第2話 いらっしゃいませ、いかがされましたか?
周りを見渡しても見えるのは白いもやがかかった光景。
「なんだこれ、疲れすぎて目がバグった?」
何度も目を擦るが、視界は白いままだ。
「……疲れ目が限界突破したか」
ズボンのポケットに手を突っ込み、愛用している人気ゲームコラボの目薬を探す。
「あれ?」
だが、指先に触れるものは何もなかった。
それどころか、いつも入っているはずの家の鍵も、会社の入館証もない。
「マジか……。一度店に戻って、ちゃんと休まなきゃ駄目だな」
現実的ではない。
そんなことは分かっている。
しかし、人間は理解できないものを前にすると、知っている原因へ逃げたくなるらしい。
脳が「この異常事態」をまともに解釈することを拒否し、必死に『ただの過労』という都合のいい言い訳を探していた。
『こちらへ来てください』
何処からか声がした。
どこか機械的に加工されたような、あるいは電波の悪い場所で通話しているかのような、ザラついた声。
某音声アシスタントを酷使したような、そんな無機質な響きだった。
しかし不思議と不快ではなかった。
声のする方へとりあえず歩く。
現状が現実なのか、それとも質の悪い夢なのかは分からない。だが、まずは自分が置かれている状況を分解し、理解するのが先決だ。
原因さえ分かれば、修理(解決)のやりようはある。大丈夫だ。
俺なら、できる。
……。
…………。
ごめん、俺には無理だった。
声のする方へ歩いた先。
そこに浮いていたのは、バレーボールほどの大きさをした、不規則に明滅する『光の球』だった。
物理法則を完全に無視した存在を前に、俺の理解力は綺麗にフリーズした。
そんな俺の困惑を置き去りにして、光の球が突然、声をかけてくる。
『すみません』
「いらっしゃいませ、いかがされましたか?」
職業病、恐るべし。
長年染み付いた接客ルーティンが、思考停止した脳より先に動いていた。
目の前にいる存在が何なのか。
なぜ自分はここにいるのか。
そんな疑問より先に。
俺は客対応を始めていた。
第2話を読んでいただきありがとうございます。
接客される側でも、つい「いらっしゃいませ!」って言ってしまうことありませんか?
朔くんは表向きは素晴らしい店長なので、長年染み付いた癖が出てしまったんでしょう。
私ですか?
……朔ほど完璧ではありません(笑)
ただ、接客業で経験したことや感じたことは、この作品の中に少しずつ入っています。
楽しんでいただければ嬉しいです。




