第25話 ヒトリノゲンカイ
あれから、二週間ほどが経った。
シグナの解析は、少しずつ進んでいた。
今では全てのパーツを分解し、再び組み立て直して、問題なく起動できるところまでたどり着いている。
もっとも、内部の構造を完全に理解できたわけではない。
各パーツの役割や接続関係はある程度把握できたが、肝心の部品そのものについては、まだ分からないことが多い。
無理に分解して壊してしまえば、元も子もない。
そのため、これ以上踏み込むことができずにいた。
「パーツ単体で売ってないかな……」
エドガーさんのお店では、シグナそのものは見かけたが、交換用のパーツまでは見なかった。
そうなると、専門店などで取り扱っているのだろうか。
そもそも、一般の人間が購入できるものなのかも分からない。
前の世界なら、店頭になくても通販で探せば見つかることがあった。
だが、この世界に通販なんてものはないだろう。
……いや、魔法を使った配送サービスくらいならあるのか?
考えてみても、今の俺には判断できない。
「また、外に出てみるか……」
シグナの解析だけでなく、魔力についても情報が足りていない。
毎日時間を決めて魔力を扱う練習を続けているが、どうにも手応えがなかった。
自分の中に魔力があることは分かる。
だが、それを思いどおりに扱えるかというと、話は別だ。
魔力が「ある」ことと、魔力を「扱える」こと。
この二つの間には、思っていた以上に大きな隔たりがあるらしい。
そもそも、俺が元いた世界では、魔法なんてゲームや空想の中の存在だった。
科学技術が発展した世界で生きてきた俺にとって、目に見えない力を感じ取り、それを自在に操るというのは、想像することすら難しい。
知識を集め、仮説を立て、実際に試す。
それが俺のやり方だ。
しかし、今回ばかりは独学にも限界があるのかもしれない。
「……誰かに教わった方が早いか」
ふと、そんな考えが浮かんだ。
アズールにはギルドがある。
エドガーさんの話では、シアーヌよりも栄えている場所らしい。
それなら、魔力の扱い方を教えてくれる場所や、訓練できる施設があってもおかしくない。
シグナについても、専門的な知識を持つ人間がいるかもしれない。
自分だけで何とかしようとするより、知っている人間に教わった方が効率的だろう。
……昔の俺なら、こんなことを考えただろうか。
仕事を抱え込み、自分で何とかしようとしていた頃。
誰かに頼るより、自分でやった方が早い。
そう考えて、目の前の仕事を片っ端から片付けていた。
その結果、どうなったか。
「……まあ、今さら考えても仕方ないか」
小さく息を吐く。
少なくとも今は、誰かに教えてもらうという選択肢が自然と浮かんでくる。
それだけでも、あの頃よりはマシなのかもしれない。
「よし! 行くか!」
思い立ったら、行動あるのみだ。
……と、勢いよく声を上げたところ。
「うるさいぞ。せっかく寝ていたのに、起きてしまったではないか」
近くで寝ていたネロから、さっそく苦情が飛んできた。
「ああ、すまん。また外に行こうと思う。今度はアズールに行ってみたい」
「……そうか。エドガーの話では、栄えている場所なのだろう?」
「ああ。この世界の情報も更新できるしな」
「それで、何をしに行く?」
「シグナのパーツを探したいし、魔力のことも学びたい。そろそろ一人じゃ行き詰まってきたからな」
ネロは少し考えるように、尻尾を揺らした。
「いつ行く?」
「そうだな。準備もあるから、七日後くらいかな」
「分かった。私も準備しておこう」
「……猫のお前が、何を準備するんだ?」
「色々だ」
「……?」
相変わらず、こいつの考えていることはよく分からない。
まあ、何か考えがあるのだろう。
「よく分からんが、頼むぜ」
「ああ」
こうして俺は、再び森の外へ出ることを決めた。
次の目的地は、アズール。
今度は一人で調べるだけではなく、誰かから学ぶことも考えながら、旅の準備を進めていこう。




