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異世界チーレム勇者はゼロ歳児!?  作者: まさな
序章 赤ちゃんリプレイ
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第十一話 モンスターよりも恐ろしいモノ

突然ですが、『ゴブリンスレイヤー』って面白いですよね! アニメ『魔法少女まどか☆マギカ一期』の第三話を初めて見たときの「ふえええっ?!」という衝撃は今でも忘れられません。いつかああいうお話をやってみたいと常々思って参りました。――それでは開幕です。

 街の警報が鳴り、俺とエリオットは自宅に向かって急いでいる。

 戦う気なんてさらさら無い。

 【万能の魔導師】であり、将来は無双の勇者になれる素質がある俺も、今はまだ赤ちゃんだ。

 ブラン先生にはハッキリ足手まといだと言われてしまったからな。

 この世界ではレベルがモノを言う。


 チッ、最初から最強じゃねえのかよ。


 リセットボタン、ないかなあ。

 神様とネゴシエイトして、もっと派手に活躍できる世界に転送してもらいたい。


「レイ、君は僕が守ってあげるからね」


 俺を抱きかかえたエリオットが言う。


「あい、こりょぶなよー」


 この状態ですっころんで壮絶なバックドロップを決められても怖えからな。ま、エリオットはドジっ子体質ではないので、俺もそれほど心配はしていない。できる兄貴だ。


 少し行くと、向こうの道から、武装した男達が血相を変えてこちらに走って来るのが見えた。


「向こうにモンスターが出たのかな?」


 エリオットが後ろを振り向く。

 鐘の警報の問題点は、どこにモンスターが出現したか分からない点だ。改善の余地があるな。拡声器魔法って誰も開発してないのか?


「チッ、おい! あそこに誰かいるぞ!」


「心配すんな、タダの子供だ!」


 そんなやりとりの声が聞こえ、エリオットも急ブレーキを掛ける。頭の回転は素早い四歳児だ。


 こいつら、どうやら街の人間ってわけじゃ無さそうだな?

 ひょっとして、こいつらが(・・・・・)悪さして追われてるんじゃないか?


『とにかく、逃げるぞ』


 様子を見ているエリオットに言う。


「そうだね!」


「くそっ、逃げやがった」


「捕まえろ! 地元のガキだ、人質くらいにはなるだろ」


「あの化け物野郎にそんなのが通用するのか?」


「知らねえよ!」


「ああん? だいたい、てめえがクソ田舎だから好き勝手やれるって言い出したんだぞ!」


「お前だって賛成しただろが! 衛兵がいねえなら楽勝だってな!」


 仲間同士で言い争っているが、どうやら山賊か奴隷商人の手下……そんなクズい連中なのだろう。

 なら、容赦はいらないか。

 俺の地元を馬鹿にするヤツは、領主の一族としてもちょっとムカつくからな。


 最初から殺す気で行くぜ?


『其は風を切り裂き、駿馬でも追いつかぬ疾風迅雷なり。小さき鉄の塊、なれど其はすべてを撃ち抜く物にして、すべてに死をもたらせ、ショットシェル!』


 本来、呪文は無詠唱よりも詠唱した方が威力が上がる。

 だが、俺の口は綺麗な発音になってくれないので、どうしても気が散る。口の筋肉と舌のコントロールに意識を奪われるくらいなら、無詠唱でやった方が良い。


 思いつきの呪文だったが、それだけに魔力消費が思ったよりデカい。

 エリオットが抱えてくれていて助かった。浮遊魔法の為のMPが足りなくなったら地面に叩きつけられて、自滅する可能性だってある。


「ぎゃあっ!」

「な、なんだぁ?」

「いでえ!」


 山賊共が次々に悲鳴を上げた。だが、倒れたのはたった一人。

 くそ、思ったよりしぶといじゃねえか。こりゃ威力に集中するより、コントロールに集中して急所を狙った方が良かったな。


 それでも、連中を足止めすることには成功した。

 連中とは距離があるし、エリオットの足でも逃げ切るのは楽勝だ。

 

