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Eidolon ~忘れられた世界で、もう一度~  作者: 秋津 聖


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第9話 記憶からの創造


あれから、さらに4ヶ月が経った。

森での生活にも慣れてきた。


あれから小さな6畳くらいの小屋を作成した。


昔テレビで見た知識だけでも、簡単な小屋くらいなら何とかなった。


最初の頃は、目が覚めるたびに現実を疑った。

見知らぬ場所。知らない環境。帰る方法も分からない。


だが、今では違う。

朝起きれば、水を汲む。

食料を確認する。

Eidolonの訓練をする。


そして、少しずつ生活を便利にしていく。

そんな毎日になっていた。


「……慣れるもんだな」

俺は空を見上げる。


「人間の適応能力は高い」

隣ではネロが尻尾を揺らしている。


「褒めてるのか?」


「事実を言っているだけだ」

相変わらず素直じゃない。


だが、最初の頃より距離が縮まっていることは分かる。


改めて幸運だったのは、この周辺に危険な生物がほとんどいなかったことだ。

ネロが散歩ついでに周囲を確認してくれた結果、大型の動物や危険な存在は確認されなかった。


「本当に何もいないんだな」


「正確には、小型の生物は存在する」


「まあ、それくらいなら」


むしろ完全な無人の森より安心できる。

生命がある。それだけで少し気持ちが楽になる。


食料にも困らなくなった。森には様々な果実があった。

赤い実。甘い香りのする果物。見覚えのあるものも多い。


「これ……」

手に取った果実を見る。

イチゴ。「こっちはリンゴ」

さらに奥には栗。


そして。

「……バナナ?」

思わず声が出る。


「いやいや……異世界って何でもありだな」


身体つきも変わった。

転移前は仕事中心の生活。運動不足。体重は90kg近かった。


それが今ではかなり絞られている。

毎日の作業、探索、そして暇な時間に行っていた筋トレ。


「まさか異世界で健康になるとは」


「食生活の変化も大きいな」


元の世界では、仕事帰りに簡単な食事で済ませることも多かった。

今は、自分で確保した食料を食べる。

自然と体も変わっていった。


それにしても、と思う。

筋トレだって、そこまで追い込んでいるわけじゃない。

それにしては、随分と絞れた気がする。


「まあ……それだけ、この生活が体に合ってるってことだろう」


そう納得して、それ以上は考えなかった。

今の問題。

「しかし、狭いな」

小屋を見る。


最初は十分だった。寝る場所、道具置き場、作業場所。全部これ一つで足りた。

しかし。4ヶ月も経てば、物は増える。

作った道具。素材。実験記録。

そろそろ限界だった。


「……作るか、新しい拠点」


材料を集める。

木材。石。植物繊維。

必要なものは揃っている。


だが。問題は規模だった。

今まで作ってきた、椅子や網、小さな道具。

それとは比べ物にならない。


「……」

目を閉じる。思い出す。

小学生の頃。図工の授業。

いや。正確には、夏休みに父親と作った小さなログハウス。


木材を組み合わせる。

釘を打つ。

設計図を見る。


完全なものではなかった。子供の工作。

原則大雑把な俺だが、父親が凝り性だったから作りもリアルだった。

細かい部分まで指導されて、半べそで作った記憶。


泣いたことは忘れよう。

でも、不思議とあの時の木の匂いだけは鮮明に覚えている。


朔の中には、経験が残っていた。


「100%じゃなくていい」

誰に言うでもなく呟く。

「完璧じゃなくても、住めるものを作ればいい」


Eidolonは完璧な知識だけを要求する能力ではない。

自分が理解しているもの。経験したもの。覚えているもの。

それら全てが力になる。


「俺の中にある情報を、全部引き出せ」

目をつむり、両手を伸ばす。


「Eidolon」


空気が震えた。

大地が揺れる。

木々がざわめく。


今までとは何かが違う。


『P・・・・アク・・・了』


何か聞こえた気がしたが、Eidolonを制御するので精一杯だった。


頭の中に構造が浮かぶ。

……いや。浮かぶという表現は正しくない。

まるで最初から知っていたかのように、理解できる。


頭の中に流れ込んでくる情報量が増えていく。

自分の記憶なのか、その境界が曖昧になる。


木材の強度。

組み合わせ方。

荷重の逃がし方。


俺が覚えていた知識ではない。

なのに、理解できる。


一つずつ組み上げていく。

大量の魔力が流れていく感覚。


「……っ」

視界が揺れる。

異常なまでに身体から力が抜けていく。


それでも止めない。

あと少し。あと少しで完成する。


そして、光が消えた。


目の前に、それはあった。

二階建てのログハウス。

今までの小屋とは比べ物にならない。


ネロがつぶやいた。


『……確認事項が一つ増えたな』


ネロが何か気になることを言った気がした。


「……何か言ったか? ネロ」


「何も言っていないぞ?」


「そうか……」


立つのがやっとで、近くにあった木の棒で体を支えながらゆっくり近付く。

自分が作った。

この世界で初めて、自分だけの家を。


「理解度は完全ではなかったはずだが……」

ネロが静かに言う。


「それでも、この完成度か」


俺はログハウスを見る。

「住めるなら、それで十分だ」


体が限界で、軒先で仰向けに倒れ込んだ。


そして意識を手放す前に思った。

(……待て、俺はなんでこんな構造、知ってるんだ?)


しかし、答えに辿り着く前に視界から色が消えた。


◇


どれくらい倒れていたんだろうか。

目が覚めたときには、辺りはもう真っ暗だった。


「ようやくお目覚めか」

ネロが意地悪に言う。


「……睡眠は人間の三大欲求だからな」


身体の強い虚脱感はまるで抜けていないが、なんとか動くことは出来そうだ。

ステータスを確認する。


高尾朔

Lv8

HP 180/180

MP 2/300

力 20 / 耐久 30 / 魔力 35 / 精神 40 / 敏捷 25 / 運 12

【スキル】

Eidolon Lv2 / ポーカーフェイス Lv1 / 話術 Lv1


「MP……2か。残量管理を怠った結果がこれか。仕事なら完全にヒューマンエラーだな」


『それだけ無茶な規模の創造だったということだ』


「反省するよ。……だが、ステータスも全体的に上がってるな」


森の中。誰にも知られない場所。

一人と一匹の小さな家。


「ここを拠点にする」


そう言った瞬間。

この世界で初めて、自分の居場所ができた気がした。


意識を手放す前に感じたあの「異様な違和感」は、追々検証するとしよう。


次は、この家を本当の意味で生活できる場所にする。

家具。水。食事。

そして、この世界で安全に生きるための環境整備。


まだ、始まったばかりだ。

第9話を読んでいただきありがとうございます。


ついに……家を作りました。


異世界生活と言えば、やっぱり拠点作りですよね(笑)


ちなみに今回登場したログハウス作りですが、実は作者の実体験が元になっています。


子供の頃、父親が図面を引いて、資材を準備して、田舎で一緒に本物の小さいログハウス作りをしました。

夏休みの自由研究、研究なのか?


木材の匂いや、組み上がっていく過程の記憶は今でも残っています。


今回の話は、その経験を朔の中に落とし込んだ回でした。


そして途中で聞こえた謎のノイズ。


あれはいったい何だったのか……。


今後の物語の中で少しずつ明らかにしていきます。


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