エレノアの魔法修行4
「まだ課題は終わらないの?」
この人のにやにや笑いも見慣れてしまった、とエレノアは半眼ではいと頷く。
「弟が攻撃をしてくれなくては、どうにもなりませんもの」
「先生がおもしろがって変な課題を出すからですわ」
カーラが隣からねめつけても、ホールデンは全く同じない。
「だって、あのハロルド君が動揺するネタって他に思いつかなくてさあ」
ホールデンは教育者として不真面目でも無能でもない。彼が生徒を動揺させたがるのは、そうすることで集中力のほころびを見つけ、魔法を修正するためでもある。ただ、それだけではない気がするのはエレノアの気のせいだろうか。
「ともかく、代わりの課題を出してくださいませんか」
「おやおや、珍しいね。一度始めたことを投げ出すなんてらしくないんじゃない?」
だって・・・とエレノアは呟いた。
「しつこいな。やらないって言ってるだろ」
あの腐れホールデンめ、と毒づいて、ハロルドはエレノアの手をはがそうとする。
「なんでよ。ハロルドだって課題を出されたはずでしょ。私の亀と戦いなさいよ!」
「亀ってなんだよ!」
「見たければ、攻撃してご覧なさい!」
「だから!絶対、何を言われようと、エレノアに攻撃はしない」
何度も繰り返した問答だ、今度こそ逃がすまいと、エレノアはハロルドの腕を両手で抱き込んだ。
すると、ハロルドが困った顔をしたのだ。
それは子どもの頃から思い起こしても見たことのない顔で、それを見たエレノアは、思わずハロルドの腕を放してしまった。
勿論その隙に逃げられた。
「ははははは!」
「先生!」
盛大に大笑いしているホールデンを、エレノアは睨む。
他の課題に取り組んでいたはずの生徒達もいつの間にか周りに集まっているではないか。
「いやあ、見てみたかったなあ!ねえ、もう一度僕が見ているときにやってよ、それ!」
「何をおっしゃっているのですか。私は弟にこれ以上嫌われたくありません」
今思えば、あの騒ぎでアンも他の使用人も集まっていたのに、ハロルドは猫を被り忘れていた。つまりそれだけ本気で嫌がっていたのだろうと、エレノアは思う。
それで即座にホールデンの言葉を却下したエレノアだが、周りの生徒がそろって首を傾げたので、今度はそちらに顔を向けた。
カーラが
「嫌いなわけではないのでは?」
と言えば、
「まあ、家族といえどもお年頃ですし」
「先生も先生ですけれど、もう少しエレノア様も察してさし上げなくては」
他の令嬢方にまで言われ、エレノアの眉が八の字に下がる。
「あの・・・?」
ふふふ、ふふふと楽しそうに笑う令嬢方と、大笑いの止まらないホールデンに囲まれ、今度はエレノアが首を傾げる番だった
エレノアはその日、自分にはまだまだ分からないことがたくさんあるらしいと思ったのだった。