 そう思ったのだが。


「くっ!」


 カクンとエリオットの力が抜け、地面に転ぶ。

 その勢いで俺の体を投げ出しそうになったが、彼は慌てて掴み直すと自分の体を下に入れ替えて地面の衝撃から守ってくれた。それはいいのだが。


『ど、どうした、兄さん』


 転ぶと思っていなかったエリオットが転んだので俺も動揺している。


「くっ、矢だ。足をやられた」


「ええっ?」


 見ると羽の無い矢がエリオットの膝に刺さっている。

 スキル【常識 Lv3】ですぐに分かった。ボウガンの矢だ。

 あー、やだやだ、そんなのが一般常識の世界って。


 だが、これで追いつかれてしまったな。


「クソが! こいつだ、コイツが魔術を使ったんだ」


「こんな小さなガキがか?」


「間違いねえ! オレは呪文は使えないが、【魔力感知 Lv1】のスキルがあるからな」


 そいつらはエリオットが呪文を使ったと勘違いしているが、まあいい、どのみち俺と兄貴は一蓮托生だ。


「くっ、レイ、僕が何とか時間を稼ぐ。だから君は逃げて!」


 エリオットが小声で言う。

 おいおい、そんな最終回の一話前みたいな台詞を軽々しく吐くなっての。

 

 こんな雑魚共、俺が一網打尽に……してやりたいんだがな。

 相手は六人もいる。レベルも俺たちよりずっと上だ。

 こんなことなら、もっと早くレベル上げしておくべきだった。

 レベルさえ上がっていたら、こんな奴ら敵じゃないってのに……。


 だが、四歳児を盾にして、自分だけ逃げるなんてこと、やれるはずがないだろ?


 戦友を見捨てるなんて、それだけはできない相談だ。

 たとえ、俺の命に危険が迫っていても、だ。


 だから、言う。


『エリオット、言う通りに奴らに伝えてくれ。それでたぶん、俺達は助かる』


「ええ? でも」


『信じてくれ。時間がない』


「分かった」


 さあ、神のジジイ、どうせ上から高見の見物してんだろ?

 お前が俺に与えたスキルでこの試練、どこまで乗り切れるかよく見てろよ。


 称号【タフ・ネゴシエーター】と関連する交渉スキル。


 俺ではなく、エリオットが声を発するから、【相手の目を見る Lv1】なんてスキルは使いようが無いが、それでも、頭脳系スキルと組み合わせればなんとかなる。何とかしてみせる!


『じゃ、まず、俺達は領主の子供だと言うんだ。じゃないと人質になれない。すぐ殺されるぞ』


 連中は自分達を傷つけたガキに対していきり立っている状態だ。

 希少価値がある相手だと思わせないと、すぐ殺してしまうだろう。

 相手にも利益がある話だと思わせる事、【ウィン・ウィン Lv3】だな。


「僕らは領主の子供だ!」


「なんだと?」

「ほう」


 明らかに山賊達の見る目が変わった。足が止まる。

 こちらの言うことを信じなければそれまでだが、地位を騙るのはこの世界では重罪になる。子供とて、そんな嘘をつけば母親から尻叩き間違いなしだ。


『エリオット、パパの名を』


「うん。領主の名はグレン=フォン=アイゼンウルフ=ヴィルヘルム男爵! 僕の名はエリオット=フォン=アイゼンウルフだ!」


 もうこの時点で山賊達は事実だと確信を持てるだろう。長ったらしい名前をすらすら言えるのは教育を受けて育った者だけだ。しかもエリオは四歳児だし。


「へへ、へへへ…」

「ふひ、ふひひひ…」


 山賊達が顔を見合わせて、笑い始める。


「やったッ! これでオレ達もたんまり稼げるぜ!」

「金貨だッ! このガキを返して欲しかったら、金貨じゃねえとダメだ。銀貨じゃあ認めねえぜ!」

「千枚、いや一万枚でもいいかもな!」


 や、うちにはたぶん、かき集めても金貨百枚くらいしかないよ?

