第21話 動作チェック致します
地獄の15連勤が終わりやっと更新が出来ました。
シグナを預かって二日目。
昨日は内部を確認し、外れていたケーブルを繋ぎ直したことで、無事に起動するところまで確認できた。
今日は、実際の動作確認をしてみる。
「パスワードはかかっていないようだな。可能な限り、動作チェックしてみよう」
俺はシグナを操作しながら、画面を確認していく。
現代のスマホなら、修理後は一通りの動作確認を行う。
画面。
タッチ操作。
ホームボタン。
カメラ。
スピーカー。
マイク。
通信。
その他、可能な限り確認していく。
問題は、このシグナが俺の知っているスマートフォンとは違うことだ。
画面を見ても、表示されているアイコンの意味が分からない。
「これは……何の機能だ?」
適当に触って壊すわけにもいかない。
そもそも、何ができる端末なのかすら分かっていないのだ。
そんなことを考えていると、
コンコン。
部屋の扉がノックされた。
「はい」
「高尾さん、エドガーです」
「どうぞ」
扉が開き、エドガーが入ってくる。
「進み具合はいかがですか?」
「ちょうど動作確認をしていたところです」
俺はシグナを見せる。
「おお……!」
エドガーの表情が明るくなった。
「もう起動できたのですね」
「昨日、内部を確認したらケーブルが外れていたので。そこを繋ぎ直したら起動しました」
「さすがですね」
「いや、似たようなものを扱った経験があったので。それに、今回は運が良かったです」
俺はシグナを眺める。
「ただ……」
「何か問題が?」
「動作確認をしたいんですが、そもそもこれが何をするものなのか、よく分からなくて」
そう言うと、エドガーは少し驚いたような顔をした。
「なるほど。高尾さんはシグナをご存じなかったのですね」
「はい」
「それでしたら、私が説明しましょう。私もシグナを持っていますし、商会で取り扱ってもいますから」
「……お願いします」
そう答えた瞬間、胸の奥に少しだけ引っかかるものがあった。
俺は、何でも自分で調べようとしていた。
分からなければ考える。
試してみる。
それでも分からなければ、また考える。
他人に頼る。
知っている人間に聞く。
そんな基本的なことが、いつからこんなに苦手になったんだろう。
この世界に来てから、知らないことばかりだった。
だからこそ、自分で何とかしなければならないと思っていたのかもしれない。
「まず、こちらが魔石です」
エドガーがシグナの内部を指差した。
俺は、元々カメラのパーツがある位置に居座っている透明な石を見る。
「魔石?」
「ええ。周囲の空気中にある魔力を少しずつ吸収して、内部に蓄えているそうです」
「それって……力を蓄えている、みたいなものですか?」
「近いと思います」
俺は、昨日見た透明な石を改めて眺める。
あれが、この世界でいう魔石。
そして、それがシグナを動かしている。
「この青い印は通信を行うためのものです」
「通信ですか。話せるのですか?」
「ええ。シグナにはそれぞれ固有の番号がありまして、その番号を使って相手と連絡を取ることができます」
なるほど。
やっぱりスマートフォンと似ている。
「通信を使う際には、自分自身の魔力を使うのです」
「自分の魔力を?」
「はい。魔石には持ち主の魔力を覚えさせることができまして、その波長と一致しない者は通信を利用できません」
「……なるほど」
俺は少し考える。
魔力を蓄える。
持ち主の魔力を記憶する。
通信には本人の魔力が必要。
「バッテリー兼SIMみたいなものなのか?」
思わず口に出してしまった。
「ばってりー……しむ?」
「いえ、こちらの話です」
危ない。
俺の世界の言葉を、そのまま説明しても伝わらない。
それにしても、この世界のシグナは不思議だ。
見た目はスマートフォンに近い。
けれど、その中身は俺の知っている電子機器とはまったく違う。
「ということは、魔力がないと使えないのか……」
「ええ。基本的にはそうなります」
「なるほど」
通信については、実際に誰かへ連絡してみないと確認できない。
それ以外の機能も、エドガーに教えてもらいながら一つずつ確認していく。
とはいえ、俺だけでは分からないことも多い。
やっぱり、知っている人に聞くのが一番早い。
「そうだ」
ふと、別のことを思い出した。
俺は自分の荷物を漁る。
取り出したのは、俺自身のスマートフォンだった。
「俺の端末は……さすがに電源は入らないかな」
「それもシグナではないですか?」
エドガーが興味深そうに覗き込む。
「これですか?」
「ええ。形が少し違いますね」
エドガーは俺のスマートフォンを手に取ることはせず、じっと眺めている。
「それに、そこにある三つの丸いものは何ですか?」
「ああ、これはカメラといいます。写真を撮るためのものです」
「カメラ?」
「ご存じですか?」
エドガーは俺のスマートフォンを眺める。
「またまた。あんなに大きなものが、この中に入るとは思えません」
「もし電源が入れば、写真も見せられるんですけどね」
そう言いながら、電源ボタンを長押しする。
……。
反応はない。
もう一度。
……。
やはり何も起こらない。
「駄目か」
俺は電源ボタンと音量ボタンを使って強制再起動を試す。
それでも、画面は真っ暗なままだ。
「体感半年以上、電源を切ったままだったからな……」
この世界に来てから、俺のスマートフォンはずっと眠ったままだ。
当然、バッテリーも完全に切れているだろう。
「すみません。充電が切れてしまって、電源が入りませんでした」
「じゅうでん……とは?」
俺にとっては当たり前すぎる言葉だった。
「えっと……簡単に言えば、電気を蓄えることです」
「電気を?」
「はい。この中にバッテリーというものがあって、そこに電気を蓄えて、それを使って機械を動かします」
エドガーの顔が固まった。
「電気をこの中に?」
「そうです」
「どうやってあんなものを?」
「え?」
「そちらでは、雷を創れるのですか?」
「雷……」
なるほど。
この世界では、電気そのものが一般的ではないのか。
「雷を創るというより……電気を作る方法があるんです」
「電気を作る……」
エドガーは信じられないものを見るように、俺のスマートフォンを見つめている。
「俺のいたところでは、電気は当たり前に使われていました」
「当たり前、ですか」
「はい。照明も、通信機器も。生活に必要なもののほとんどが電気で動いていました」
「それほどまでに……」
「電気が止まったら、大変なことになりますよ」
「なるほど……」
エドガーはしばらく考え込んだ。
そして、ぽつりと呟く。
「東の国は凄いのですね」
「……まあ、そうですね」
俺は曖昧に笑った。
東の国。
そんな国に住んでいたつもりはないのだが。
それを訂正する気にもなれず、そのまま話を終えた。
気が付けば、窓の外はすっかり暗くなっている。
結局、今日はシグナの基本的な機能を教えてもらっただけで終わってしまった。
アリアさんに声を掛けるのは、明日以降にしよう。
修理そのものは、昨日の時点で終わっている。
あとは実際に使えるかどうかを確認して、本人に返せばいい。
それよりも。
俺のスマートフォンを復活させられる可能性も、まだ残っている。
シグナの内部にあった、あの石。
魔石という、この世界独自の動力源。
あれがどうやって電力の代わりをしているのか。
それを理解できれば。
もしかしたら、俺のスマートフォンにも再び命を吹き込めるかもしれない。
こうして、異世界に来て初めての修理は終わった。
そして俺は。
この世界の技術を、少しだけ知ることになった。
継続で読んでいただいていた方また更新していきますので
よろしければ今後もお付き合いお願いします。




