間には、MP52ポイント分の回復魔石など、過剰すぎて無駄が発生する。
第二に、空の魔石に、別の魔石の魔力を移し替えるなんてことは、時間と労力の無駄と思うのが普通だ。
なぜなら、魔力が欲しければ、満杯の魔石の方をそのまま購入して使った方が、手っ取り早い。
毎朝、魔石に魔力注入をやって、だるい一日を過ごしてもいいなら別だが。
第三に、必ずしも大きな魔石は必要ないのだ。
52ポイント分の魔力を回復させるのに、何もきっちり52ポイントの魔石で無くとも、10ポイント×6個の小さな魔石があれば事足りる。
高位魔術士であればあるほど金もあるし、魔物も倒せるからな。数だってそろえられる。
だから、誰もあまりやったことが無いし、知られていない。
しかし、戦闘中にいくつも小さな魔石を使ってちびちびと魔力を回復させていたのでは間に合わない時だってあるだろう。
大きな魔石は高レベル魔術士にとって、いざというときの命綱として最低一つは手元に置いておきたいモノなのだ。
その点はブラン先生にも確認を取った。
彼も自分の最大MPに合わせた高価な魔石を一つ、お守りとして持ち歩いていた。
となると、この魔石の魔力合成は、かなりのアドバンテージになる。
誰も開拓していない分野、『ブルーオーシャン』だったか。競争相手がいない場所なら言い値で高く売れる。
あとは、合成のロスがどの程度になるか、だが……。
『ふむ、移し替えには数ポイントのロスが発生するみたいだな。しかも、一定じゃないのか…』
何度か魔力を込めたり放出したりを繰り返して魔力量を測定してみたが、これはランダムの要素があるようだ。
完璧に成功したと思っても、結構減損していたりする。
だが、その減損を超える充分な魔力量を合成できれば。
なんなら、俺の魔力をそのまま足して蓄えても良い。魔力回復の時間を考えると、一日六つが限界で、量産は難しいが。
さて。
少し大きめの魔石C、四センチの菱形のモノに魔力を注ぎ込んでみる。
手元にある魔石ではコレが一番大きい石だ。
だから慎重に。
込める魔力は、別の2つの魔石の魔力を使っている。
俺の魔力を注ぎ込んで補っても良いが、それだと魔石合成にはならないから。
できあがった魔石を鑑定してみたが、問題ない代物だった。
魔力量、75ポイント。
52ポイントと31ポイントの魔力を持つ魔石からの合成なので、4ポイントのロスだが、そのくらいは許容範囲である。
「ふふふ、やっあー!」
魔力の合成は見事に成功した。
1+1=2
誤差はあるものの、魔力の等価交換の等式は魔石においても見事に成立していた。
空の器に複数の小さな魔石の魔力を移し替えてやれば、より大きな魔石が作れるのだ。
大きい魔石はそれだけ値段が高い。しかも、大きくなればぐっと価値が上がる。
つまり、魔石を仕入れて合成するだけで儲かるわけだ。
ただ、大きな魔石を作り出すには、それだけの器が必要になってくる。
魔石は売られているモノを買うか、強い魔物を倒して手に入れるしか無い。
大量生産には向かないが、それでも、高値で取引できるから良い稼ぎにはなるだろう。
俺は早速それを集めるべく、ベルを鳴らした。
「リージュー!」
………あれ? 来ねえな。
リズの部屋に行ってみることにする。
『リズ、入るぞ』
一応、コイツもレディだからな。ノックはちょっと俺には難しいので省略するが、許可は取っておく。
だが、返事が無い。
気配はするので、部屋にはいるようだ。
開ける。
「ああん、エリオット様ぁ、そんなところは触っちゃダメですぅ、うへへ」
四歳児と何をしている夢を見ているんだ、貴様は。
ベッドで枕を抱きしめ、よだれを垂らして頬ずりしているアホメイドに俺は軽い嫌悪感を覚えた。俺は夢の中のエリオットを守るべく、念力魔法でベッドからリズを床に落としてやった。
「ぎゃんっ! いったーい」
『寝相が悪いな、リズ』
「ひゃっ、れ、レイ様!? ええと、おはようございます?」
『ああ、おはよう。早速だが、頼み事だ』
「ひんひん、最近、人使いが荒いですぅ」
『それだけの手間賃は渡しているはずだが』
「そうですけど、こんな朝っぱらから、しかも良い夢をあとほんのもうちょっとの凄く惜しいところで邪魔するなんて、あんまりですぅ」
夢の中のエリオットの貞操は守れたようで、実に良かった。
『身分をわきまえておけ。相手は男爵家の跡取り、次期領主だぞ』
「おお、すると、私も将来は領主夫人ですかぁ? やーん」
わきまえないなあ。お前をエリオットが選ぶことは無いと思うし、ライバルは多いはずだぞ。まあ、それくらいの憧れは許してやるか。
『俺の言うことを素直に聞いたら、応援すること考えてやっても良いぞ』
「ハッ、弟の援護射撃ですか。わ、分かりました!」
凄く扱いやすい奴。
『じゃ、魔石を買って来るように』
「ははーっ!」