 それも税金予算で。

 だがまあ、とにかく時間稼ぎすれば勝ったも同然だ。

 意外に使えるな? 交渉系のスキルって。ま、スキルを使うほどの事でもなかったが。


 エリオットが俺を見て微笑む。

 ま、兄弟だからさ、これからも助け合って行こうぜ、兄さん。


 だから、次に俺は振り下ろされる剣を見て、理解ができなかった。


「がっ!」


「え?」


 人質にしたよな?

 な、なんでエリオットを殺す?


「おい、殺っちまったら、人質にならねえんじゃねえのか?」


 山賊の一人も、当然、そのことを仲間に聞いた。


「問題ねえよ。こいつらの身元は名前で立てられる。オレ達がどこかにかくまってることにしてしまえばいいのよ」


 確かにそうかもしれない。

 なら、俺はこう付け加えるべきだったのだ。

 『うちの父さんは疑り深いから、僕らの生きてる姿を見せないと、金は渡してくれないよ』って。

 俺のミスだ。甘かった……!


「あ、あうあう……エリオット?」


 だが、もはや手遅れのようだ。

 背中から血を流すエリオットはぴくりともしない。瞳も生気が消えている。


 嘘だよな? そんな――。


「で、この赤子はどうする?」


「決まってるだろ。殺せ。赤子はうるさくていけねえや」


「だな」


 振り上げられた剣を見て、俺は思う。


 もうこれでもいいのかもしれない、と。

 どのみち、今の俺にはこの状況を打破できない。

 今から山賊に俺が念話が使えると分からせて、さらに交渉するのは途方もなく難しいことに思えてしまった。

 だいたい、街に山賊がなだれ込んで領主の子供まで殺されるような治安の悪い世界、生きていたくなんかないっての。


 もう転生はないかもしれないが、ジジイ、兄貴(エリオット)と知り合わせてくれた事には礼を言うぜ。

 とてもいい兄貴だった――。

 兄貴として尊敬できる奴だった。


 欲を言えばもうちょっと優しい母親と、頼りになる父親の下に産まれたかったが、あの二人もそれほど悪くはなかった。


「じゃ、あの世でママのおっぱいでも吸ってな」


 山賊がニヤつきながら剣を振り下ろしてくる。

 俺はもうダメだと思ってぎゅっと目を閉じた。




 ボトリ、と、嫌な音がした。

 きっと俺の首が……うん?


「ひ、ひいい、オレの、オレ様の腕がぁ!」


 目を開けると、剣を振り下ろそうとしていた山賊が右肩を押さえて痛がっている。


 何が起きた?

