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エレノアの魔法修行3

「君の亀で、ハロルド君の攻撃を防いでおいで!」

ホールデンの出した課題は、「ハロルドの攻撃を完璧に防ぐ」だった。

なぜわざわざ、と聞いたエレノアに、ホールデンは「くつろいでいるところに突然攻撃されても防ぎきれなきゃね!」などと言っていたが、エレノアには、おもしろがっているような気がしてならない。勿論防ぎきれなかった場合の保険として、エレノアにはホールデンから守護魔法の掛かった魔法具も持たされている。

「ハロルドが協力してくれなくちゃ、課題が終わらないのよ」

ぷりぷりしながら茶を飲むエレノアは、アンを相手にそう愚痴った。

ちなみに先ほどの待ち伏せは失敗に終わり、ハロルドはあっさりエレノアの手を逃れて出かけてしまった。帰宅早々の外出は、恐らくエレノアの追及を逃れるためだろう。

「ハロルドだって、私に攻撃することっていう課題を言い渡されているはずなのに」

「そんな危ないことをなさる気だったんですか!」

アンは眉をひそめる。王宮女学校は貴族の令嬢が通う学校のはずなのに、随分な話ではないかと。そしてハロルドが応じなかったことにほっとして続けた。

「エレノア様に怪我をさせるようなこと、ハロルド様もしたくないのでしょう」

アンの言葉にエレノアは首を振った。

「私が先生から魔法具を持たされていることも知っているはずよ。だってハロルドの課題は、私を攻撃して『亀』を破り、魔法具を使わせることなんだもの。私の力が足りなければ魔法具が発動することは承知よ」

「そういう問題ではないでしょう」

珍しく強い口調で言ったアンに、エレノアは首を傾げる。そんな彼女に、アンはまただ、と思った。アンは最近、エレノアは自分を大事だと思っていないのではないかと思っている。周りの者が彼女を心配すると、こうして不思議そうな顔をすることがあるのだ。

あのハロルドだって、エレノアのことだけは心配しているというのに。入学当初など、毎日楽しくなさそうに帰ってくるエレノアを気にして、用もないのに彼女の居る談話室に必ず顔を見に来ていた。エレノアに友人はできたのかと、唐突に聞かれたときには驚いたものだ。

「この前のお休みだって、あれだけ皆に心配されたのをお忘れですか」

「あれは反省しているわ。自分でも馬鹿だったと思っているの。家の中で火を出すだなんて、火事にでもなっていたらと思うとぞっとするわ」

そういいながらも全く自分の身は心配していないように聞こえて、アンはさらに言いつのった。

「私も反省しております。エレノア様のそばを離れていなければと。ハロルド様にも叱られましたわ」

「ハロルドが?」

エレノアが顔色を変えたので、アンはようやく伝わったか、と思った。しかし、

「いやだ、ハロルドったら。アンを叱ったって仕方ないのに。ごめんなさい、アン」

続いたその言葉に、がっくりと肩を落とした。

アンは、エレノアは愛されていると思っている。

そう思うのはエレノアの背後でエレノアの見ていないものを見てきたからだ。

それは、この前の火の鳥騒動直後のハロルドの蒼白な顔であったり、口論する子ども達に父ウィリアムが注ぐ眼差しであったり、久々に帰ってきた娘達に向けられる母セリーナのとろけそうな笑みであったり。ただ、再婚後、そして出産後と、奥様は部屋にこもりがちになった。さらにエレノアが領地を離れ学校に入り、どんどん接する時間が少なくなった。そのころからエレノアは、頑張らなければ、もっと褒められなければと突き進んでいる気がする。まるでそうしなくては自分の価値がなくなるとでもいうように。

エレノアを妹のように思っているアンはそのたび、抱きしめてさし上げたい、と思う。けれど。

「エレノア様は大切な方なんですからね」

思いを込めてそう言うと、エレノアはまた首を傾げる。

「だから、もう怪我しないための技なのよ。あ、おかわりを頂戴」

自分の言葉では伝わらないことにがっかりしつつ、それでも何かを伝えようと、アンは丁寧にエレノアの茶を煎れた。




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