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異世界チーレム勇者はゼロ歳児!?  作者: まさな
第一章 今やれること
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プロローグ 嵐を呼ぶ女

(視点が別人に変わります)



 この世界は剣が必要だ。

 それは生きていくために必要なことであって、良いとか悪いとか、そんな問題ではない。

 信じられるのは自分の剣だけ。


 だから私は剣を取る。

 そこに迷いなど無い。


「ここがヴィルヘルム領か……。聞いていたとおり、本当に何もないわね」


 目の前に広がる原っぱを見て私はため息をついた。

 

 ヴィルヘルムにはめぼしいダンジョンも無いと聞いている。

 だとすれば、冒険者である私はここで稼ぐのは難しいだろう。

 運良く高額な賞金首がここに流れ着いていれば話は別だが、賞金首の連中だって遊ぶ盛り場が無いような場所は好まないんじゃないか、と思う。


「路銀もそろそろ少なくなってきたし、本当にアイツ、ここにいるんでしょうね?」


 空振りで、私自身がここで野垂れ死になんて、想像したくもない。

 ただ、有名ダンジョンを制覇したことで、自分としてもここで一区切りはつけておきたかった。

 次に新しいパーティーを組んでしまったら、当分の間、遠出はできなくなるだろうから。



「それにしても、傭兵くらい雇えば良かったかしら? くっ、しぶとい!」


 ヴィルヘルム領に入って二日目、『人食い熊(キラーベア)』に出くわして私は早くも一人で来たことを後悔していた。

 相手はベテラン冒険者でも油断できない強力なモンスターだ。その爪の一撃は戦斧のような破壊力がある。かわして後ろの木がへし折れたのを見て、あれが命中していたら死んでいたかもとヒヤリとした。

 それでも、こちらも名の通った剣士である。単独での対処方法も当然、心得ていた。

 相手の攻撃をかわしてのカウンター。

 一対一ならば、この攻撃に全力を掛けてもいい。


「GUOOO!」


 決まった、と思ったが、熊はまだ倒れなかった。それどころか、私の攻撃に怒り狂い、さらなる闘志を燃え上がらせた様子。


「そんな、ブロードソードでもまだ足りないって言うの?」


 私は驚いていた。私が握っているのは非力な者では振るうことすら困難な重量級の剣だ。今までこのブロードソードの全力攻撃で倒れないモンスターなどいなかった。あのドラゴンでさえ、この剣の一撃に耐えきれずに鼻を地面にくっつけたというのに、ただの雑魚モンスターが耐えきるとは。


「面白いじゃない」


 私はそう言って不敵に笑ってみせる。

 本当は怖くて仕方ないのだけれど、敵に弱みを見せたが最後、ラッシュが来る。

 それをさせちゃいけない。


 狙うのは急所。

 しかも、相打ちも避けなければならないので、敵の爪をかわしてからの一瞬で狙いを付けなければ。

 

 迫り来る自分より大きな熊を前に、心を静め、私は通すべき剣筋を見極める。

 ――見えた!