 エリオットは……死んだままだ。動いてはいない。

 じゃ、誰が……。


「てめえら……オレの可愛い坊主共に、手を出したな?」


 声のあった方を見ると、やたら怖い顔をしたグレンがいた。

 背中には巨大な大剣を担いでいる。


「く、くそっ、もう追いついて来やがった!」

「化け物野郎だ!」

「ひ、ひい」

「お、オレらの仲間はどうしたよ?」


「ああん? そんなの、やっつけてここに来たに決まってんだろ。オレのシマの領民を殺しやがって、百倍返しだ。覚悟してもらうぞ」


 グレンの上半身の筋肉がギシッと音を立てて引き締まった。


「ま、待て、降参だ!」


「あん?」


「この通りだ。許してくれ。反省もしてる。お上の裁きも受ける。牢にも入る。だから、へへ、命だけは助けてくれよ、な? な? 有り金も渡してやるから」


「ふむ……お前、今までそうやって命乞いしてきた奴を助けたことはあるか?」


「そ、そりゃもう、命乞いしてきた奴はみんな助けてきたぜ。なあ? お前ら」


「お、おう」


「ふう。嘘だな。ビッツはうつぶせで足を屈して両手を地面に突いたまま斬られていた。それは命乞いをしたままでやられたってことだろう」


「し、知らねえ、オレはそのビッツって奴のことは知らねえ。やったのは他の奴だ」

「お、オレも知らねえ」

「オレもだ」


「じゃ、誰がやったんだ? 言っておくがな、オレのところの領民はそんな無道な事をする奴は一人もいねえんだよ、クソがッ!」


 グレンが怒りにまかせて大剣を振り回すと、近くにいた山賊の首が飛んだ。


「ひいっ!」

「話の途中でキレやがった!」

「無茶苦茶だッ、コイツ」


 勝手なことを言う奴らだ。


『パパ、こいつら、兄さんを。完全に悪者だから、遠慮なくやって』


 念話で伝える。


「おうよ、どう見てもそうだしな。全員、覚悟してもらうぜ?」


「くそっ!」


 覚悟を決めて斬りかかる山賊と、逃げ出す山賊。

 だが、グレンは構わず大剣を横薙ぎに振った。

 その一振りで、五人いた山賊の胴体がすべて真っ二つになる。


「あびっ!?」「ぐえっ!」「ぷぴー!」


 いや、強いだろうとは思ってたけど、ここまでとは。


「遅えんだよ」


 今度は逃げた山賊の前に立つ。え? 今の、何? テレポートですか?


「ぎゃあ!」


 気付くと、その場に立っている山賊は一人もいなくなっていた。


「やれやれ、これで全員、片付いたな。じゃ、二人とも家に帰るぞ。エリオは勝手にレイを連れ出したお仕置きもしねえとだが、ま、それは飯を食った後だ、後」


 そう言ってグレンは俺を抱き、エリオットをひょいと肩に担ぎ上げる。


『お仕置きって、兄さんは……兄さんは、もう死んでるんだよ?』


 どうしてそんなにのんきなのか、俺には理解できない。


「ああ? バカ。レイ、よく見ろ。コイツは気絶してるだけだ」


「ええ?」


 慌てて俺は鑑定をしてみたが、確かにHPは3で、ゼロじゃなかった。


「お前、息してるかどうかも見分けられないのか?」


「ああ……」


 グレンが俺をエリオットの口元に寄せたが、かすかに息をしているのが分かった。


「剣士としてはまだまだだなあ。ま、赤ん坊じゃそれも当然か。ははは」


『で、でも、早く手当を』


「分かってる。ま、心配すんな、お前らはオレの子供だからな。そう簡単にはくたばらねえよ」


 無茶苦茶な理論だ。


「お前は違うが、エリオットは神殿で鑑定してもらったとき、【頑強(がんきょう)】のスキルもあったからな」


 【頑強】か。ウインドウを鑑定してみると、



【名称】 頑強 Lv2

【種別】 パッシブスキル

【効果】 

 健康系二つ星スキル。

 丈夫な体で少々のことでは

 やられないし、

 病気の心配も無用。


 参考 ランク比較

 【健康】 < 【丈夫】 < 【頑健】 < ★【頑強】 < 【剛健】  < 【無病息災】 < 【人間離れ】 < 【不死身】



 俺は【頑健】を持ってるんだが……

 おう、何だよ、兄貴って俺より強いスキル持ってるじゃん……。


「ちなみにオレは最強の不死身だから、お前らも体はちゃんと鍛えるんだぞ」


「あ、あい」


 家に戻るとサラも待機していて、すぐに治癒魔法でエリオットを治療してくれた。


「あれ? 僕……」


 エリオットが目を覚ます。俺にはそれはまるで奇跡に見えてしまった。ひたすら嬉しい。


「お前は気を失ってたんだ。だが、よくレイを守ったな。褒めてやる」


 グレンが大きな手でエリオットの頭をぐりぐりする。エリオットはくすぐったそうに身を縮めた。


「それから、悪い、サラ。全員やっつけたから、あいつらがどこからの流れ者かは聞き出せなかった」


 グレンが謝った。


「いいわ。子供に手を上げるなんて私も許せないし」


 どうせもいいけど、サラ、アンタも俺を瀕死にさせたことがあったよねー(棒読み)


 こうして、俺は親父に助けられた。

 グレンは役立たずだと思っていたが、そうではなかった。

 いや、人間は誰だって、いつも完璧な役割を果たすとは限らない。

 少しくらいダメなところがあってもいいんだ。

 それどころか、人間に欠点は必要だと言い切っても良い。


 だって、もしも人間が一人で何でもできてしまう完璧超人の世界ならば、

 『助け合い』なんて言葉は生まれてこないのだから。


 それに、親父が頼もしいなんて思ったのは俺にとって初めての経験だった。

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