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Eidolon ~忘れられた世界で、もう一度~  作者: 秋津 聖


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第8話 作業手順をご説明します

歯切れが悪いのは気なるがそこをつついても今はしょうがない。

この【Eidolon】を理解したら改めて確認してみよう。


「スキルのことは、まあ納得しておく、教えてくれるタイミングになったら教えてくれ、それまではこっちで試行錯誤してみるさ」


「理解が早くて助かる」


さて、ナビゲーターと合流出来たは良いが、ここはどこなんだ?

森の中って事しかわからない。


転移先も、もう少し気を使って人里の近くとかにしてくれれば良いのに

少し疎ましくネロを見る



ん…… ?


「ネロに聞けば良いのか!」

突然大声を出した俺に驚いたのか、ネロの尻尾がぶわっと太くなった。

やっぱりどう見ても猫だ。


「何なんだ急に!」


我ながら、目の前に答えを知っていそうな存在がいるのに気づくのが遅れた。

これも仕事の悪癖だろう。

『与えられた情報と手持ちのツールだけでどうにかしようとする』

思考回路が染み付いてしまっているのだ。


「すまない、なぁ、ここってどこなんだ?」


「知らない」


思いがけない回答が来た。

知らない…… と


「え?あの光の人(?)から何も聞かされていないのか?」


「そうだな、聞かされたのは朔と共に行け、時が来たら此方から連絡するとしか言われていない」


「……」


「君と同じだ。私も情報が不足している」


「…… 切り替えよう」

俺も、ネロもここがどこか分からない

分かってるのは森の中に移転した俺と猫


俺は腕を組みながら、目の前の黒猫を見る。

「まずは生き残るための環境を作るところからだな」


「その様だな」

ネロは淡々と答えた。



普通ならもっと混乱するところなのだろう。

だが、考えてみれば仕事でも似たような状況は何度もあった。

原因不明の故障、突然のクレーム、突発欠勤による人手不足。

そうだ、まずやることは決まっている。


状況確認。

問題の整理。

優先順位を決める。



「早々に食料、水、寝る場所の確保だな、それから、この能力について理解する」

指を折りながら確認する。


俺はステータス画面を開く。


Eidolon


「こいつがどんな仕様なのか分からないまま使うのは危険だな」


ネロは小さく頷いた。

「君の場合、力を持ったことより、その力をどう扱うかを考えていることが重要だ」


相変わらず淡々としている。

だが、まさにそのとおりだ

力や道具が有ってもどう使うかを理解していなければタカラの持ち腐れ、

ひいては自分に害が出ることだってある。



しばらく森の中を歩く。

まずは寝る場所を探すことにした。

幸い、周囲には大きな生物の気配はないらしい。

ネロが周囲を確認してくれているおかげだ。


「助かるよ、現代人は気配とか分からないからな、デジタル機器に頼ってるから

猫は気配に敏感だもんな!」


「野生じゃないぞ、それに猫じゃない」


「いや、でも見た目は猫だろ?黒猫」


「……」

尻尾が少し上下に揺れる。

気のせいかもしれないが、少し不満そうだった。



しばらく歩いた先。

崖の近くに、小さな洞穴を見つけた。

中を確認する。

雨風は防げそうだ。

広さも一人と一匹なら十分。


「ここを拠点にしよう、割と綺麗だし」


「決定が早いな」


「迷ってる時間がもったいないからな、やることは多くあるから」


仕事でもそうだった。

完璧な答えが出るまで待つより、今できる最善を選ぶ。


「まずは使える環境を作る」


洞穴前。

俺は一つの石を手に取る。


「まずは、検証開始だ」


まずは簡単なものから。

石。木。葉。

身近な素材で試していく。 


足元から拾い上げた石をじっくりと観察する。

形、硬さ、重さ、表面の質感。これなら「理解」できているはずだ。

「――『Eidolon』」 手に取った石から、淡い光が広がる。


……が、それだけだった。何も起こらない。


「……失敗か?」



「違うな。君は『石』という名前と外見を知っているだけで、その構造を理解していないんだ」