「よしっ!」


 意識を集中させた私にとっては、大口を開けている熊などタダの良い的だった。ブロードソードを熊の口に向けて突き、渾身の力で押し込む。

 さすがにこの攻撃にはキラーベアも耐えられなかったようで、ブロードソードを飲み込んだまま後ろにひっくり返る。


 終わった。


「ふう。げげ、剣が……そんな」


 熊の口から抜いた剣が大きく刃こぼれしていた。


「この間修理したばっかりだったのにぃ……。また出費かぁ……。この熊の毛皮でお金が足りると良いけど」


 熊の死体が煙と化して消え、毛皮のドロップが出たが、これを売って金の足しになるのを期待したい。


「でも、私はアイテムボックスって小さいのしか持ってないのよねえ」


 入りきらずに持ちきれない。

 仕方なく、そのまま頭からかぶってローブやマントのようにしながら引きずって持っていくことにする。

 大丈夫かな……。



「ひいっ、熊じゃ、熊が出たぞぉ!」


 ああ、やっぱり。

 農夫のおじいさんが私を見るなり見間違えてしまった。


「違います。ほら、人間ですよ」


 私はすぐ毛皮を脱いで言う。


「おお、なんじゃ、人間か」


「はい」


 じいさまの視線が顔から少し下に来る。


「それにしても、これまた見事なモノをお持ちじゃのぉ」


「いえ、そんな、うふふ」


 私は慣れているので食い入るような視線もミステリアスな笑顔でやり過ごす。

 ただ……通り名というか、つけられた渾名はどうにも気に入っていないけど。


 『ラフレシアのスイカ剣士』


 誰がスイカじゃい!


 好きでこんな体になったわけでも無いのに…。

 胸が大きいと、剣を振るのにも邪魔で、上半身の重心も動かしにくい。

 メリットがあるとすれば、スイカップに下心丸出しで食事を奢ってくれる男がいる程度。

 もちろん、後が面倒だから、自分で稼げるようになってからは断っている。

 

 せっかくなので、私はおじいさんに道を聞くことにする。


「おじいさん、この街の鍛冶屋はどこにあるか、教えて頂けませんか」


「おお、いいとも、街と言うほどのことはないが、このまままっすぐ行けばバリスの工房があるでの」


「ありがとうございます。ちなみに、バリスさんは気むずかしいドワーフだったりしますか?」


 私はドワーフはちょっと苦手だ。「女に剣は打たん!」なんて言う頑固親父もいたりするし。


「いや、安心なされい。実直なヒューマンじゃよ」


「ああ、ヒューマンですか…」


 もちろん、私もヒューマンだから同族の人の方が頼みやすいが、鍛冶屋の腕となるとドワーフにはどうしても劣る。ドワーフは小さな体で驚くべき膂力(りょりょく)を持ち、それでいて細かい作業が得意だったりと、まるで最初から鍛冶職人になるべくして産まれてきたような種族だ。


「大丈夫じゃ、バリスは領主お抱えの鍛冶職人じゃし、遠方からわざわざ頼みに来る剣士もおるほどじゃからな。その辺のドワーフよりもずっと腕はいいわい」


「そうですか。それは助かります」


 ただ、それほどの鍛冶職人がヴィルヘルムにいるとは聞いていなかった。鍛冶屋と言えば鋼の都市シェイタールか、『神匠ヴェイル』がおわすガディア、この近辺で名があるのはそれくらいのものだ。

 打ち直しはともかく、研ぎくらいはやってメンテナンスしてくれる鍛冶屋がいればいいのだけれど。

 人食い熊の爪のおかげで見事に刃こぼれしてくれた愛剣の行く末を心配しつつ、私は教えられた鍛冶屋を目指した。

 

 


 バリスの鍛冶屋はすぐに見つかった。だって、そこには一件しか家が無かったから。

 だが……。


「む……スイカか」


 鍛冶屋の主人がこちらを見るなり言うが、またですか。


「あの、いくら何でも初対面でそれは失礼じゃないですか?」


 開口一番スイカと口にするのは止めて欲しい。人がちょっと気にしてるんだから。


「す、すまねえ、つい。それで鎧が欲しいのか? アンタの鎧となると、そんな大きな胸の奴はちょっと作った事がないから厳しいが…」


 また視線が下に来る。私は胸を手で隠して言った。


「いえ、剣だけで結構ですから! 研ぎの応急処置はできますか?」


「なんだ、そんなことか。見せてくれ」


 愛剣を鞘ごと渡す。彼は慣れた手つきで鞘から剣を抜くと、一目見て言った。


「ふむ、これは人食い熊の爪とやり合ったみたいだな」


「えっ、凄い、そこまで分かるなんて」


「簡単ですぜ。ここにちょうど三つ、へこみができているでしょう。奴の爪は鋼よりも硬いから、まともに刃で受けると負けちまう」


「ええ……」


 そう、まともに受けてしまった。そこは剣士として未熟と言われているようで、私は落ち着かない。彼は鋭い目で剣を傾けながらそれを睨んでいたが、最後にうなずいた。


「うん、これなら半日もあれば、刃こぼれの手直しも全部できるが、どうするね?」


「ああ、できるならやってもらった方が、でも……」


 下手な鍛冶職人にいじらせて愛剣に歪みができてしまうのも怖い。この剣はダンジョンのお宝として手に入れた代物で、誰かに頼めばまたすぐ同じモノが手に入るというわけではないのだ。


「安心して下せえ。おかしな事にはしませんよ。もしも万が一のことがあれば――ちょいと待っててくれますか。ほら、あっしの作ったコイツと交換してもいいですぜ」


 私の持つブロードソードとそっくりのモノをバリスは奥から持ち出してきた。


「交換と言っても……」


 剣はちょっとした重みの違いでも扱いががらりと変わることがある。特に重心のバランスが問題だ。

 持たせてもらったが、重心はほとんど同じだった。


「ああ、これは使いやすそう」


「ええ。それは持ち手の事を考え抜いた名剣で、特に素早く振ることを目指した剣です。普通、ブロードソードはそんなことは考えない目的の剣なんだが、ま、そこを極めるとその重心になるんでさぁ」


「なるほど。でもそれ、さりげなく自分が名剣を生み出せる剣匠だと言ってるわよね?」


「へへ、まあ、うちは代々アイゼンウルフ家のお抱えなんで、領主お抱えならそれくらいは言っても罰は当たらねえでしょう」


「そうね」


 領主も代々といえども無能な剣匠は抱えないだろうし。

 さて、アイゼンウルフの名を聞いたからには、問い(ただ)さねばなるまい。


「その領主……グレンもここにいるの?」


 私は少し緊張しつつ、聞いた。

 彼は酔っ払うと「オレは領主の跡取りなんだぜ。いっぱしの貴族様ってヤツよ」と自慢していたが本当だとは思っていなかった。

 風の噂に、領主を継いだと聞いたけれど。


「ええ、お知り合いで?」


「ええ。昔、一緒にダンジョンに潜った仲よ」


 ちょっと自慢げに言う私。


「へえ。ちなみに、お嬢さんのお名前は……」


「やだ、お嬢さんだなんて、もうそんな歳じゃないし、私はタダの平民よ。昔はうちも貴族の血筋だったらしいけどね。シルフィード=ブレイカーよ」


「シルフィードさんですか。ううん、旦那や奥様からその名前を聞いたことは無いですが……」


「そう。まあ、結構昔のことだしね。彼ってそんな自分のことを話す人でもないし」


「ん、んん? そうかな」


「そうよ。ちょっと寡黙なところが渋くて、格好良いの」


「か、寡黙……?」


「ええ、ごめんなさい、言葉が難しかったかしら? 口数が少ないって意味よ」


「ああ、いや、知ってるが」


「そ。私、ちょっと暇ができたから、久しぶりに会いに来たの。懐かしいな。彼、元気してるかしら? ま、心配しなくてもどうせあの不死身のことだから病気一つしないんでしょうけどね、ふふっ」


「……まあ、元気ですぜ。領主の館はこの道をまっすぐ行ったところでさあ」


「ありがとう。じゃあ、その剣、預けておくからお願いね。別に今日でなくてもいいわ」


「分かりました」


 道中はちょっと大変だったけど、来た甲斐があった。これでグレンがいなかったら、何のために来たのか分からないところだったし。愛剣が刃こぼれしたことなど、私はもうすっかり気にしていなかった。


「ベル、ひょっとするとまた(・・)嵐が来るかもしれねえ。戸締まりはちゃんとして、エリオット坊ちゃんのところには、しばらく行くな」


「ああ? 父ちゃん、何言ってんだ? 外はこんなに晴れてるぜ」


 後ろでそんなやりとりが聞こえたが、私は気にも止めなかった。

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