ネロが冷静に指摘する。


「なるほど……構造の理解、か」

失敗ではなく、単なる条件不足。

そう捉えれば話は早い。

足りないロジックを補えばいいだけだ。


それからの毎日は、ひたすら『Eidolon』の検証作業となった。

木材を削り、葉から繊維を抽出し、石の構造を調べる。

作れるもの、作れないもの、理解度と出力結果をすべて記録していく。

気づけば、元の世界から持ち込んだメモ帳は、びっしりと実験データで埋まっていた。


「……なんか、修理の受付表兼カルテみたいになってきたな」


「君らしいと言えば、実に君らしいな」


最初の数日は、リュックに入っていた食料で過ごした。

菓子パンと飲み物、元の世界の残り物。


それが尽きる前に、森の探索が始まった。

幸い、食べられる木の実はいくつか見つかった。



Eidolonの研鑽で植物の繊維を加工し、簡単な網を作れるようになった。

川へ仕掛ける。


数時間後。

網の中には魚が入っていた。


「……取れた!」

思わず笑う。

異世界に来て最初の食料調達。

まさか自分が魚を捕まえる日が来るとは思わなかった。


ネロの目が僅かに細くなる

「嬉しそうだな」


「そりゃな、自分で生きてるって感じがする

川で魚を捕るなんて子供の頃の鮎の掴み取り以来だ」



それから二ヶ月。

森での生活は少しずつ形になっていった。


洞穴は最初はゴツゴツでとても寝れるものではなかったが、なれというのは不思議なもので数日経てばしっかり寝れる様になった。


周りに自生している葉なので簡易的な布団などを作り洞穴内の生活も改良された。


水場への道も作った、と言っても木の枝を一定間隔で刺し目印にするレベルだが


過去みていた動画から簡単な道具も作ってみた。


暇な時間は筋トレに勤しんだ


そしてEidolonの扱いにも変化が出始めた。


最初は椅子一つを作るだけでMPを使い切った。

今では同じ程度の物なら、消費する魔力を抑えて作れるようになった。

能力そのものが変わったわけではない、使い方を理解しただけだ。


ステータスを確認する。


高尾朔

Lv3

HP125/125

MP150/150

力 12

耐久 20

魔力 18

精神 25

敏捷 10

運 10

スキル

Eidolon Lv1

ポーカーフェイス Lv1

話術 Lv1



「レベル上がってる、戦わなくても上がるんだな」

思わず口にする。

レベル=戦闘で得る経験値、という固定観念があった俺は素直に驚いていた。


「当然だろう。現代だって、戦わなくとも人は成長するだろ?」

ネロが至極当然といった風に言ってくる。


「……確かに、一理あるな」

納得しかけて、ふと、胸の奥に苦く苦々しい思い出がこみ上げてきた。


「まあ……あっちの世界でも、別の意味で毎日『戦って』はいたんだがな」

クレーマー・上司というモンスターたちと


「何だ?君は戦っていたのか?それは戦闘経験として記録されているのか?」


純粋な疑問を投げかけてくるネロに、俺は遠い目をして答えた。


「……もしこれが『戦闘経験』としてカウントされてたら、俺はちょっと泣くぞ」


少しずつだが、前に進んでいる。

そして。

俺は洞穴の前に立つ。


「そろそろ次の段階だな」


俺は周囲を見る。

今の場所は悪くない。

「家を作ろう」


ネロが少し目を細めた。

「創れるのか?」



「だが、いつまでも洞穴暮らしってわけにもいかないだろ?」

俺は空を見上げる。

知らない世界。

知らない場所。

それでも。

少しずつ、自分の居場所を作っていく。

「次は……拠点作りだ」


第8話を読んでいただきありがとうございます。


今回は朔の「生き残る力」が少し見えてきた回です。


責任者をやっていると、誰かに聞く前に「まず自分で何とかしよう」と考えてしまうことってありませんか?


気付いたら、

状況確認。

問題整理。

優先順位決定。


……仕事と同じことを異世界でもやっています(笑)


サラリーマン経験、意外と異世界でも役に立つのかもしれません。


これからも朔の生活がどう変化していくのか、楽しんでいただければ嬉しいです。


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